第28話 殿下の秘めた想い

夏休みも終わり、秋に入った学園は少しずつ騒がしくなっていた。

新1年生も学園に慣れてきた様子だった。


魔法学園には運動会のようなものがない。

学生の中には身体強化が出来る者もいるので、身体能力を競うなんて事はしない。


でも、今年は三年に一度の大きな学園祭がある。

この学園祭は、街をあげてのお祭りにもなっているので、街のお店が学園に出店したりもする。

今回はマオのキャンディ屋さんも出店予定。


そんなわけで、学園祭の3日間は学園にも色んな人が出入りすることになる。


生徒たちは自分たちのクラスで出し物を準備して、

コーラスをするクラスや、演劇をするクラス、ダンスを披露するクラスもある。

それから、最終日はダンスパーティーがあって、これは、社交界の予行演習も兼ねていた。



企画が盛り沢山なので、準備も盛り沢山。

学園祭の実行委員は、かなり大変な仕事だと兄に聞いていた。


その大変な実行委員に、ウィリアム殿下は立候補していた。

その昔、ウィリアム殿下のお父君である、陛下が学生だったころも、実行委員をやったそうなので、帝王学の一環として、考えられているのかもしれない。


実行委員は、各学年から2人ずつ選ばれる。

私達の学年はもう一人を選出するのに、くじ引きが行われ、私は見事、実行委員に選ばれてしまった。



会議室がしばらく学園祭実行委員の部屋として使われる事になった。

3年生からは、騎士候補のバーレン・ドラゴミールと、侯爵令嬢のカタリーナ・シルバーマン。


2年生からは、殿下と私。


1年生からは、声の大きいジャン・ルーアンと、とても生真面目そうな眼鏡女子アリエット・シャルモンが選ばれた。


殿下はやる気満々で、みんなが嫌がるまとめ役も買って出ていた。

「今日は実行委員の顔合わせと、役割分担を決めるからな、まずは資料を作ったから目を通してほしい。」

殿下は資料も作ってくれていた。 


役割分担では、私は殿下と最終日のダンスパーティーの担当になった。

プログラムの作成、会場の装飾や演奏者のの選出から、飲食の手配、警備面も考えなくてはならない。


私があわあわ焦っていると、

「大丈夫だ、一つ一つこなしていこう。」

と常に前向きな姿勢で、頭ポンポンされたりもした。


実行委員間の仲も深まり、時々昼食を取ったり、一緒に行動することが増えていた。


騎士候補のバーレンとは、警備面でも相談したり、生真面目めがね女子のアリエットは、資料作りがとても上手なので、当日配るプログラムの相談をしたり。

他学年との交流も深まった。

いつの間にか殿下への苦手意識も消えていた。



学園祭までもカウントダウンが始まった、昼下がり。

例の人気のないカフェテリアでは、今日はおばちゃんが「へぃーっくしょん!」と大きなくしゃみをしていた。

何やらおばちゃんの苦手な花粉の季節らしい。

おばちゃんにも弱点があることに、失礼ながら驚いていた。


私はマオに学園祭の準備の話をしていた。


「ふーん、楽しそうだね。」

「楽しくないわよ、学園祭まで後1ヶ月しか無いのよ?そうだマオ、資料取りに行きたいから図書室に付き合ってくれない?」

「王太子に頼んだらいいじゃないですか、ほら、迎えに来ましたよ?」

「なにそれ、そんな言い方しなくてもいいじゃない。」

「仲良いんだから、頼めば喜ぶよ。」

「もういい、そうするね。」


そう言うと、マオは手招きをして、カゲも連れて行ってしまった。

「カゲまで連れて行っちゃうなんて……。」



殿下は時々このカフェテリアに現れるようになっていた。

学園祭準備の話で誘ったのがきっかけで。


ちなみに、殿下に対してもおばちゃんは

「砂糖とミルクが欲しけりゃ、ここにあるから持っていきな!」と、このスタイルを貫いている。 


殿下は殿下で

「うむ、心遣いありがとう。」と、何も気にしていない様子で、こちらにも驚きである。




「ふむ……リリアーナ、どうした?浮かない顔だな。」

「殿下。いえ、何でもありません。何か御用でしたか?」

「いや、疲れているのだろう、今日は休め。」

「ありがとうございます。そうですね、ちょっと図書室寄ってから、今日は休みます。」


マオとのやりとりに、一人モヤモヤしながら図書室に向かっていた。

資料を探していたのだけど、面白そうな本も数冊見つけて、夢中になって読んでいた。


時間忘れていて、気づくと窓からさす日差しが長くなっている。

柔らかなオレンジ色に染まるカーテン。

少しだけ目を瞑ると、あっという間に眠ってしまっていた。



ガチャン


ウィリアム殿下が部屋に入ると、

机に座り、開いた本に突っ伏して、動かないリリアーナが目に入った。

穏やかな寝息も聞こえる。



「リリアーナ……。」

ウィリアムはリリアーナの隣に座り、普段なら一本も触れない彼女の髪の毛を、一房掬った。

陶器のような肌、閉じている薄いまぶたまで、真っ白で。

思わず手に取った絹糸のような髪の毛に、ウィリアムは口づけをしていた。



ふと人の気配がして扉に目を向けると、マオがこちらを静かに見つめていた。

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