第8話 遭遇&捜索

「おはよう、マオ」

「おはようございます、リリアーナ」

「マオはなかなか敬語が治らないのね…」

「ーあ、すみません。」


私達はそれぞれ寮での朝食後、昨日の寮から離れたベンチで話していた。


「今回は災害でもない、個人的な被害だと思うから、公的な力は頼れないのよね。」


「これまでも個人的な予知はありましたよね。けれども、どれも身近な人でした。そこで昨日のうちに侯爵様には親戚や使用人に異変はないかと聞いておきました。」


「流石ね、マオ!そ、それでお父様は、なんて…」


「今朝全ての確認が取れて、今のところ何もない。とのことでした。」


「ナカムラ家は大丈夫かしら?」


「はい。うちにも聞いています。今のところ異変はありません。」


リリアーナは、ほぅ…と息をはいた。


「手がかり無しね…」


「まずはこの場所、学園に地下室や密閉された空間がないか、探してみましょう。」


「そうね!そうしましょう。」


私達は学園内を歩いて、それらしい場所がないか、聞き込みや地図を頼りに探すことにした。




「リリーーーー!!リリアーナ、まさかここで会えるとは、会いたかったよ。」


突然背後から、聞き慣れた声がした。


「お兄様、まさかも何も、昨日入寮すると知っていたでしょう?」


「ところで、僕のリリーの隣にいる君は何者かな?」

お兄様は隣のマオをキッと鋭い目付きで見ている。


「僕です、マオです。侯爵様から視力を治療してもらいました。」




兄は、大きく目を見開き、驚いた顔をした。

わかる、わかるわよ、お兄様……。めちゃくちゃ美形に化けましたよね。


それから、マオを下から上、上から下と舐め回すように見ては、ちょっと恨めしい顔をして…

無言で、話題を変えてきた。


イケメンということは触れずに、認めない方向性ね……。

大丈夫、お兄様も十分かっこいいのよ。見た目は。



「それにお兄様、私が昨日入寮すると知っていたでしょう?」


「そうだったよね、ごめんね。覚えていたし、手伝いに行きたかったんだけど、実はね心配なことがあって。」


「どうしましたの?」


「うん、昨日から連絡が取れなくなってる友人がいるんだ。」


私とマオは目を見合わせた。


「お兄様、そのご友人は女性ですか?」


「そうだよ。」


「お兄様、場所を変えましょう。詳しく聞かせてください。」


私達は兄の案内で、カフェテリアに入った。

ここは普段から人気が少ないらしい。

紅茶とコーヒーを2つ頼んだ。

「アイヨ、砂糖とミルクが欲しけりゃ、ここにあるから持っていきな!」


定食屋の雰囲気を醸し出した、大柄なおばちゃんから受け取る。

夜は大衆居酒屋になりそうな雰囲気。

嫌味のないおばちゃん。

私はさっぱりしてて良いと思うけど、フツーの貴族令嬢から評判が悪いかも知れないわね。

それでこの人気の無さなのね。


隅の席に三人で座った。


私達は、昨日の予知夢から順を追って話した。

真っ暗な部屋、助けてという声がした。という部分で、兄の顔から血の気が引いた。

学園にも周辺の街にも行方不明者の届けがないこと。

オーベル侯爵家にも、ナカムラ子爵家にも異変がないことを話した。


兄は居ても立っても居られない様子で、席を立つ。

「私の友人、オリビア・ブラームス伯爵令嬢の実家はそれほど遠くない。私は今から行ってくるよ。」


「私達も行きます。」


「だめだ、危険な場所にリリアーナは近付けられない。」


「マオの側から離れません。お願いします!

「必ず守ります。僕の命に代えても。」


マオ、簡単に命張りすぎよ。


私達のやり取りに、兄は少しスンとした顔をしてから、私の同行を許してくれた。


ーーーーーー


急ぎのため、馬車ではなく、馬を借りた。

私はマオと、一緒に乗る。

どうしても密着してしまう。

こんな時なのに、私の心臓は早鐘を打っている。

「リリアーナ、大分緊張してるね。馬は乗り慣れていませんよね。大丈夫ですか?」

「だ、大丈夫よ。」

馬のせいということに。うん、そういう事で。




ブラームス伯爵邸に到着し、ご実家で事情を伺う。

昨日の正午に邸を馬車で出発している事がわかった。


学園に入ったという記録が無いことから、馬車での道中消えてしまったということになる。

兄は蒼白い顔をしている。


「お兄様、ここから学園までの道のりで、怪しい場所を探しましょうか。」


「いや、これほど広い範囲では、時間がかかりすぎる。」


「何か心当たりは?」


「んー…ここ最近では特に変わったことはなかったと思うが…」


「クリス様、何かオリビア様の持ち物はありますか?魔力が残っていたら、痕跡を辿れるかも知れません。」


マオの提案に、兄はポケットからハンカチを取り出した。


「彼女からもらったハンカチだが、これではだめか?」


ハンカチには、イニシャルで「C」とミモザの花のきれいな刺繍が刺されていた。

クリスのCかしら…。


「刺繍には魔力が籠ります。少しお借りしても良いですか?」

「あぁ。」

兄はマオにハンカチを渡した。

マオは目を閉じてハンカチから出る魔力を見ているようだった。


しばらくすると目を開けた。

「オリビア様は魔力が高い方なんですね、この道にまだ残っています! 行きましょう!」


「マオ、なんだか犬みたいだわ、可愛い。」

「揶揄わないで下さい。急ぎましょう。」


私達は、オリビア様の魔力が残る道を、先へ先へと馬を走らせた。

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