第13話 私の二つの目的
私は嬉しさのあまり、アルソーに抱き付く。
「な、何やってんだよ! 止めろ、クレアラ! 寝ぼけてるのか?」
アルソーは顔を真っ赤にして、私を引き離す。かなり動揺しているみたいだ。ソーニアの話では、彼は私の事が好きらしい。照れている顔がスゴくかわいい。
焦っている彼を見つめて、私は話を始める。
「ごめんなさい。貴方が生きている事がスゴく嬉しくて……」
「は、何を言ってんだ? ホントに寝ぼけてんじゃねぇのか? 立派に生きてるよ。当たり前だろ」
「貴方にはホントに感謝している。助けてくれてありがとう」
「いや、何の事で礼を言われてるんだ? 訳分かんねぇよ。何か、今日のお前、変だぞ」
「うぅん、いいの。そう、今日の私、変なの」
私は首を横に振り、喜びを噛み締める。そして、過去に戻った事を実感する。
「アルソー、今日は何日なの? 今、私達はどの位、塔の攻略が進んでいるの?」
そうだ、過去に戻れた事はよく分かった。問題はどの位まで時間が戻ったかと言う事だ。
「ホントに変な奴だな? 今日は六の月の日だぞ。塔の攻略は五階のボスの間の手前まで進んだだろ。って、昨日も一緒に行ってたよな? 何で忘れてんだよ」
五階のボスの間まで行っていない――――。
と言う事は、私はまだハインリヒトに告白をしていない。つまり今、私とハインリヒトは恋人同士ではない。私は現状を確認しながら、ウンウンと頷き、頭を整理する。
「なるほど、今の状況が分かって来たわ。ありがと、アルソー」
私はアルソーにそう告げる。アルソーは変な奴だなという様な顔をして、首を傾げている。
彼との話が終わろうかとしたその時、後ろから誰かが近付いて来る、そんな気配を私は感じる。
私は振り返り、その人物を確認する。私は息を飲む。そして、その人物をじっと見つめる。
その人物は、かつての恋人ハインリヒトであった。
「二人とも、もう起きてるのか? 今日はやけに早いな。何かあったのか?」
ハインリヒトは私達を見ると声を掛けて来る。ギクシャクしていた時の冷たさは今は感じない。彼との関係も振り出しに戻っているのだ。私は安心してハインリヒトに話し掛ける。
「おはよう、ハインリヒト。貴方も早いわね」
「おはよう、クレアラ。君達の話し声で起きたんだよ。一体、何の話をしてるんだい?」
彼は私に自然な会話をして来る。恋愛タイプ回避型の彼は親密度が近過ぎなければ、離れようとして冷たい行動を取る事はない。私は彼の行動パターンを勉強している。
「ただの世間話よ。ねぇ、アルソー」
私は隣のアルソーを横目で見る。アルソーは私の顔を怪しそうに見て、ハインリヒトの方を見る。
「いや、今日のこいつ変なんだぜ。ハインリヒトもそう思うよな?」
「さぁ? いつもと変わらないんじゃないのか?」
ハインリヒトは首を傾げて応える。アルソーは何か納得いかない顔をしている。
私は二人の顔を見て微笑む。私はこの何気ない日常を取り戻したかったのだ。
そして、何の為に過去に戻って人生をやり直しに来たのか目的をハッキリさせる。
やるべき重要事項は二つだ――――。
一つは、私の身代わりとなって死んだアルソーを死なせない為に……。
そしてもう一つは、恋愛タイプの事をよく知らずに別れてしまったハインリヒトと再び恋人となってやり直す為に……。
私は心に誓う。
今度こそ、私の望む人生を掴み取ろうと――――。
* * * *
私達四人はダリアの塔に再び挑む。現在、五階のボスの間の直前まで進行している。私達は長い直線の通路を歩いている最中であった。
ここまでの敵は皆、弱小モンスターばかりで苦戦しなかった。前衛のハインリヒトとアルソーの二人だけであっさり魔物を倒してしまうのだ。私達魔法使いの出番は皆無だった。
何か物足りないなと感じながら、私はパーティーの後方を歩いていた。
少し前をハインリヒトとアルソーが歩いている。私はまた、ハインリヒトに熱い視線を送ってしまう。
私は恋愛タイプ不安型だ。彼との相性が悪いと分かっていても、なかなか切り替える事は出来ない。彼に依存してしまうのだ。
私はハインリヒトが好きである事を否定出来ない。愛しているのだ。それが愚かな考えだと頭では分かっていても、どうしても気持ちは押さえられない。
ふと気付けば隣に魔法使いのソーニアがいる。そういえば過去に戻ってから、彼女とは会話をしていない。
私の状況を理解してくれるのは唯一彼女だけだ。私はソーニアに話し掛ける。
「ソーニア、ちょっといい? 話があるの?」
前方を歩くハインリヒトとアルソーから少し距離を取る。過去に戻った話を彼等に聞かれたくなかったからだ。
「あら? 何かしら?」
「実は私、貴方の魔法で未来から過去にやって来たの。人生をやり直す為にね」
私がそう言うと、ソーニアは驚いた顔で私を覗き込む。
「あの魔法を私が貴方に使ったのね? ところでクレアラ、代償は? 何を代償に払ったの? 教えて」
「それが何も身体に変化はないのよ。記憶も失ってないし、今回は代償を払わなくても良かったんじゃないの? ラッキーだったわ」
私は楽観的に応える。現実的に何も起こってないのだ。運が良かった。私はそう考えていたのだ。
「……」
ソーニアは無言で考えている。とても厳しい顔をしている。それから、重苦しい空気を漂わせながら彼女は言葉を発した。
「代償は必ずあるわ。残念だけど、例外はないの」
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