第15話 追放とスキル

 愛するハインリヒトから戦力外通告を私は受ける。頭が真っ白になる。まさに呆然という言葉は、こういう事を言うのであろう。 魔法を失ったショックも癒えていないのに、その上パーティーから追放される。最悪だ。最悪の状況だ。


  衝撃の展開が重なり過ぎて涙も出て来ない。感情が追い付いて来ないのだ。


  ダメだ。いけない。このままではきっと後悔する。私は何とか自我を取り戻し考える。何の為に過去に戻って人生をやり直しに来たのだ。


  目的を思い出せ。自分を奮い立たせ、私は反論する。


「嫌よ! お願い、ハインリヒト! このパーティーに置いてちょうだい! 何でもするから」


「ダメだ。足手まといになる。君はもう、いらない」


  ハインリヒトは蔑む様な目で私を見る。彼に何を言っても無駄だ。私はそう感じ、他の仲間に助けを求める。


「アルソー、ソーニア。貴方達からもハインリヒトに何か言ってよ。私、クビになりたくない」


 私の言葉で彼等はうつむく。二人の反応を見て、自分が擁護して貰えない状況である事を私は悟る。


  力を持たない者が塔に登る事は自殺行為なのだ。あの場所は戦場だ。力を持たない者は確実に死が訪れる。

 それに、その者だけ死ぬのではない。同じパーティーの仲間の命も危険に晒してしまうのだ。三人が冷たい態度でも仕方がないことなのだ。


 頭では理解しても、感情がそれを受け入れる事を拒む。彼等に迷惑が掛かるから、一緒にいられない。でも、彼等と離れたくない。相反する気持ちがぶつかる。


「クレアラ、一緒に塔に登らなくても俺達は仲間だから」


 悲しげなアルソーが言葉を選び、それを伝える。私は一筋涙を流し、唇を噛む。


「……分かったわ。今までありがとう。塔の攻略、頑張ってね。それじゃ」


  私は彼等に背を向け、ゆっくりと離れて行く。涙が止まらない。気が付けば、雨がシトシトと降っている。私は力無く、その雨を受けて空を見上げる。そして、再び重い足を動かし、仲間達の元を去る。


  こうして、私は長い間宿泊していた宿屋を後にした。



* * * *



 数日後、私はこの街の外れにある家を借りた。庭付きの一軒家だ。家賃が安いだけあって、かなりボロボロだ。木の造りの床や壁は傷んでいて、家具なんかは埃まみれだ。 私は気持ちを切り替えて、この家で住める様に掃除を行っている。


 落ち込んでいる場合ではない。あの日からずっと泣いて気持ちは整理出来た。やるべき事は見えている。私の拭き掃除に力が入る。必ずあのパーティーに戻る。私はそう決断した。


  魔法はもう使えない。なら、魔法以外のスキルを伸ばし、認めて貰えれば戻れるのではないか、私はそう考えたのだ。 だから、ここで一軒家を借り、新しいスキルを身に付ける。その為のお金の事を私は考える。


  一応、この国のトップパーティーの一員だったのだ。塔の探索で得た宝物や道具を多少なりとも所持している。これ等を売れば、しばらくは生活に困らないはずだ。

それに新しいスキルを身に付ければ、その力で報酬を得る事が出来る。私は何を始めようか色んな可能性を思考していた。


  回復魔法の代わりの何かスキルが欲しい。そうなれば、やはりポーションなどを扱う薬学の知識であろうか。


  ある程度、生活出来るレベルまで掃除が終わったので、私はテーブルに向かい紙とペンを取り出す。そして、これから先の事を紙に書き出して行く。


  今まで武器の扱いには全く興味がなかったが、これからはそうはいかない。攻撃も立派にこなす、回復士になろうと私は心に誓う。武器は何がいい。自分に合うモノを思い付く限り書き出す。剣、槍、斧、弓、杖、その他の飛び道具。試してみなければ、どれがいいか全く分からない。私はふぅと溜め息をつく。


  アルソーが死んで、ハインリヒトにフラレたあの未来よりも今の方が幸せなのかなと、ふと思い始める。もしかしたら、やり直さない方が私にとって幸せだったのではという考えが頭をよぎる。


  そんな事を考えてテーブルに向かっていると、ドアをノックする音が聞こえる。誰にもこの家の事を話してないのに、そんな事を思いながら来客が誰なのかを窓から確認する。


  訪れて来たのは、アルソーであった。


「めちゃくちゃ探したんだぞ。お前がどこ行くか言わなかったから」


  私がドアを開けると、彼は汗だくで私に文句を言って来た。


「クビになった私の事なんかどうでもいいでしょ? どうしたの? 何か用なの?」


  冷たくアルソーに対応する。クビ宣告を受けてから時間があまり経っていない。私だってどう対応したら良いのか分かってない。複雑な気持ちなのだ。


「心配だから見に来たんだよ。悪いのかよ?」


 アルソーはふてくされて応える。そんな彼に私は微笑んでしまう。単純に嬉しかった。誰かに自分の事を気にして貰えてスゴく嬉しかったのだ。


「ありがと、アルソー。お茶でも飲んで行く?」

「いや、今日はお前の事が心配になって見に来ただけだから遠慮しとくよ。ここで住むのか?」


「うん。魔法が使えなくなったから、どうやって生活していこうかなって考えていたの」

「そうか。何かあったら俺に言って来いよ。いつもの宿屋にいるからさ。力になるよ」


「ありがと。でも、塔の探索は? そっちは忙しくないの?」

「お前が抜けたから新しいメンバーが入るまで、宿屋で待機だってさ。回復役がいないとあの塔の上を目指すのは危険だからな」


「そっか……」


  新しいメンバーの募集をしている事を知り、私は寂しく思った。そして、スゴく悔しかった。


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