第2話 英雄の孫ですって!?

グラグラする視界の中、転ばないようにとカーテシーをする。


「リリアーナ! 久しぶりだな、そんな変な眼鏡を付けていたか?顔は好みだったのだが…」 


「お久しぶりでございます、殿下。目が悪くなりましたので、近頃はいつも眼鏡をつけてます。」


「それは残念だ。」


この見目麗しき、金髪碧眼の、キラキラしい王太子は、何と言ってもデリカシーがない。

ふわっふわの暖かい毛布とまでは全く期待してないけど、薄〜いオブラートくらいは持ち合わせてても良いと思うのだけど。


グラグラする視界の中、どうにか零さず紅茶を頂く。

なんて美味しい紅茶なの!?

やはり王宮は違うわぁ……

よく見えないけど、カラフルなお菓子たちも美味しそう!


グラグラする視界の中、私は美味しい紅茶とお菓子に夢中になった。

王宮のパティシエへの尊敬すら生まれるほどに美味しいお菓子達。


殿下は、一人で喋り続けてる。


「乗馬が上達したから、今度は騎士達と狩りにいく予定だ。」

「火魔法が使えるようになったから、魔法学園では上位クラスになるだろう。」

「魔法学園に入ったら、すぐに魔道士試験を受ける予定だ、ランクが楽しみだ。」


終わりのない自慢話にうんうんと、にこやかに頷き、とにかく食べて飲む私。


美味しい物を食べてる瞬間は現実逃避ができると、なにかの本に書いてあったけど、本当だったのね!


美味しいお菓子のお陰で、殿下の話もすんなり耳に入り、すぐさま出ていく。

お菓子の浄化能力、素晴らしい。



一通り自慢話を終え、気持ちよくなった殿下は

「リリアーナとは、やはり気が合うな!」

とトンチンカンな感想を述べて……ではまた近々会おうと、和やかにお茶会は終わった。



ーーーーーー



急いでベンチに戻ると、まだ本を読んでる少年が見えた。


「はぁはぁ、お待たせしてごめんなさい。眼鏡をありがとう。」

少年に近付き、借りていた眼鏡を外す。


「うぷっっ……」 


慣れない眼鏡をかけて、つまらない話をにこやかに聞くため、お菓子を沢山食べ続けたリリアーナ。


「くっ…うっ………」


食べすぎたお菓子達が込み上げて…

少年の本を汚してしまった。。。


王宮の使用人達が慌ててリリアーナを介抱する。

リリアーナは気持ち悪さと苦しさでその場に倒れた。



ーーーーーー



目が覚めるとリリアーナはベッドに居て、側には心配そうに顔を覗き込む父が居た。


「お父様、ここは……?」


「リリー大丈夫か? ここは王宮の救護室を借りている。医師にも診てもらったが、食べすぎ……らしいぞ。まったく。」


「ご……ごめんなさい……。あの、眼鏡の少年は?」


「あぁ、心配してくれていたよ。彼には今度謝りに行こう。」


「本当に、ごめんなさい……。」


「さぁ、支度をして帰ろう。」




ーーーーーー




それから3日後、少年のお屋敷へ行くことになった。

少年のお屋敷へは賑やかな街を離れ、王都から馬車で1時間ほどの、少し離れた場所にあった。


「ここまで来ると、山や川も見えるのね!」


馬車の窓から外を覗き、自然が広がる景色にわくわくするリリアーナ。

ほどなくして、緑に囲まれた、風変わりなお屋敷に着いた。


馬車を降りると、使用人が出迎えてくれた。


門をくぐると小さな池があり、カラフルで大きいお魚が優雅に泳いでいる。

使用人に聞いたら《ニシキゴイ》というお魚だと教えてもらった。


お屋敷に入ると、まずは靴を脱ぐらしい!


「お父様……本当に靴を脱ぎますの? 失礼にはならないのかしら?」


「ナカムラ子爵家はね、私達とは少し違うんだ。失礼には当たらないよ。」


お屋敷の中は、とてもきれいに整えられ、

素足で歩く床には《タタミ》という敷物が、煉瓦のようにきれいに敷き詰められていた。



先程の池がよく見える部屋に通されると、そこにはあの日に出会った少年と、少年の父君らしき黒髪の男性、母君らしき栗毛のきれいな女性がいた。


「久しぶりだなフミヤ! 白髪が増えたんじゃないか? エリーも相変わらずきれいなままだなぁ。」


「久しぶりだな、クラーク! 今日はまた美味い酒を用意しておいたよ。飲もうじゃないか。」


「それは楽しみだ、フミヤの作る《ニホンシュ》は他では飲めないからな、実は楽しみにしてたんだ。」


「うふふ。二人共飲み過ぎちゃだめよ?」


エリー様、美しい。色っぽい。

 




「まずは紹介させてくれ、娘のリリアーナだ。」


「リリアーナ・オーベルと申します。先日はご迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありません。」


「はじめまして、リリアーナ嬢、私はフミヤ・ナカムラ。そして妻のエリー。息子のマオだ。君とは同い年なんだ。仲良くしてくれるかな?」


「もちろんですわ、マオ様よろしくお願いいたします!」


「こちらこそよろしくお願いします、リリアーナ様。先日のことは気にしないでください。」 


「うふふ。マオも隅に置けないわね。とっても可愛いお嬢さんね!」


私は内心、かなりドキドキしていた。

お父様、交友関係広すぎやしません?

ナカムラって、あの英雄ナカムラの血縁以外にいないわよね?



ーーーーーー


今から約50年前、この世界は滅びる寸前だった。

世界大戦が起き、魔法と科学がぶつかった。


科学大国プラーデンは各地にミサイルを仕掛け、ミサイル1発で小さな国一つが滅びた。

そして、世界の半分が焦土と化した。


それはこの国にも向けられたが、その時異世界から来たのがユキオ・ナカムラだった。


ナカムラは、異世界転移の際に手に入れた、膨大な魔力と、特殊な能力を持っていた。


また、科学やミサイルへの豊富な知識も持っていた。

やがてナカムラはミサイルを中和する魔法を作った。


多くの被害を出した科学大国プラーデンは滅び、

また科学自体もかなり衰退した。




ーーーーーー


まさに英雄と呼ばれる男なのですよ!!お父様!!

ニホンシュ作ってもらってる場合じゃない。


ナカムラ家には、確か三人の跡継ぎがいる。

その一人がお父様のご友人だったのね。





「リリアーナ様、良ければ庭へご案内します。」


「ありがとうございます。マオ様」


マオ様は相変わらず厚切りメガネをつけていて、表情が読み取れない。


お庭は、きれいに整えられていて、やはり他の屋敷では見たことのない植物に囲まれていた。


《ボンサイ》という鉢植えは、一つ一つにこだわりがあり、まるで小さなお庭、小さな世界のようで見飽きることがなかった。



「マオ様、先日読まれていた本なのですが、なんという本なのでしょうか? その……同じ物をお返ししたくて…」


「あの本は魔術書です。従者がすぐに洗浄魔法を使ってくれたので問題なく読めます。本当に気にしないでください。」


「そうなのですね、良かったです。本当に申し訳ありませんでした。マオ様は魔術書がお好きなのですか?」


「はい。簡単な魔法しか使えませんが。」


そう言い、マオ様が両手を上げて何か唱えると、

《ボンサイ》に小雨のような水が降り注がれた。


「わぁ…! きれい! 虹が出来たわ!」

柔らかい日差しの中に降った小雨は虹を作った。

「ちょうど水やりの時間でした。虹が出来ましたね。」


厚切りメガネの下でマオ様が、少し笑った気がした。

虹より珍しいものが見れたような気がして、嬉しくなった。


ーーーーーー



お屋敷に戻ると、父は大きな声で笑っていた。

ーーー完全に酔っている。


「よぉし、マオ君はうちで面倒見よう! 良いな、マオ君」


「ーーーはい?」


「お父様、どういうことですの? マオ様が困っています。」


「いや、フミヤがね、マオ君をうちで鍛えてくれないかって言うからね。ハッハッハー」


「あぁ、リリアーナ嬢、マオは末っ子だからね〜、なかなか臆病で外に出向かないんだよ。クラークの側で少し外の世界を見てきなさい。ハッハッハー」



お二人共飲みすぎじゃないですか?

ちゃんと明日この話覚えてますか?




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