第16話 ただ今、修行中

 私がパーティーを追放されてから、二ヶ月の月日が流れた。


  あの日から色んな武器を試してみた。攻撃参加する回復士になる為に、あのパーティーに戻る為に、私はただ必死だった。剣や槍は非力な私では上手く使えない事が良く分かった。だから、私は弓を選択した。


「なぁ、クレアラ。弓の練習をずっとしてるけど、一つも当たらねぇな。やり方が悪いんじゃねぇのか?」

 フラッと私の家に遊びに来たアルソーが私に告げる。


  家の庭に的を設置して、それを十メートルくらい離れた場所から弓矢で射る練習を私はしている。それを暇なアルソーが来て、見ているのだ。


「うるさいわね。邪魔しに来たなら早く帰ってよ」

 私はイラッとして彼に言い返す。


「新しいメンバーが決まるまで、待機で暇なんだよ。だから、見ていてもいいだろ?」


  アルソーはブスッとした顔で私に返す。そうなのだ。ここ最近、彼はほぼ毎日私の所へ来ている。こちらはやる事が多くて忙しいのだ。他にする事はないのかと怒鳴りたくなる。


「アルソーは弓は使えないの? 上手いのなら教えてよ」

「あ、無理。俺も弓は下手くそだから。だから、見てるだけしか出来ねぇ」


  彼の返事に私はげんなりとする。ホントに邪魔しに来ただけなのか。私はイライラしながら、また弓を構え矢を放つ。しかし、矢は的には当たらない。 何十回、何百回と毎日練習しても全く当たらないのだ。自分の才能の無さに悔しさが込み上げて来る。


  私は今まで魔法の習得しかして来なかった人間なのだ。失った魔法の代償の大きさを改めて思い知らされる。 でも、諦める事は出来ない。私は一度、人生のやり直しをしているのだ。落ち込む気持ちを再び奮い立たせる。


「だから、やり方を変えたらって言ってるだろ?」


  またアルソーが横からうるさく言って来る。ホントに腹が立つ。彼が私の事を心配して言ってたとしてもだ。私はアルソーを睨み付け言い返す。


「もう、今日はおしまい。だから、アルソーも帰りなさい」

「あ、そうそう。明日からはちょっと忙しいから、来れなくなりそう。新メンバーと明日から塔の探索なんだって。ハインリヒトが言ってた」


  アルソーは淡々と重要事項を私に話す。その事実を訊き、私は呆然とする。


 私のポジションを取られしまった。ここ数ヶ月、覚悟はしていた。でも改めて、その現実を突き付けられるとショックを受けてしまう。


「練習を再開するわ」


  私は再び弓矢を取り、的を睨み付ける。そして、矢を放つ。矢は相変わらず当たらない。アルソーはそんな私の様子を見て、恐る恐る私に訊ねる。


「本気でうちのパーティーに戻って来るつもりなのか?」

「もちろん、当たり前でしょ。必ず、あのパーティーに返り咲いてみせるから。ハインリヒトにもそう伝えといて」


  私は弓の練習を行いながら、アルソーに応える。アルソーは複雑そうな顔をして、我が家を後にした。



* * * *



  もう一つのスキルの獲得の候補、薬学の勉強も平行して私は始めていた。苦手な弓の練習よりも、こちらの方が私は得意分野であった。ドンドン本から薬の知識を得ていた。


  そして、より高い知識と技術の習得の為に、この街の薬屋で務める事にした。仕事の内容は主に薬の販売と調合だ。


  白髪で白髭のお爺さんの薬師が、その薬屋にはいた。私はその人に弟子入りする。スゴく厳しい師匠だ。新人の私に対し、容赦なく罵声を浴びせて来る。場合によっては薬の器なども私に投げ付けて来る、怒りっぽい人だ。他の人が耐えかねて辞めて行っても、私は歯を食いしばり我慢した。私には後がない。そんな覚悟でお爺さんから薬の技術を教えて貰う。


  すると、何時しか少しずつ師匠からの信頼を得る事が出来る様になった。少しずつ一人前の薬師に私は近付いて行った。



* * * *



  この二つのスキルの習得に私は集中した。午前中はひたすら弓の練習をする。アルソーに言われて以来、やり方を変えてみた。彼の言う通りにするのは、抵抗があったのだが、そうも言ってられない。


  やはり、弓の名手から教わると上達が早いのは感じていた。狩人の知り合いから、私は教えを受けた。


  しばらくすると、矢が的に当たる様になった。上達している。私は嬉しくなり、弓の練習にも力が入る。一日に何百回とひたすら練習をする。


  午後からは薬屋で販売をしたり、調合をしたりした。薬屋の店頭に立っていると、この街の人達とも顔見知りになって来る。


  そう言えば、冒険者として塔の探索をしている時は、そんな人との交流があまりなかったなと、ふと感じる。意外と接客とか向いているかもと自分の新たな一面を見つけたりもする。


  調合の方も技術が上がっている。ポーションよりも更に回復力の高い薬の開発も出来る様になった。 これなら、回復魔法の代わりになる。そんな所まで、薬の知識、技術が上がっていると日々実感する。


 順調に私はレベルが上がっていた。以前の私よりも格段に冒険者として有能になっていたのだ。


  そんな中、またアルソーが私の元へと様子を見に来る。 その時に彼から衝撃の事実を告げられる。


  新しく入ったパーティーのメンバーは、優秀な回復魔法使いであること。


  そして、その回復士は若くて美しい女性であることだった……。


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