第19話 傷付いた女性同士
「アイリさん、ですよね?」
以前ハインリヒトと一緒に歩いていた女性に、私は声を掛ける。スゴく綺麗な女性だ。でも、どこか物悲しい雰囲気を感じる。
「もしかして、貴方がクレアラさん? 私に会いたい女性がいるって、アルソーさんの話していた……」
彼女は振り返り、私をじっと見つめる。品定めをする様な眼で私を見ている。警戒心の強い人の様だ。彼女を安心させる為に、私は笑顔で話し掛ける。
「えぇ、そうです。私がクレアラです。アルソーにお願いして、貴方とお話出来る様に機会を設けて貰ったんです。お会い出来て嬉しいです」
優しく話してみるが、私に対する彼女の不信感は消えない。
「なぜ、私なんかと会って話がしたいと思ったんですか? 理由を教えて頂けますか?」
いつでも逃げ出しそうな体勢を彼女は取っている。私は手を広げ、彼女の警戒を解く様にオープンな姿勢を取る。
「アルソーから聞いているかもしれませんが、以前私は貴方のいるパーティーに属していました」
「えぇ、知ってます。アルソーさんから伺ってます。魔法の力を無くされて、止む無くパーティーから外れた方がいたと」
「そうです。それが私です。今回、私が貴方とお話したいと思ったのは、ハインリヒトの事です」
私の言葉で彼女の眉が動く。明らかに嫌な顔をした。やはり、悩んでいるのは彼との事だ。私は確信を持って、話を続ける。
「単刀直入にお聞きします。ハインリヒトとお付き合いされてるんですか?」
アイリは目を見開き、私を見て来る。そして、しばらく考えてから重い口を開く。
「えぇ、付き合ってますよ。彼からは口止めされてたんですけど。もう、どうでも良くなっちゃったから、正直に言いますよ」
本音を言って少し気が楽になったのか、アイリの険しい顔が少し緩む。
「やっぱり……。ハインリヒトから付き合っている事を黙ってろって言われたんですね? そして、彼が貴方に対し、冷たい態度を取って来て、誰にも相談出来ずに悩んでるんじゃないですか?」
私は核心に迫る。アイリは驚いた様な表情を浮かべ、私をじっと見つめる。そして、彼女は目を閉じ、静かに応える。
「……。おっしゃる通りです。ずっと悩んでます。スゴく苦しいんです」
アイリの頬に一筋の涙が伝う。そして、彼女は目を開く。
「なぜ、クレアラさんはそれが分かったんですか? もしかして、以前ハインリヒトさんとお付き合いされていたんですか?」
アイリは私に詰め寄る。自分の気持ちを理解してくれる人が現れたので興奮している。私に対する彼女の警戒心が解けた。アイリの両肩に私は手を当て、彼女を落ち着かせる。
「場所を変えましょうか? こんな路地ではなく、どこかゆっくり話せる場所に行きませんか?」
私は冷静な口調で話す。その言葉でアイリも少し落ち着きを取り戻す。
「そうですね。私もクレアラさんとゆっくりお話がしたいです」
アイリは少し微笑みながら、私に応える。そして、私達は近くのカフェへと移動した。
* * * *
私達は街の外れにあるカフェに辿り着く。こぢんまりとしているが、オシャレな店だ。店内は女性客ばかりで、賑わっている。
ここならハインリヒトが来る事はないだろう。私はそう考え、アイリと同じテーブルの席に着く。
「オシャレなカフェですね? クレアラさんはこのお店、よく来るんですか?」
アイリが辺りを見回しながら、私に尋ねて来る。随分、私に対する警戒心が解けて、彼女はリラックスしているみたいだ。私は微笑みながら、アイリに話し掛ける。
「実は、弓の練習と薬の勉強ばかりしてたから、この店に初めて来るのよ。薬屋のお客さんから、このカフェの事を聞いて、来てみたいと思ってたから」
「そうなんですね。素敵なお店です」
アイリはそう言うと、運ばれて来たドリンクとケーキに手を伸ばす。私も同じ物を注文していたので、それを口に運ぶ。
「美味しい!」
二人で口を揃えてケーキに感動する。アイリとの心の距離も近くなって来た。そろそろかなと、私は真剣な顔をする。そして、私は大事な話を切り出す。
「さっきの話なんだけど、ハインリヒトとの事ね。私もハインリヒトの事が好きで、似た様な経験をした事があるから貴方の気持ちに共感が出来るの。私達の場合は付き合ってるとか、そういう関係までは、いってなかったんだけど」
私はあえて、魔法で過去に戻る前の話はしない。ややこしくなるからだ。ハインリヒトと付き合った為、結果アルソーが死んだ。だから、それをやり直す為に魔法で過去に戻った、などと言うと彼女が理解出来なくなるからだ。
「そうだったんですね。スゴイ的確な事を言われたので、ビックリしちゃって。クレアラさんも、ハインリヒトさんに冷たくされたんですか? 大好きな人に」
「うん、彼に酷い事も言われたし、無視もされたわ。だから、アイリさんの気持ちが分かるから、話がしたいと思ったの」
アイリは真剣に私の話を聞いている。私はそれを確認して、話を続ける。
「貴方に恋愛タイプの話をするわ。私もソーニアから聞いた話だから。それから、貴方自身の人生について考えて、答えを出して」
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