第3話 私の厚切りメガネ

それから一週間とかからず、マオ様が我が家に来た。

なんとあのお酒の席の約束は果たされたのです!


「オーベル侯爵様、リリアーナ様、よろしくお願いいたします。」


「おぉ、待っていたよ、マオ君」

「お待ちしておりました、マオ様」


「リリアーナ様、今日から使用人の一人なので、様はお付けにならないでください。」


「そ、そうですわね。んマ、んマ、マ、マオ」


「(プフ)ーーはい、リリアーナ様」

一瞬、マオの笑い声が聞こえた気がした。



マオはそれから父と共に行動することが多かった。

家庭教師が来る時間は、私と共に勉強した。


時々、二人で庭の木陰で過ごす時間が好きだった。

私は令嬢の嗜みである、刺繍は好きな方で、

私は刺繍や編み物、マオは本を読んだ。


厚切りメガネでよく読めるな〜。

なんて考えてると、あの悪夢のお茶会を思い出してしまった!


「リリアーナ様、今もしかして王太子殿下のこと思い出しました?」


「ぶふ、、ちょっと、マオってば、なんで分かるの?」


「ふふ、顔が蒼白くなってましたよ?リリアーナ様は分かりやすいんです。」



悪夢のお茶会から3ヶ月が過ぎたが、王太子とは会っていない。

どうかこのまま平和な時間を過ごせますように。。


  



ーーーという、ひと時がフラグだったのか。

またしても、お茶会が開かれることになった。


「リリー、リリアーナ!早く支度をなさい。」

「わかりましたわ、お父様」


デジャブなの?またしてもテラスの下に護衛が。

部屋に侍女3人いるわ。

全く信用されてないわね。

流石、敏腕宰相!見る目があるわね、お父様!

なんて感心してる場合じゃない。


初夏の王城の庭園に合うようにと、爽やかなレモンイエローのドレスを着た。

青みがかったアイスシルバーの髪の毛は、イエローやブルーなど爽やかな色がよく似合う。

髪の毛を結い上げ、馬車に乗る。


今回はマオも一緒に行くようで、少し安心する。

けれども、もう眼鏡は借りられないわね。

やはり度が強くて、気持ち悪くなっちゃうもの。


王宮に着くと、父とはまた別行動となった。


わたしはマオと、王宮の使用人と共にお茶会の会場へ向かう。


「ーーリリアーナ様、今日はこれを使ってください。」

マオがわたしにこっそりと何かを渡してきた。

それは、厚切りメガネだった。


「だめよ、また気持ち悪くなるわ。」

「これは大丈夫です、かけてみてください。」


サッと眼鏡をかけ、目を開けると…

普段と何も変わらなかった。


「あら?これなら大丈夫だわ!」

「ふふ、良かったです。」

 


季節が移り変わり、前回のお茶会より暑い…!

もう夏ね。お花も様変わりしていた。


前回マオに出会ったベンチを通り過ぎ、会場へ入った。

マオは従者として来ているので入り口で立って待つ。

 

「久しぶりだな、リリアーナ!また変な眼鏡をつけているんだな!」


「お久しぶりでございます、ウィリアム殿下。」


「水くさいな、昔のようにウィルでいいぞ。」


「い、いいい、いいえ殿下、このように立派に、えと…逞しく、素晴らしくなられた殿下を愛称でお呼びするようなことは出来ません。」


「まぁ、それもそうだな、私も鍛えてるからな、立派になるよな。ふむ、そうか。」と、ご満悦。


これでゆくゆく一国の王が務まるものか?と心配になる。

ーそして、王宮の紅茶は今日も美味しい。もちろん、お菓子も美味しい。

美味しいは正義!美味しいは素晴らしい!ということで、殿下の自慢大会を華麗に笑顔で乗り切れたのだった。




ーーーーーー


帰りの馬車では、今回のお茶会大成功の功労者である厚切りメガネ君に関して、マオに質問した。


「眼鏡をありがとうマオ!今回は気持ち悪くならなかったわ!どうなってるの?」


「簡単な幻影魔法を覚えたので、眼鏡に付与してみたんですよ。」


「え?マオが作ったの?げ、幻影魔法って…凄いじゃない!!」


「はい。今回はリリアーナ様の従者のお役目を頂けたので、ちょっと張り切っちゃいました!」


「マオ……ありがとう!」


マオはどんどん魔術を覚えているのね。

確かに家庭教師から教わる時間も、私に合わせてくれてるけど、マオは何でもこなしているし、普段から難しい本ばかり読んでいる。


魔法学園では上級クラスになるのかしら。

離れると思うと、急に寂しくなった。


「リリアーナ様、何を考えてるんですか?」


「いえ、あの、マオは、魔法が得意なんだなぁ…って。」


「魔法学園でも、僕は従者として入学したい、そしたらリリアーナ様と同じクラスにもなれます。だからそんな顔しないでください。」


「え?わたしどんな顔してたの?マオにはお見通しね!」


「あの……なんていうか……か、可愛い顔ですけど……」


「ーん?マオ?気を使わなくていいのよ!」


マオが珍しく動揺していて、なんだかそれが嬉しくて、いつもよりマオが可愛く見えたのだった。



ーーーーーー


それからすぐに夏になった。

私は約2ヶ月、領地へ行くことになった。

オーベル領は王都にあるタウンハウスから馬車で約2日、避暑地としても人気の観光地になっている。

領地には魔法学園が夏季休暇に入るお兄様も合流することとなる。


マオは、一緒には来なかった。

マオのお祖父様、ユキオ・ナカムラ様の元で修行に励むらしい。

誰もが知る英雄の元で。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る