第27話 ドラゴンとの再戦
「やったわね、アルソー」
私は微笑みながら、アルソーに近付く。笑っている彼と視線が合う。ドキドキ感は相変わらずない。しかし、スゴく幸せな気分だ。しばらくの間、アルソーと見つめ合ってしまう。
その時、ドンという衝撃音が辺りに鳴り響く。私は驚いてその方向を見る。仰向けになっているハインリヒトが石畳を思い切り殴った様だ。そして、彼は私達を睨みながら、ゆっくりと立ち上がる。明らかに怒っている。私はそう感じてスゴく怖くなる。
「いい気になるなよ、アルソー。勝負は六階のボスの所だぞ。忘れるな、先に倒した方の勝ちだからな」
怒りの表情のハインリヒトはそう言って、アルソーを指差す。
「そんな勝負したくねぇよ。止めようぜ」
アルソーはなだめるようにハインリヒトに話す。スゴく困っているみたいだ。やはり、親友とは揉めたくないのであろう。恐らくアルソーの気持ちはそうだと思う。
「じゃあ、クレアラを俺によこせ。クレアラの事を諦めろ」
ハインリヒトはなおもアルソーに詰め寄る。私が二人を止めないと、そう思って踏み出そうとする。が、身体が動かない。
恐怖で身体が動かないのだ。私は恋愛タイプ不安型の人間だ。極端に人から嫌われる事を恐れてしまう。だから、彼等を止める事を躊躇ってしまう。止める事で愛されなくなる事を恐れているのだ。だから、私は二人を見ているだけになってしまう。
アルソーは下を向き、考えながら言葉をやっと発する。
「……それは出来ない。その事は後でちゃんと話し合いをしよう。今は塔の攻略に集中したい」
「そうだな、分かった。そうしよう。だが、どちらが男として上なのか、見せ付けてやる。ボス戦でキチンとな」
ハインリヒトはそう言って、プイッと前を向き歩き出す。勇者が行ったのを確認して、アルソーは私の方を向いてニコリとする。
「丸く収める為に俺が何とかする。だから、お前は気にすんな」
アルソーの言葉は、いつも私に安らぎを与えてくれる。本当に頼りになる人だ。
「そうやって良い人過ぎるから、あんまり女の子にモテないのよ。アルソーは結構損してるわよ」
「な……」
アルソーを少しからかってみる。私の言葉で彼は固まって考え込んでいる。
「ハインリヒトが行っちゃうわよ。いいのかしら?」
ソーニアが冷たい目で私達を見ている。こんな所で無駄話しないでよと言いたいみたいだ。私達もその言葉で前を向き歩き始める。
しばらく進むと、重厚な大きな扉が見えて来る。この場所も覚えている。六階のボスの間の扉だ。この奥にドラゴンがいる。あの時の緊急感が私の身体を支配する。
「みんな、気を付けて。今までの相手とは格が違うわ」
全員の表情が変わる。あのハインリヒトでさえも少し緊張をしている。やはり、アルソーが殺されていると言う話は衝撃的だったみたいだ。
ハインリヒトとアルソーが扉に手を掛ける。二人が重たい扉を力いっぱい押し開ける。ゴオオオという重い低い音が辺りに響く。身体の芯まで震え上がらせる、そんな音だ。
「みんな、行くぞ」
ハインリヒトの声で、ボスの間の中へと私達は歩を進める。他のボスの間と同様に石畳と石柱があるだけの広間だ。冷たい重苦しい空気が私を襲う。前に来た時よりも恐い。アルソーを失った時の記憶が蘇る。
奥へ進んで行くと、あの時のドラゴンの姿が現れる。絶対に仲間を死なせない為に、私はみんなに声を掛ける。
「みんな、私の指示に従って。私は奴と対戦した事がある。絶対に勝利に導くから、お願い」
アルソーとソーニアはコクリと頷く。しかし、ハインリヒトは下を向き、納得していない顔をする。
「アルソー、勝負だ! 先に倒した方がクレアラを手にするんだぞ!」
ハインリヒトはそう叫び、飛び出して行く。私の静止する声も聞く気がない。私は腰に付けてある鞄から薬を取り出し、アルソーに手渡す。
「アルソー、この薬は炎の耐性を強化してくれる物なの。飲んで。そして、ハインリヒトを死なせないで」
アルソーは無言で頷き、薬を飲み干す。そして、ハインリヒトの後を追い掛ける様に走り出す。私とソーニアもその炎耐性の薬を飲む。ドラゴンの炎は遠距離攻撃だ。後衛の私達も油断は出来ない。
ハインリヒトが剣を抜き、ドラゴンの目の前まで迫る。ドラゴンの右手の爪が勇者を襲う。
「ソーニア、ドラゴンの右手に雷撃を! ハインリヒトではあれは防ぎ切れない」
隣のソーニアの呪文の詠唱が終わり、雷撃の魔法が完成する。雷撃は球体の形をしながら、ドラゴンへと放たれる。ドンという爆発音が広間に轟く。雷撃の魔法がドラゴンの右手に直撃したのだ。ハインリヒトもその爆風で飛ばされる。
「危ないだろ、ソーニア! 俺に当たる所だったぞ!」
ハインリヒトはこちらを向き、叫んでいる。
「文句が言えるくらいだから大丈夫そうね。良かったわ」
ソーニアが私にボソッと言葉を漏らす。そうねと私も相槌を打つ。
ドラゴンがこちらを睨んでいる。ハッキリ言って、今の魔法はまるで効いていない。改めて強敵だと、私もドラゴンを睨み返す。
「ハインリヒト、一度こちらに戻って来て。炎耐性の薬を飲んでよ」
私は無謀な勇者に向かって叫ぶ。ハインリヒトはチラリとこちらを向き、叫び返す。
「ふざけるな! 今、そっちに戻ればアルソーに手柄を取られるかもしれない。俺がこいつを倒す!」
勇者ハインリヒトは剣を構え、ドラゴンを見据える。その隣にアルソーが辿り着き、戦士も槍を構える。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます