第6話 禁じられた恋愛相談

夕方、私はアルソーを街の外れの酒場に呼び出す。アルソーと二人きりで会う事は、恋人のハインリヒトには、もちろん言っていない。


この日、ハインリヒトは他のパーティーとの交流会に出掛けている。パーティーのリーダーだけが集まる定期的な交流会らしい。だから、今夜二人で会っている事がバレる心配はない。


アルソーと密会だなんて、ハインリヒトには少し後ろめたい気持ちはあった。しかし、この原因を作り出しているのは、彼の行動や言動なので仕方ないでしょと、私は思っていた。


「お前が、飲みに誘って来るなんて珍しいな。これ、お前の奢りなの?」

酒場の隅のテーブルの席に、私とアルソーは対面に座る。


「いや、さすがに奢るのはちょっと。割り勘じゃダメ?」

「仕方ねぇな。割り勘な」

アルソーは冗談ぽく言う。気分が沈みがちな私とは正反対だ。彼はいつも明るい。そんな所に私は救われる。


「何かあったのかよ? 話があるんだろ?」

「うん、実はハインリヒトとの事なんだけど……」

テーブルに来たお酒を一口含みながら、私達は話を続ける。


「あぁ、最近、お前ら仲が悪いもんな。喧嘩の仲裁だろ? あいつも、頑固だからな。俺が言っても話聞かないかもな」

「いや、違うの。実は、私とハインリヒト、1ヶ月前から付き合ってるの」


「え……」


私の言葉でアルソーは固まる。表情も呆然としている。そんなに驚く事だったのか。私からすれば普通、雰囲気で察するでしょと思ったのだが、早く本題に入りたかったから話を進める事にした。


「実は、その事で相談があるの」

「えーっ、本当かよ。知らなかった。驚いたな。ハインリヒトも何も言って来ないから。どっちから、告白したの?」


「……私から」

そんな話はどうでもいいのだ。早く本題を話させろと、私は少し苛立ちを感じる。


「へぇ、そうなんだ。ってか、何で同じパーティーの俺に1ヶ月も話してねぇんだよ。俺達の関係ってビジネス的なもので、俺は友達と思われてねぇのかよ。ちょっとショックだな」

「違うの。ハインリヒトが、みんなには内緒にしろって……」


少し悲しそうな顔を浮かべているアルソーに、私は弁解する。私だけが悪者にされるのは、何か釈然としないからだ。


「確かに、あいつは昔からそういうの、話したがらないとこがあった。なるほどな」

彼は納得した顔で、ウンウンと頷いている。私は誤解が解けた様なので、今だと思い本題を切り出す。


「実は、そこでアルソーに相談があるんだけど。ハインリヒトが付き合ってる私に対して冷たいの。私は彼に対して、何も悪い事をしてないはずなのに。どうしてなのかな?」


私はモヤモヤした気持ちをアルソーにぶちまける。この気持ちを誰かに分かって貰いたい。アルソーは、少し考えながら答える。


「うーん、何だろな。何か怒らせる様な事したのかもな、知らない内に。クレアラはホントに心当たりないのか?」

「うーん、私には心当たりがないから。だから、よく分からないの。だから、アルソーに話を聞いてもらいたくて」


私は今までのハインリヒトとの事を、アルソーに続けて話す。彼は真剣に私の話を聞いてくれている。スゴく私の気持ちに共感してくれているようだ。


私はそんな彼に気を許していき、ドンドン色んな話を切り出してしまう。


「彼ってね、あまり手も握ってくれなくて、キスもあまりしてくれないのよ。男の人ってみんなそうなのかな? アルソーもそうなの?」


私は溜まってた不満をアルソーの前で、吐き出す様に話す。彼には何でも話せる気がする。何を言ってもきちんと聞いてくれる安心感があるのだ。


何でも包み隠さず話して来る私に、アルソーは困った顔をする。彼はまた、うーんと考えながら、私に答えを返す。


「俺はまぁスケベな方だから、好きな女の子にドンドン触りたいし、キスもしたいけど。でも、そこは個人差があるからな。性的な事があまり興味ないっていう男もいると思うしね」


「そういうもんなんだ」

私は納得をする。そして、時間がかなり経っている事に今になって気付く。悩んでた事をアルソーに何時間も聞いて貰ったので、私はかなりスッキリしていた。


彼に対して私は何も警戒心を持っていないのだなと、ふと感じる自分がいる。これはつまり、異性としては何も意識していないと言うことなのだろう。


確かにアルソーに対して、ドキドキしたり、トキメキの様なものを感じた事はない。

よく世間でいう、いい人なんだけど、恋愛対象じゃないというタイプなのかもしれない。


しかし、私はお酒が入った事もあり、ポロっと言ってはいけない事を口に出してしまう。


「ハインリヒトじゃなくて、アルソーが恋人だったら良かったのに……」


「……バカ。そんな事言ってんじゃねぇよ。後はお前らの問題だから、しっかり決めろ!」

「分かったわ。でもね、もし、アルソーが私の事を好きなら、ハインリヒトから奪ったりする?」


「それはない。俺は親友から恋人を奪う様な下衆な真似はしない」

「そっか。分かったわ。今日は話を聞いてくれてありがと。助かったわ」

「あぁ、気を付けて帰れよ。一緒に帰ると問題だから、俺は一回りしてから帰るわ」


アルソーはそう言うと、酒場を後にした。私はそんな彼を見ながら、今後の事をどうしようかと考えていた。








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