第17話 新メンバーの女性
「ねぇ、アルソー。新しく入ったメンバーの事をもっと詳しく教えて」
回復魔法使いで若い女性。ライバルとなる女性の情報がもっと欲しい。私はアルソーに詰め寄る。
「いや、俺も会った事ないし。ハインリヒトが新メンバーの選考を全部やってたから、俺もほとんど知らねぇよ」
アルソーは私の勢いに押されたので、驚いた顔で答える。
ハインリヒトだけの選考……。若い女性……。
嫌な予感が私を支配する。
「ありがと、アルソー。また詳しい事が分かったら教えて」
私はアルソーに手を上げてお礼を言うと、また弓の練習を始める。アルソーは、あぁと小さく応え、何か考え込む様な表情をする。
「あんまり、無理するなよ。じゃ、俺もそろそろ帰るわ」
アルソーはそう言うと、私の家を後にする。帰って行く彼の後ろ姿をしばらく見つめ、私はじっと考える。
やるしかない。やらなければ、あの場所には帰れない。
私は新たに覚悟を決め、弓の練習をひたすら行った。
* * * *
その夜、私はベッドに座り、独りで考え込んでいた。自分の過去の事をぼんやりと思い出す。
私には両親と過ごした記憶が一切なかった。赤ん坊の頃に、孤児院の前で私は両親に捨てられていたらしい。だから、私は孤児院で育てられた。親の愛情を全く知らずに。
私にとって、誰かに愛される事は非常に重要な意味を持った。私は愛に飢えていた。誰かに愛して貰いたかった。私の存在を認めて欲しかった。とにかく誰かに必要とされたかったのだ。
だから、私は魔法を必死で頑張って来た。みんなが才能があると私を褒めてくれた。単純に嬉しかった。
結果を出せば注目をされるし、必要とされる。
回復魔法使いになったのは、そんな理由からだ。傷を治したり、ステータス異常を元に戻したりすれば、人からスゴく感謝され喜ばれる。私にとって天職であった。
この承認欲求の強さが、私を恋愛タイプ不安型にしたのかもしれない。誰かに愛してもらわなければ、怖くなるのだ。
だから、恋愛タイプ回避型のハインリヒトに私はドンドン惹かれて行ったのだろう。拒否されたり、冷たくされると余計に気になり始める。
私の何がいけないのか、なぜ私から遠ざかろうとするのか。怖いから余計に離れられなくなるのだ。
そういう事からかもしれないが、恋愛タイプ安定型のアルソーには、不安に似たドキドキの感情を持った事は一度もない。良い意味では安心していられる関係なのだが、逆を言えば何も刺激がない。つまらないと感じてしまうのだ。
だから、私はアルソーではなく、ハインリヒトを選んで愛してしまったのだ。このドキドキの感情が恋愛感情だと信じて。
どちらを選べば自分が幸せになれるのか、冷静に、論理的に考えれば分かるのだが、恋愛と言うのはそんな単純な物ではない。
頭では分かっているのだが、ハインリヒトの事が忘れられない。また同じ様にハインリヒトを追い掛けている。
最近、そんな事ばかりを考えてしまう。今夜もそんな事を思いながら、私はベッドの上で横になる。
今日はキチンと眠れるだろうか。眠れない夜が続く。私はボーッと天井を見上げて、また考え込んでいた。
* * * *
私がパーティーを追放されてから、十ヶ月の月日が流れていた。時が経つのはホントに早いなと、日々感じる。
弓の練習と薬の勉強を、私は引き続き行っていた。この二つのスキルを伸ばす事が、パーティーに戻る最前の手段だと私は信じて突き進んでいた。
そんな、ある日のこと。
勤めている薬屋から、私が帰宅している最中の出来事であった。
夕暮れ時、街中は行き交う人々で混雑していた。みんな早足で帰路に就いている、そんな街の風景の中を私は歩いていた。
見知らぬ人達の往来を見ながら帰っていると、私の眼前に衝撃の光景が飛び込んで来た。
ハインリヒトだ。ハインリヒトが隣に女性を連れて歩いている。隣の女性は若くて綺麗な人だ。
私は驚いて、サッと建物の影に身を隠す。どうやら、向こうは私の事に気付いていないみたいだ。
実のところ、アルソーからパーティーの新メンバーについて、私は情報を得ていた。どうしても、その女性の事が知りたかったからだ。たびたび私の家に顔を出しているアルソーから、彼女の話を私は聞き出していた。
新メンバーの女性の名前はアイリと言うらしい。年齢は私よりも二つ年下、職業は回復魔法使いと言う事だ。
かつて私が回復魔法使いだった時のレベルよりも、彼女は遥かに低いと言う事を聞いた。だから、私は安心をしていたのだ。
その子の代わりに私はパーティーに戻れると――――――。
建物の影からハインリヒトに見つからない様に、隣の女性を観察する。茶髪でセミロング、服装は白のワンピースを着たオシャレな感じの女性だ。
顔もスタイルも、誰もが認める程の美形だ。正直、私よりもカワイイ。自分が彼女にルックス面で劣っている事を認識させられる。
二人がくっついて並んで歩いている。かなり親密な感じだ。
間違いない。この二人は付き合っている――――――。
女の勘が私にそう告げる。
かつての恋人を自分よりも若くてカワイイ子に奪われた、そんな感覚に私は陥る。
しかし、今の私はハインリヒトと付き合った過去はない。付き合っていたのは、ソーニアの魔法で過去に戻る前の私なのだ。
しばらく、私は呆然と二人を見ていた。
そして、天を仰ぎ一人でトボトボと私は家へと帰った。
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