私と彼との相性は最悪でした。魔法で過去に戻ってやり直します。

かたりべダンロー

第1話 悲劇の塔での恋心

――――――私には、好きな人がいる。


しかし時として、残酷なもので、好きな人と恋愛タイプにおいて、相性が最悪の場合がある。


私がまさに、そうだった……。


女性にとって、好きな人と自分を押し殺して付き合う事が幸せなのか。あるいは、好きでもない人とありのままの自分で付き合う事が幸せなのか。


私は選択を迫られる……。


世の中にある4つの恋愛タイプに、私は翻弄されている。私はどうすれば良かったのか?


この時はまだ、答えが出せずに悩んでいた。




                *




私達四人は、ダリアの塔を攻略している最中だった。今やっと、五階のボスの間の前まで辿り着くことが出来た。誰も仲間が死なずに、ここまで来れた事を神に祈った。


ダリアの塔は、全十階からなる茶色の塔である。昔は観光地として名を馳せていたのだが、ここ数十年で魔物達が住み着くようになったのだ。


今や、ダリアの塔は魔物達の巣窟となった。噂を聞きつけた冒険者達は、ダリアの塔を攻略しようと我先にと、挑戦をするようになる。


塔は、上の階に上がるごとに、魔物の強さも上がっていくという、単純明快なシステムである。


そして、各階の最終局面では、その階のボスが待ち構えている。つまり、その階のボスを倒せば、上の階へと続く階段を登れる訳だ。


したがって、どれだけ上の階へと登れたかということが、その冒険者達のレベルがどの程度のものなのかという力量の指標となっていたのだ。


その事で、近隣の冒険者達はこぞってパーティーを組み、その塔の頂上を目指していた。名誉と富の為に。


しかし、塔に挑戦するリスクは極めて大きい。多くの冒険者達が欲に駆られ、ダリアの塔で命を落としていたのだ。


その事から、ダリアの塔はこう呼ばれる様になる。


"悲劇の塔"と――――。


私達もそんな危険を冒し、挑戦をしていた冒険者の一人だったのだ。






「五階のボスは、六本の腕の魔物らしい。それぞれの手に武器を持っている。接近戦は特に気を付けろ! いいな!」


最年長のリーダー、勇者ハインリヒトは私達仲間を鼓舞する。カッコイイ、私は彼に熱い視線を送ってしまう。


しかし、ここは戦場だ。私はいけないと思い、気を引き締めて彼に答える。


「分かったわ、ハインリヒト。私が補助魔法で貴方とアルソーを援護する。前衛の二人が傷を負ったら、すぐに私が治療魔法をかけるわ」


私は、金髪の美青年の勇者に言葉を返す。彼にもっと認められたい。彼の役に立ちたい。私はそう思いながら、胸を高鳴らせる。


しかし、高身長細身のイケメンの彼は、私の気持ちを全く察してない様に、会話を続ける。


「頼むぞ、クレアラ。君の正確で迅速な判断が、このパーティーの生命線だ」

私はコクリと頷く。好きな人に期待されている。自然と力が沸いて来る。


「アルソー、君は準備はいいのか?」


勇者ハインリヒトは、隣の筋肉質な戦士に言葉を掛ける。筋肉質な戦士はタンクトップ一枚という軽装備だ。鎧で固めている勇者とは大違いだ。アルソーは肩に長い槍を担いでいる。


「あぁ、いつでも行ける」


アルソーは淡々と答える。そして、アルソーは気付いた様に振り返り、後ろの魔法使いの女の子に声を掛ける。


「ソーニアは大丈夫なのか? ビビってないか?」


小柄なトンガリ帽子の女の子は、キッと戦士を睨む。黒いローブを纏った眼鏡の彼女は、語気を強め言い返す。


「誰がビビってるのよ。今度言ったら、私の魔法でお仕置きするわよ」

「怖いな。でも、その意気だ。援護頼むぜ!」


アルソーは、魔法使いソーニアに笑顔で返す。少女をからかってる様だ。ソーニアはそれに対し、プイっと横を向き、機嫌を損ねている仕草を見せる。


「じゃ、みんな、突入するぞ!」


パーティーの先頭の勇者ハインリヒトは、ボスの間の扉を押し始める。かなり重たい扉なのか、力一杯必死の顔で押している。それを見て、戦士アルソーが彼を助けるように、一緒に扉を押している。


重々しい音を立て、扉が開く。そして、私達四人はボスの間へと歩を進める。


広々とした殺風景な石作りの部屋だ。周りは天井を支える石柱が何本か立っているだけで、家具などは全くない。


まぁ、魔物のボスの間がオシャレな感じの部屋だったなら、それはそれで違和感だらけなのだが。


私達は奥へと進む。すると、六本の腕を持つ巨大な魔物が見えて来る。私の心臓の鼓動が早くなる。ボス戦はいつもそうだ。冷や汗も流れ出す。


先頭のハインリヒトが、六本腕の巨人の魔物に話し掛ける。

「あんたが、五階のボスか? 人間と会話は出来るのか?」


六本腕の巨人は私達を見下ろし、低く重たい声を発する。

「愚かな人間どもめ! また懲りもせず、殺されに来たのか? 我が名はアスラ。ここから先へは通さぬ。死ぬが良い」


その重い声は、私の心を萎縮させる。間違いなく、この魔物強い。恐ろしい。私の呼吸が荒くなる。


アスラと名乗った巨人は、手に持っている剣を振り降ろす。パーティーの先頭のハインリヒトは間一髪、それを交わす。


「みんな! 陣形を整えろ! 魔法使いの二人は後方へ下がれ! 俺とアルソーで奴に接近戦を仕掛ける」


勇者ハインリヒトは、背中に背負っていた剣を抜く。戦士アルソーも自慢の長槍を構える。私とソーニアは指示通り、後方に下がり敵との距離を取る。


「クレアラ、俺とアルソーに防御力と攻撃力を上げる付与魔法を! ソーニアは奴に雷撃の魔法を!」


ハインリヒトは、私達魔法使い二人に指示をしながら、六本腕の魔物に向かって行く。槍使いのアルソーもそれに続く。




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