第8話 不安型と回避型の衝突
「約束が違うぞ、クレアラ! どういうつもりなんだ!」
ハインリヒトの罵声が部屋中に響き渡る。私はアルソー達に恋愛相談した事を彼に打ち明けた。
彼はその事で怒り狂い、かなり動揺している。そして、ベッドの上に座り込み頭を抱える。
「信じられない。何でそう簡単に約束を破る事が出来るんだ。ふざけるなよ。何故、喋ったんだ?」
彼は私を睨み付ける。こんなに怒っている彼を見たのは初めてだ。そんなに怒る事なのか。私は自分のした事が間違っているとは思えず、激しく反論する。
「私達の関係を良くする為でしょ! 絶対、あの二人には知っておいてもらった方がいいわ。何で付き合ってる事を隠そうとするの? やましいことなんて何もないでしょ? 何でよ?」
「先に俺の質問に答えろ! 約束を破っておいて、関係を良くするだと? 俺に対する裏切り行為だろ? 納得出来る理由を言え!」
話にならない、私は彼をじっと見ながら涙を流す。何故、分かってくれないのだ。私は涙を拭い、自分が引かなければならないと、諦める。
「ごめんなさい、約束を破った事は私が悪いわ。でも、貴方との事を大切にしたいから、二人に相談に乗ってもらったの。お願いだから、許して」
私はまた泣きながら頭を下げる。
「許す事は出来ない! 出て行ってくれ! もう、君と話す事はない!」
ハインリヒトは立ち上がり、自室のドアを開ける。止まらない涙を拭いながら、私はしぶしぶ彼の部屋を出る。
何がいけなかったのか分からず、泣きながらアルソーの所へと向かう。そして、彼の部屋のドアを激しくノックする。
アルソーは何事かと、慌ててドアを開けて私を訝しげに見る。
「何だ、お前かよ? ビックリさせるなよ。ってか、お前、何泣いてんだよ? 何があったんだよ」
「アルソー、話があるの。貴方の部屋に入れてくれないかしら?」
「は、俺の部屋? ダメだ! お前、ハインリヒトと付き合ってんだろうが。変な誤解を招いたら、俺が困る。外の庭へ行こう」
彼はそう言うと部屋から出て、私を宿屋の庭へと連れ出す。
外はとてもいい天気だ。本来なら、太陽の光とそよ風がとても気持ちが良いはずなのだが、私のどんよりとした心はそれを受け付けない。
私とアルソーは庭の手頃な岩に腰を掛ける。
「どうしたんだよ? ハインリヒトと何かあったのかよ?」
アルソーは心配そうに私に声を掛ける。
「うん。貴方とソーニアに恋愛相談したのが、彼は気に食わなくて、喧嘩になっちゃったの」
私は彼と喧嘩になった経緯を詳細に話す。彼は険しい顔をしながら、うんうんと頷きながら聞いている。
「なるほどな。まぁ、意見の食い違いなんかはよくある事だ。俺からアイツに話しとくから、そんなに落ち込むな。ま、俺で何とかなるかどうか分からねぇけどな」
「うん、ありがと。アルソーはホントに優しいね。アルソーに相談して良かった」
「そう言うのは、良い結果が出てから言え。期待しないで待ってろ」
アルソーはそう言うと、宿屋の部屋へと戻って行く。私はそんな彼の後ろ姿を見つめながら、考え込んでいた。
これから、ハインリヒトとの関係がどうなるのか、今の私は不安で仕方なかった……。
*
今日の塔の探索は取り止めとなった。やはり、私が彼との約束を破った事が影響したのであろう。リーダーのハインリヒトが今日の冒険を中止したいと、皆に申し出をしたのだ。
アルソーは私との事もあり、ハインリヒトを宿屋の庭へ呼び出し、彼と話をしている。私は会話の内容が気になり、隠れてその話を盗み聞きする。
「なぁ、ハインリヒト。クレアラから聞いたんだけど、お前ら付き合ってんのか?」
アルソーは気を使いながら、ハインリヒトに話を切り出す。私は見つからない様に、ドキドキしながらその話に聞き耳を立てる。
「あのオシャベリめ、ホントに頭に来る。あぁ、一応付き合ってるよ」
ハインリヒトは明らかにイライラしながら、アルソーに答える。彼はかなり私に怒っている。私は泣きそうになりながら、うつむき彼等の話に耳を傾ける。
「いや、他人の恋愛だから、俺がとやかく言う事もないんだけどな。ちょっとお前、クレアラに冷たくないか?」
「そうか、俺は普通にしてるつもりなんだけど、そう見えるか?」
ハインリヒトはアルソーに淡々と答える。あれが恋人に対する接し方なの。彼と自分との考え方の違いに、私は戸惑う。
「いや、普通じゃねぇよ。他人から見たらお前ら、喧嘩してる様に見えるよ」
「確かに、言われてみれば、思い当たる事はある。正直な所、クレアラと俺は合わない。それでかなりイライラしてたのかもしれない」
「合わないって、例えばどんな風に?」
「クレアラはいつも俺と一緒に居たがる。でも、俺は一人で過ごす時間が必要なんだ。でも、彼女は自分の気持ちを押し付け、理解してくれない。俺との約束も軽々しく破るし、考え方が合わないんだ。正直、別れたいと思う」
ハインリヒトは溜め息を付き、疲れた表情を見せる。私は彼の別れたいと言う言葉に呆然とする。
「俺は二人には仲良くしてもらいたいけどな」
アルソーは悲しそうな笑みを浮かべ、ハインリヒトの方をチラリと見る。
「今のままでは、俺は彼女に束縛されてるみたいで、息が詰まりそうだ。正直、もう無理だ。お互いの為に別れるのが、きっと幸せなんだ」
ハインリヒトは独り言を言う様に、言葉を漏らす。私は彼のその言葉で、うずくまるように静かに泣いた。
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