元従者だったチートな厚切りメガネくんに、どうやらキュンが止まりません!

青々

第1話 予知能力を手に入れましても…

「黄色いお花がいっぱい咲いていたの、でもね、そこには崖があって、お馬さんが落ちちゃうのよ……。みんな泣いてるの。お父さま、お兄さま、助けてあげられない?」


私の予知能力が発現したのは、6歳の頃だった。


もしかしたらそれより前から発現していたのかも知れないけれど、周りにはっきりと伝わったのはこの時からだった。


それは母が亡くなることの予知夢で……。


お母様が死んだのは自分のせいだ!

自分が変な夢を見たせいでお母様は死んでしまったんだ……!

と幼い心を痛めた。



ーーーーーー



「リリー! リリアーーーナ! 今日こそは王城へ行くからな、早く支度をなさい。」

「わ、わかりましたわ、お父様。」


んもぉ〜!

今日のお父様は完璧ね、

テラスの下にも護衛がいて、部屋には侍女3人。


今日こそは私、逃げられないのね。



パンパン! お母様付きだった侍女長アンが張り切って手を叩く。

「さぁリリアーナ様!お支度しましょう」

「んもぅ、わかってるわ、アン」



リリアーナ・オーベル侯爵令嬢14歳、4年ぶりの登城。

王太子様にご挨拶という名の、お茶会へ。

え? これって絶対お見合いってやつよね?




ーーーーーー



私が見た予知夢は、特殊能力の一つだった。

予知能力は、国内・国外も欲しがった。 

予知能力があれば、災害が防げるし、争いごとに使えると考える国もある。  


予知能力は稀で、100年前にいた聖女様と呼ばれた方が持っていたらしい。

おかげで、聖女様が現れたという変な噂も立てられた。



私の予知夢は、毎日見るわけではなく、ごくたまに身近な人のこと、この国の大きな動きなどがあると見ることがあった。

もちろん全てではなくて。


魔法が一つも使えない私には不要な能力だった。

それに、沈没船が見えたところで助けられないし、

火山の噴火は止められない。 


どのくらい先のことが見えるかは不確かで、

その日起こることが見えることが多く、たいてい何もできなかった。

力が欲しいともがいていた時期もあるけど、いつしか私には何も出来ないと、線を引いた。


何よりお母様を助けられなかった。

一番欲しかった、家族の時間を、失った時に気づいた能力だった。



この世界は、大なり小なり魔法は身近なもの。

魔力は血統によるもので、貴族になると魔力量が高いことが多い。

平民でも、99%の者が、

《ライト…ほのかな明かりを灯す》

《エア…小さな風を起こす》

という魔法を使える。 


それ以上の力を持つ魔法となると、殆どは魔力の高い貴族、王族が使うものとなる。


ちなみに私は魔力がそれなりにあるのに、魔法が一切使えない。


お父様のコネを使って、有名な家庭教師にも来てもらったけど、発動しなかった。。。

《ライト》や《エア》すら。


そんな事情もあり、私はほとんど外に出たことがない。

人の噂が怖かった時期もあり、友達もいない。


そんな私も来年には魔法学園に行かなければならないのは、貴族として生まれた使命なのね……。



ーーーーーー



あれよあれよと、侍女達の手で可愛く着飾られ、結い上げられ……。

出来上がった私を見て「奥様そっくりですね。」と侍女長のアンが涙声で言うと、他の侍女達も目頭を押さえた。


私は鏡の中のわたしをじっくり見た。


春の庭園に合わせて薄いラベンダーカラーのドレスを着た。

形は私の好みに合わせてシンプルなものを選んでくれた。

お母様譲りの青みがかったアイスシルバーの真っ直ぐでクセのない髪の毛はハーフアップに。

白い肌に、紫水晶の大きな瞳。

面影に残るお母様に少し似てきたかな?と思うと嬉しくなった。




我が家の使用人はみんな家族のようで、私はとても恵まれた環境にいると思う。

特に侍女長アンは私と兄にとって、母親のような役割も担ってくれた。


眠れない夜は眠れるまで髪を撫でてくれて、

内緒で家を抜け出した時は本気で叱られた。



そう、我が家には今は魔法学園で寮生活をしている2つ年の離れた兄もいる。

たまに帰ってきては、ベタベタかまってくる兄は、シスコンと呼ばれる人種なのでしょうか。



ーーーーーー




代々受け継がれた我が家のタウンハウスは、王城から程近くにある。

近くではあるが、馬車に乗って王城へ向かった。

あっという間に王城へ到着してしまった。


お父様はこの国の宰相として働いており、国王陛下とは幼馴染みでもある。

また、この国では珍しい白魔術を使う、国家魔術師でもある。



王太子のウィリアム殿下とは、8年前を最後に会っていない。

王宮へ来たくなかった理由が、ウィリアム殿下に会いたくないということだった。


この国、アスベル王国の王太子、ウィリアム・フォン・アスベル様と、私は家柄の釣り合いが取れ、同い年ということもあり、産まれたときから私は王太子妃候補として挙げられてきた。


ウィリアム殿下とは幼い頃はそれなりに楽しく遊んでいた記憶がある。



予知夢の話を噂で聞いたウィリアム殿下は

「君の呪いの力で、母君は死んでしまったのではないか?」と言われたのだ。 


「願ったことが真実となるような呪いの力ではないか?」

などとも噂されていたときだった。

慕ってはいないものの、唯一の友達だと思っていたウィリアム殿下の言葉は、心にグサっと刺さった。



この国の貴族は15歳の春から約3年間、国立魔法学園で魔術を習う。

同い年であるウィリアム殿下も通うので、せめて来年までは会いたくないと思っていたのに!



ーーーーーー



お父様は陛下とお話がある様子なので、

リリアーナは王宮の使用人とお茶会の会場の庭園へ向かった。


王宮の使用人に案内してもらい、庭園に出た。

「まぁ素敵なお花!」

「可愛い小鳥が鳴いてるわ。」

「素敵な噴水があるのね。」

と、あちこちへ往生際悪く寄り道を探している。

蟻の行列を眺め始めたところで、使用人からの咳払いが聞こえた。

はい、ごめんなさい……。

 

顔を上げると、目立たないところにベンチがあった。

ベンチには少年がいて。 


「こんにちは、何をしてらっしゃるの?」と声を掛けると、その子はビクリと肩を揺らしリリアーナを見上げた。


分厚い眼鏡をかけた、この国では珍しい黒髪の少年だった。

そのかなーり厚切りな眼鏡のせいで、表情がまるで分からない。

王城に居るので、身分の高い家の子なのだろう。

近くには従者らしき男性もいる。


「ーー本を読んでいたんだ。」


その時リリアーナはハッと閃いた。


「あ…あの、不躾で申し訳ないのだけど…その眼鏡少しの間だけ貸してくださらない? どうか、お願い! すぐに返すわ! ね? だめ?」

思ったより必死な声が出た。 

そうね、背に腹は代えられないのよ。



リリアーナをジッと見てから少年は、自分の眼鏡を外し、ハンカチでキュッキュと拭くとリリアーナに眼鏡を渡した。

「ーー僕の眼鏡が合うとは思えないけど…。」



近くにいた少年の従者が代わりの眼鏡を少年に渡した。

予備があるなんて、かなり目が悪いのね。


「本当にごめんなさい。それに、ありがとうございます! すぐにお返しするわ!」


そう言って、今度こそお茶会の会場へ向かった。

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