第9話 猪突猛進な兄の特殊能力

オリビア様の魔力を辿っていくと、

途中、学園へ向かう方向からそれた。


だんだん民家も減っていき、木々が多くなり、ついに道がなくなった。


「あ……! あそこに……」


そこにはブラームス家の物と思われる、馬車のキャビンが置いてあった。

この先は、森。


「ブラームス家のものだ。馬がいない。馬で森に入ったな。」


私達も道なき道を、オリビア様の魔力を辿って進む。

しばらくすると、小川があった。


「すみません、ここで魔力が途切れました。」

「マオ、川で匂いを見失うとか…本格的に、犬みたいね。」

「本格的にってなんですか。」


ひとまず馬に水を飲ませる。


「私と、マオとリリーの、二手に分けて探すか。」


「待ってください。」

そう言うと、マオは右手を上げた。

それだけで、昨日見た紙飛行機が空高く飛び立っていった。


「一度上空から見てみましょう。」


紙飛行機はしばらく旋回すると、一方向に飛び始めた。

私達は紙飛行機を追う。

紙飛行機、優秀すぎない?



少し進むと、古びた屋敷があり、馬が二頭繋がれていた。


「ここですね、一度下がって作戦をたてま……」


兄はズンズンと正面から入って行った。

私とマオは目を合わせると、後から付いていった。



地下の階段を降りると、兄は《ライト》で明かりを灯す。


すると奥に部屋があり、明かりの先に人影が見えた。

「オリビア?」

「……来ちゃダメ!」


兄は声のする方へ真っ直ぐ向かった。

罠とか考えないんですか?


「やめてーー!」

ゴンッ! と、ひとつ鈍い音がして、

それからすぐにものすごい衝撃音がした。


マオと私が駆けつけると、ぺたんと床に座り込んだオリビア様の隣に座り込み、

大事そうに無事を確かめる、血塗れの兄と……


壁際には土埃まみれの男が二人倒れていた。


マオはすぐに倒れている男二人を、拘束魔法で捕らえた。


「お兄様!」

「クリス様、手当を!!」

兄の、おでこからは、血が出ていた。


オリビア様がご自分の服の袖をちぎり、兄の止血をしてくれた。


「オリビア嬢……何もされてないか?」

オリビア様の手に触れ、顔に触れ、何度も確かめる。

オリビア様がこくこくと頷く。


「オリビア嬢…………」

オリビア様のミルクティーブラウンの髪の毛をひと掬いして、見つめ。

兄の顔が近づく…… 


あ、見ちゃいけないかも!


何かを察知したマオが、私の目を手で目隠ししてきた。

が、すぐに開かれた。


そのまま、ずるずると兄は崩れ落ち……

オリビア様の膝枕で、寝てしまった。


「お兄様、ずっと寝てなかったのね。」




マオはこの時、祖父の遺言(まだ生きている)である「どんなに夢中になっても、睡眠だけは取るように。」と言うのは、こんな大切な場面でも、ものを言うのだな、と妙に感心していた。




ーーーーーー



オリビア様に兄の進入時の状況を尋ねた。


物音が聞こえてから、男たちが地下室の入口の死角に構え、入ってきた兄の頭を鈍器で殴ったという。

次の瞬間、兄は二人同時に殴り飛ばした。

というものだった。


そう、兄は魔法がそれほど得意ではない。


しかし身体強化だけは日常的に発動されているのだ、特殊能力と言ってもいい。

拳でしか語り合えないタイプ。

それにお兄様はアンニュイ顔に、線が細いので、まさか肉体派だとは、全く思われないのです。




ーーーーーー



拘束魔法で捕らえた男二人をその場に残して、

私達は一度街へ戻った。


それから私達は騎士団に事情を話して、男二人を捕らえてもらった。



犯人は、オリビア様の元婚約者で伯爵令息であるエイドリアン・ブラウンと、彼に雇われた御者だった。



今から約一年前、オリビア様はエイドリアンから学園内で婚約破棄を告げられた。


その場に、浮気相手の男爵令嬢を連れて……

男爵令嬢に嫌がらせをしていた、とオリビア様を糾弾した。


そんなテンプレ劇場に、た・ま・た・ま・居合わせた兄は、エイドリアンと男爵令嬢の浮気現場を見たこと、嫌がらせが嘘だと言う事を証明したらしい。

た・ま・た・ま・撮った証拠写真付きで。



お兄様……どこまで素直じゃないの?

どこまで拗らせてるの?



その後、エイドリアンは男爵令嬢と上手く行ってなかったのか、ここ最近はオリビア様に近づいてくるようになっていた。


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