第4話 秘密の恋の始まり

私達四人は、ダリアの塔の攻略を再開する。前回の探索で五階のボスを倒したので、今回は六階からのスタートとなる。


「初めて出逢う魔物もいると思うから、みんな気を付けろ」

リーダーのハインリヒトが、皆に注意を促す。私は恐る恐る、周囲を確認し塔の通路を進む。


もう、ここは六階だ。初めて足を踏み入れる場所なのだ。自然と緊張感が高まる。私を危険から守ってと、愛する彼氏に熱い視線を送る。

しかし、愛するハインリヒトは私の気持ちを無視するように、先頭をただひたすら歩いて行く。戦士アルソーがそれに続く。私と魔法使いのソーニアは、後方を遅れない様に歩いている。


塔の中の窓際の通路をゆっくりと進む。窓から風と光が入ってくる。その為に室内でも、明るく快適だ。ボスの間の閉鎖された空間とは大違いだ。


そんな事を考えて歩いていると、通路を曲がったその角の先から物音が聞こえる。

不気味な音だ。シュルシュルと言っている。


何かがその角の向こうにいる。魔物か。私達は警戒心を強める。と、その時、曲がり角の見えない所から、何かが飛び出して来る。


来た――――。

私は咄嗟に身構える。


すると、先頭のハインリヒトをかばう様に、二列目のアルソーが飛び出す。カンと槍と固い物がぶつかる音が、塔内に鳴り響き、飛んで来た影を弾き飛ばす。


私はその影を、敵を確認する。


蛇だ。かなり大きい黒い蛇だ。蛇がアルソーに向かって噛みついて来たのを、彼は槍で防いだのだ。蛇はこちらを睨みながら、チョロチョロと舌を出している。


「ブラックパイソンね。猛毒を持ってるわ。噛まれて毒が回ると、死ぬわよ」

知識量豊富なソーニアが、魔物を見極める。言い方が相変わらず、淡々としている。もっと他に優しい言い方は出来ないのかと、いつも思ってしまう。


すると、角から別の黒い蛇達がはい出して来る。一匹だけじゃない。群れで行動している。

私達は蛇達と距離を取る為に、後方へと下がる。


数は、全部で四匹。黒い蛇達は今にも私達に襲い掛かりそうな勢いで、威嚇して来る。


「ソーニア、奴等をどうやって倒したらいい?」

ハインリヒトが正面の蛇達に注意しながら、後ろのソーニアに話し掛ける。


「頭よ。頭を潰して」

ソーニアは即座に答える。かなり厳しい表情をしている。強い魔物だと、私も雰囲気で分かる。


勇者ハインリヒトは背中に背負っている剣を抜く。アルソーは勇者の前に立ち、槍を構える。

黒い蛇の一匹が、牙を剥き出し、先頭のアルソーに襲い掛かる。槍の戦士は冷静に敵の動きを見定める。


シュッと風を切る音が辺りに響く。と、同時に黒い蛇の頭が胴体から切り離される。アルソーの槍の一振が、蛇に炸裂したのだ。黒い蛇は血を撒き散らしながら、バタバタとのたうち回ると、動かなくなった。


スゴい。アルソーは、一人だけレベルが違う。本当に頼もしい仲間だと、いつも感心させられる。


ハインリヒトが、それを見て負けじと蛇の群れへと突っ込む。アルソーがハインリヒトを制止するが、彼は止まらない。

その時、ピカッとイナズマが走る。ソーニアが雷の魔法を放ったのだ。黒い蛇達は、吹っ飛ばされ壁に叩き付けられる。


ハインリヒトはその衝撃で攻撃を一時躊躇う。しかし、アルソーは飛び出して、黒い蛇の頭に突きを食らわす。槍の切っ先が蛇の頭部を貫通して、新たに蛇の死骸が増える。

残りの二匹の黒い蛇達が体勢を立て直す。アルソーは追い討ちを止め、蛇達との距離を取る。


「二人とも避けて!」

ソーニアの雷系最大魔法が完成し、放たれる。


「バカ野郎、こんな狭い通路でそんなもん撃つな!」

アルソーがハインリヒトを掴み、下敷きにするような形で、地面にうつ伏せになる。


ドオンという激しい爆発音が塔内に鳴り響く。その衝撃により、石つぶてや、砂埃が辺りに飛び散る。

真っ白になった周りを、口を押さえながら私は目を凝らす。


バラバラになった黒い蛇が、バタバタと動いている。気持ち悪いと感じる一方で、全部倒したのかという期待の感情が入り交じる。


ハインリヒトは起き上がり、確認をするように蛇達のいた辺りへとゆっくりと近付く。アルソーも彼の後ろに続く。

舞い上がった砂埃が晴れて、視界が開けてくる。すると、そこから黒い影がユラリと動き、先頭のハインリヒトに襲い掛かる。


「危ない!」

私は思わず、声を出す。しかし、ハインリヒトはその声に反応出来ない。仕留め損なった最後の黒い蛇が、彼の右足のふくらはぎに噛み付く。


「ぐわ……」

ハインリヒトはその場に倒れ込む。蛇はなおも追撃するように、ハインリヒトの首元に噛み付こうと襲って来る。


その瞬間、彼の後ろにいたアルソーが槍を振るう。蛇は獲物に噛み付く前に、頭を吹っ飛ばされ、絶命する。


「クレアラ! 早く解毒の魔法を」

ハインリヒトが噛まれた足を押さえ、泣き叫ぶ。大好きな彼の命が危ないと、直ぐ様私は彼の元へと駆け付ける。


噛まれた場所が黒く変色している。私は呪文を詠唱し、光る手の平をその部分に当て、解毒の魔法を試みる。


お願い、死なないで。私は涙を浮かべ、呪文を詠唱し続ける。ハインリヒトは苦悶の表情を浮かべ、大量の汗を掻いている。

黒く変色した足が、徐々に元通りに戻って来る。魔法が効いてきた様だ。私は彼の容態を確認しながら、魔法を掛け続ける。


彼の顔が和らいでくる。良かった、毒が消えてきた。私は彼の命が助かった事を確信する。


しかし、私の安堵した気持ちと裏腹に、彼から冷たい言葉が私に浴びせられる。






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