第6話 新しい生活

ついに入寮の日となった。

屋敷にひとり残るお父様は寂しそうな顔をしている。

屋敷から学園までは馬車で1時間程度の距離なんだけど。

アンや使用人も、大袈裟に別れを惜しんでくれる。


「リリー、寂しくなったら、いつでもすぐに帰ってきなさい。」


「お父様、週末は帰ってきますわ!大袈裟よ?」


「リリアーナ様、本当に大丈夫ですか?困ったことがありましたら、すぐに向かいますからね。」 


「ありがとう、マオもいるから大丈夫よ!」


学園へは、従者を連れてくる者もいるらしい。

私はなるべく身の回りの世話を自分でしてみたいと思い、一人で行くことになった。


「それでは行ってきます!」

屋敷のみんなに元気よく挨拶し、マオに手を借りて馬車に乗り込む。

マオも一緒に向かうので、対面に座った。




「リリアーナ様、僕はやっぱり従者として…」


「だめよ!マオ。私ね、お願いがあるの。ここからはもうマオはお父様の従者でも無いわけだし…私、マオに友達になってほしいの。」


「友達…ですか?」 


「そうよ、友達。だから、様をつけるのも、やめてほしいの。敬語も。ね?」


「ーわかりました。リリアーナ。」


自分から頼んだけど、名前を呼ばれたら急に顔が熱くなったのが分かった。

仕方ないよね、だってマオの顔が、かっこよすぎるんだもん。


「リリアーナ。リリアーナ?」


「んぐぐぐ、も、もう!マオ!そ、そんなに呼ばないで!」

お顔が良すぎるマオは、時々こうやって私を揶揄うようになった。もーーー!


特殊能力持ちの私と、英雄の孫で引き篭もりがちだったマオは、お互いが初めての友達同士になった。


「とにかく、私もクラス分けテスト頑張るから、マオも全力でね!」



 

ーーーーーー



学園に着くと、入寮の手続きをして、寮の部屋に案内された。

マオに手伝ってもらいながら馬車から荷物を運ぶ。

私とマオは、マオの重力を操作する魔法を荷物達にかけて沢山の荷物を楽々運んでいたので、注目を集めていた。


今日は寮の出入りが自由で、家族や使用人の手伝いも多く、賑わっていた。


時々女子生徒がマオの顔を見てポゥっと頬を染めているのを見て、心ががザワザワした。

何だこれは?


「それにしても、すごく便利な魔法なのね。力持ちになった気分だわ!」


「はい、リリアーナのことも軽々運べますよ。」


「わ、私はいいわよ!」 


「そうですね、魔法なしでも軽々運べるように、もっと鍛えますね!」


「んぐっ…」


またそんな冗談を言うマオに、また顔が赤くなってる気がして、顔が見られないように少し先に進んだ。   



寮は男子寮と、女子寮とで建物が分かれて、向かい合わせに経っていた。

2つの建物をはさんで広場があり、広場には噴水があった。


リリアーナの部屋は5階で、窓を開けると噴水が小さく見えた。 

それぞれ一人一部屋与えられ、部屋は8畳ほどの広さに、勉強机とベッドが置かれていた、それとは別にトイレとシャワーがついていた。


「簡素な部屋だけど、充分ね。」


リリアーナは侯爵令嬢として、何一つ不自由なく育ったが、贅沢な暮らしに拘りがなかった。

きれいな物を見るのは好きだし、美味しい物を食べると幸せを感じた。


でも…どんな暮らしでも良いので、家族みんなで平和に暮らしたかった。それは幼い頃に叶わない願いとなった。

だからこそ、家族への想いは強くなり、贅沢な暮らしには全く執着しなかった。



リリアーナの部屋の荷物を運び終わり、

「次はマオの部屋に、荷物を運ぶのを手伝うわ!」


「え?男の部屋ですよ?」


「ちょ、え、じゃあいいわ…」


「ごめんなさい、冗談ですって、来てください!」


お兄様の部屋も男の部屋だし、お父様の部屋も男な部屋なのに。

マオに言われると別のものに感じるから戸惑う。




とにかく、マオの荷物は本だらけだった。

本の種類も魔導書から図鑑や実用書、小説や絵本まであって驚いた。

こんなに沢山の本、いつ読んでるのかしら。


マオの部屋は3階だった。

部屋の作りは私の部屋とほとんど同じだった。

部屋の窓からは私の部屋の窓も見えた。


「じゃあ、私は戻るわね。

夕飯の時間になったら、一緒に食堂に行きましょう。」


「わかりました。あ、リリアーナ、これ着けておいてください。」


私の背中に回ると、ふわっと首に可愛らしいネックレスを付けてくれた。


「わぁ、可愛い!これは?」


一粒の透明な宝石がついた、私好みの華奢なネックレスだった。


「ちょっと願いを込めたので、おまもりです。なるべくずっと着けておいてくれませんか。」


「わかったわ、ありがとう。じゃあまた後で」


「また後で」

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