第11話 彼は貴方が好きだったけど

  私達三人は何とか塔を降りる事が出来た。みな無言で歩き続ける。とりあえずリーダーのハインリヒトは宿屋に向かっている様だ。私とソーニアはグッタリとしながらそれに付いて行く。


  私とハインリヒトは静かに泣いていた。ソーニアは涙こそ見せなかったが、悲しそうな顔でうつむいて歩いていた。


「何で、何でこんな事になったんだよ……」


ハインリヒトがポツリと、かすれるような声を出した。その言葉に誰も応えようとはしない。私とソーニアはうつむいて、ただ歩いている。


「答えろ、クレアラ! 君がボーッとしていたから、アルソーはあんな事になったんじゃないのか!」


ハインリヒトの罵声が私の心をえぐって来る。私は歩くのを止め、その場に立ち止まる。


「そうね、私のせいね。アルソーじゃなく、私が死ねば良かったのにね」


私は素直に思った事を口に出す。何故、私なんかをかばって死んじゃったの。貴方は死ぬべきじゃなかったのに。そんな言葉が脳裏を反すうする。そして、私は押し殺していた感情をぶちまける様に、声を上げて泣き出す。


「泣いてもアルソーは帰って来ないんだぞ! もう、いい! もう、いいよ。君達の顔は二度と見たくない。このパーティーは解散だ。そして、クレアラ。俺は君と別れる。二度と俺の前に現れるな」


ハインリヒトは私達を睨み、足早に去って行く。私とソーニアは彼の後ろ姿を無言で見ていた。


そして、私は思った……。

私は全てを失ったんだと……。





 私とソーニアは宿屋に戻り、翌日の朝を迎えた。夕べは一睡も出来なかった。 もう、生きていても意味がないのかもしれない。そんな事を思い始める。


 私はベッドから身体を起こし、ボーッと窓の外を眺めていた。すると、ドアをノックする音が聞こえる。私は重い身体を引きずるように起こし、ドアを開く。訪ねて来たのはソーニアだった。彼女は部屋に入るや否や私の腕を掴む。


「貴方、変な事を考えてないでしょうね?」

「え、変な事って?」

「自ら命を絶つ事よ」


 ソーニアが私の目を睨む様に見てくる。私の心の中を覗いているようだ。私は嘘を付いても仕方がないので、本音を漏らす。


「もう、生きてても仕方ないわ。疲れたのよ。色んな事に振り回されて、悩み続ける事にね。それに、ソーニアには、関係ないでしょ? パーティーは解散したんだし、私が死のうが生きようがどうだって」


 私は溜め息を付き、ベッドに座り込む。彼女は私を見下ろす様に視線を向けて、うんざりしたような感じで話す。


「確かに私はそういうの関心がないから、どうだっていいけど。ただ、貴方の代わりに死んだアルソーが浮かばれないなと思って」

 

  私はアルソーの名を聞いて、ソーニアの顔をハッと見返す。いつも冷静な彼女が少し怒っている様に見える。とは言え、私ばかり責められるのは理不尽だと感じ、私は感情的に言い返す。


「代わりに死んでって、私が頼んだ訳じゃない。彼が勝手に私を助けたんでしょ。私は死んでも良かったのに。何でアルソーは私なんか助けたのよ?」


「貴方、まさかアルソーの気持ちを知らなかったの? 普通、何も想っていない異性を命を懸けて助ける訳ないでしょ」


「え……」


「アルソーは貴方の事が好きだったのよ。だから、身を挺して助けたんじゃない」

「だって、彼は一言も私に好きだと言ったことないし、そんな素振りも見せなかったわよ」


「それは、貴方がハインリヒトの事が好きだったからでしょ。ハインリヒトはアルソーの親友。だから、アルソーは自分の気持ちを押し殺して、身を引いてたんじゃないの」


 私は驚愕の事実を突き付けられ呆然とする。そして、再び涙が溢れて言葉を漏らす。


「そんな、そんな事って……」


 ソーニアは、やれやれという表情を見せ、溜め息を付く。彼女は私を諭すようにゆっくりと話す。


「アルソーは恋愛タイプ、安定型。つまり、恋愛タイプ、不安型の貴方と相性が合うのは彼だったのよ」


「何を今更言ってるの! もう、彼は死んだのよ! 私と相性が良かったと言われても、どうしようもないでしょ! それとも何? 相性の悪いハインリヒトばかり追い掛けて、馬鹿な女だと言いたい訳? だから、アルソーは死んだって、報われない死に方をして可哀想だって言いたいの?」


  私はソーニアの言葉に怒り、叫び出す。私の選択が馬鹿だったと遠回しに言われているようで、感情が押さえ切れなくなったのだ。私はソーニアを睨み、グッと唇を噛む。


「確かに、そうだと思うわ」


 ソーニアは歯に衣を着せぬ言い方をする。私は飛び上がり、彼女に掴み掛かろうとする。しかし、彼女はサッと交わし、私はその場につまずき倒れる。


 彼女が倒れている私を見下ろして来る。私は自分が情けなくなり、うつ伏せになって号泣する。


「ホントに情けなくて惨めね。まだ貴方、死にたいと思ってるの?」

 ソーニアは呆れた声で話す。私は悔しくて拳を握り締め黙っている。


「もし、死ぬ気があるくらいの覚悟が貴方にあるのなら選択肢があるわ」

 彼女は重い通る声で話す。


「人生をやり直す事が出来るとしたら、貴方はチャレンジしたい? かなりの代償を払わないといけないけど」



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