第26話 オーベル領の夏

学園が夏休みに入り、私はすぐに領地へ向かった。


邸に到着すると、オリビアお姉様が出迎えてくれた。

不思議な感じがする。

去年は私が出迎えていたのに。

それなのに、まるで元々あった場所のように、欠けていたパズルのピースが埋まるように、オリビアお姉様はピッタリと、この場所にはまっていた。



「リリー!待っていたわ。おかえりなさい。」

「お姉様にお出迎えしてもらえるなんて、感激です。」

「邸の皆様も温かくてね、私もここの一員になれて、本当に嬉しいわ。シェイラさんも、長旅お疲れ様でした。」


道中、シェイラがついてきてくれた。

シェイラは王都に住んでいて、家族も王都にいるので、行きと帰りの道中だけ、護衛を頼んだ。


「いいえ、オーベル領は王都に比べると、涼しくて過ごしやすいですね。私もこちらで滞在できたら良いのだけど。」


シェイラは少し休んでから、馬を走らせて帰路についた。



次の週にはコリンが遊びに来た。

コリンはオーベル領が初めてとのことで、街にも案内して。

それほど大きな街ではないけれど、観光地になっているだけあって、街には活気がある。


街で流行っている化粧品店では、男性用のシャンプーを購入した。

香りはスースーしていて、ミントが少し入っているようだった。

「頭皮をスッキリ洗浄し、元気な毛髪を育てる」と、書いてある。

マオには、髪の毛を大事にしてもらいたいし。

予防線は張っておいたほうがいい。


それから、とってもかっこいい帽子があったので、購入した。

万が一、頭が剥げてしまった時に隠すとか、そういう事ではない。

違う違う、そうじゃ、そうじゃない。


黒髪に、黒い中折れ帽、かっこいいじゃない。


「プレゼント用にお包みしますか?」

「はい、お願いします。」


その夜はパジャマ女子会をした。

お姉様とコリンが私の部屋に集まり、パジャマでお話する会。


コリンは、実は同じクラスのノエル・ボルトンが気になるらしい。

コリンのことだから、もっと派手な男の子がタイプかと思っていたのに、かなり意外だった。


ノエル・ボルトンは、伯爵令息で、本当に目立たないのだけど、陰で困ってる人をアシストしてたりするところ、動物に優しいところも好きだそう。

確かに、カゲをよく撫でていたかも。

コリンはよく見てるわね。


 

お姉様からは、お兄様が学園でモテていた話を聞いて、それはそれは意外だった。

オリビアお姉様と婚約したあとは、お姉様にやっかみを言う人も多かったとか。

見た目はね、いいのよ。わかるわ。


それから……「特別な女子会だから、私も話したくなっちゃったわ。まだまだ秘密のつもりだったんだけど、2人には言っちゃうわ!」

「なになに?お姉様!」

「次の夏には、もう一人あなたを出迎える人数が増えるわ。」

私は、アンビリーバボーの境地に立たされていた。


その後「キャーーー!キャーーー!」という嬉しい悲鳴に、勘違いした侍女が、数名駆けつけた。



私の話になると、少し照れくさくて……。

マオの好きなところを話した。

まずは顔、顔が好き。目が特に好き。それから手とか指。髪の毛。声とか。体温とか。

一つ一つ伝えたけど……。


「なんか上手くまとめられない……。」

「うんうん、リリアーナらしいわね。」と、言われてしまった。

好きなところいっぱいあるのに、言葉にするのって難しい。



夜も深まると、お姉様はお兄様の遣い使用人から、部屋に戻るようにと伝言が来てしまった。

お兄様も狭量ね。

一晩くらいお姉様を借りても良いじゃない。



それからコリンと二人で眠りにつくまで語り合った。


「え?!マオ様は夏生まれなのね、お誕生日もうすぐじゃない。」

「ええ、寮に戻ったら、帽子をプレゼントとして渡すわ」

「サプライズで、ナカムラ家に行くのはどうかしら?」

「え、無理よ、遠いじゃない。」

「だからいいのよ。リリアーナも会いたいんじゃない?」

「確かに会いたいわ、けど。」

「急に会いに行ったら、マオ様すっごく喜ぶわよ!間違いないわ!」


確かに2ヶ月間も会えないのは、とても長く感じていた。

ナカムラ家はここから1日半程で着く。


「そうね。サプライズ、やってみようかしら?」

「きっと喜ぶわよ!」



それから翌々日、今度は私がコリンの家にお邪魔しに行く、ということにして邸を出た。


お兄様とお姉様はとても心配したけど、コリンとコリンの護衛もいるとのことで、許してもらえた。




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