第27話 伝えたくて。
コリンと一緒に1日馬車で移動して、そこから私はひとりで移動することになった。
馬車で私は簡素なワンピースに着替えた。
「よし!これで、貴族令嬢には見えないわね!」
「うーん、でも帽子を目深に被ったほうが良いわ。その手入れされた髪の毛とか、ソレだけじゃないわね……。んーなんだか貴族令嬢の雰囲気がダダ漏れなのよねー。」
こんな冒険をするのは初めてだわ。
カゲもいるし、たまには良いわよね。
そこから夕方にはナカムラ家へ到着した。
しかし、ナカムラ家に着くも、マオは今は居ないとだけ言われてしまった。
英雄ナカムラの家に入れると何故思ったんだろうか…入れるわけ無いわよね。
怪しすぎるじゃない、こんな庶民の恰好をして。
反省して、歩き出す。
ナカムラ家の領地は広大で、農業が盛んで。
英雄ナカムラの丘というところに見晴台があったので登ってみる。
階段が続くけど、運動不足だったのでちょうどよかった。
英雄ナカムラが守った農地が一望できてとても美しかった。
「ふぅ、これだけでも良い思い出だわ。」
呟きは、自分に言い聞かせてるようで。
家々のあかりが灯り始めて、見晴台にも人が居なくなった。
小麦畑がオレンジ色に染まると、急に寂しくなってきた。
宿どうしよう、探さなきゃいけないわ。
「……お誕生日おめでとうを言いたかったな。」
夕日が沈んでいくあと少しの所で、タンタンタン!と足音が近付いてきて、誰かが階段を駆け上がってきた。
「ハァハァ……。近くをを通ったら、リリーの魔力を感じて、どうしてこんなところに?」
「マオ……。」
「今日からカスター伯爵令嬢の邸では?」
マオは、そう質問しながら、頭の先からつま先まで、少しずつ触れられながら怪我や異常がないかを調べているようだった。
「ふふ……。ふふふ……。」
サプライズ成功ね。
嬉しくて、おかしくて涙が出てきた。
多分、寂しかったせいもあって。
マオの長い指で涙を拭われると、
「ところで、クリス様や邸のみんなは、リリーはカスター伯爵令嬢の屋敷に行ってると思ってるわけですよね?」
「うん。そうね。」
そういうと、ぎゅうーっとだきしめられた。
「く、くるしいよ、マオ。」
「……今日は帰しません。」
そう言うと、マオは私の帽子を取った。
帽子の中で纒めていたサラサラの銀髪が、一気に広がり風に靡く。
それから、マオとナカムラ家の領地をゆっくり歩いて、ナカムラ家の屋敷へ着いた。
出迎えてくれた男性の使用人は、《サムエ》という不思議な服を着ていた。
ボタンなどはなく、胸の前で生地が交差して、横腹の所で紐で結ばれている。
とても動きやすく、着脱しやすいものと、教えてもらった。
それから、マオの実家と同じように、玄関で靴を脱いだ。
靴をきれいに揃えて置くことがマナーらしい。
ナカムラ様は《サムエ》を着ていて、たっぷり髭を生やしていた。
異国の雰囲気がとても漂っていた。
髪の毛は、ふさふさしていたので、なぜだがホッとする。
ご挨拶が終わると、異世界からきているせいか、寛容で。
「まぁ、若い者どうしなんじゃ、一緒に寝るくらい普通じゃないか?」と言って、マオに頑張れよ、と肩をポンポン叩いていた。
「今はまだ、手は出しませんよ。」
と、マオはまだダメなんだ。とぶつぶつ自分に言い聞かせるように呟いていた。
一晩一緒に過ごすことになった。
もちろん、こんなことは初めてで、私が体調崩した時に、ずっとそばに居てくれてたことはあるけど。
なんだか、それとはちょっと違う。
お風呂を借りて、着替えは《ユカタ》という、先程の《サムエ》に少し似ている服を用意してくれた。
《ユカタ》も、ボタンやホックもないのでちょっと心許無い。
マオとベッドの上で向かい合う。
マオも《ユカタ》を着ていて、ちょっと着崩されたその姿は、胸元まで開いていて
なんでこんなに色っぽいのよ!!
急にこの状況に心臓がバクバクしてきて、
「リリー、顔が赤いよ?」
って薄笑いしながら覗いてくる。
余裕たっぷりなマオが少し憎らしい。
「マ、マオはなんだか、余裕があってズルい。」
そう言うと恥ずかしくなってしまって、そっぽ向いてしまう。
「リリー、こっち向いて?」
けれども、ここに来た理由、ちゃんと顔を見ておめでとうを言いたかった。
私は勇気を出してマオに向き合う。
「マオ、お誕生日おめでとう。これからもずっと一緒にお祝いさせてね。」
「ぐっ……無理だ……結構きつい修行でも耐えられたけど、これは無理だよ……。」
そう言うと、マオはベッドに横になり、私に背中を向けて、すぐに自身に拘束魔法をかけた。
「リリー、ありがとう。よしもう寝よう。」
「もう、こっち向いてよ。マオ固まっちゃったじゃない。」
「これはリリーの安全のためなんだよ。」
「ふふふ、私は安全よ。マオがそばに居るもの。」
「言っておくけど、それが今、一番安全じゃないからね。」
動けないマオの隣に横になると、このきれいな顔にいたずらしたくてキスをした。
「リリー煽らないで。解けないの。」
「ふふ、大好きよマオ。おやすみなさい。」
今日一日の疲れもあり、まぶたはすぐに重くなった。
規則的な寝息が聞こえたあと、葛藤の末、我慢したマオはやっと自身の拘束を解いて、まるで氷の彫刻のようなリリアーナの寝顔にキスをした。
ふぅ、君が一番の強敵だよ。おやすみリリー。
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