第17話 星空のランデブー

到着した私達は、湖畔でランチをした。

別荘の使用人が用意してくれた軽食を持って、シートを敷いた。

私はなれない馬に2時間程跨っていたせいか、あまり食欲がなく、サンドウィッチを少しつまんだ。


湖の水は冷たく感じ、馬に跨り使った筋肉を冷やしてくれた。

それから私達は、濡れることで涼を取りながら、子供のようにはしゃいで水遊びをした。  


「ウォーターボール! ウォーターボーーール!」

折角の水辺なので、なにかの化学反応が起こるかも?と期待を胸に、ウォーターボールの練習にも励んだ。

掌を胸の前に広げ、水を集めるイメージを作る。


すると、いきなり背中にマオの気配がして、後ろから抱きしめられる格好に胸が騒ぎ出す。

それから私の左右の掌と、マオの左右の掌を重ねる。

「リリー、もう一度やってみて?」

耳元で響く優しい声に、胸がキュッとなる。


「ウォーターボール……。ちょっと、ドキドキして無理そうです。」


「もう一度、集中して……。」

マオが真剣に付き合ってくれるから、心臓の鼓動は無視して集中する。

マオの掌と合わせた指の先が熱くなる。

「詠唱して。」


「ウォーターボール!」

プクプクプク……! パシャン!


「マオ、マオ、見た? 今の!」

「うん! ちゃんと見ていたよ。おめでとう!」

私は嬉しくて飛び上がると、そのまま体制を崩し水の中で尻もちをついた。



私の濡れた服を、《エア》で乾かしながら、マオの考えを話してくれた。

私は魔術を構築して、魔力を込めるまではスムーズのようで、でもその先、詠唱と共に放出する時に魔力の流れが止まる。

指先で何か詰まっている感じがする、とのことだった。


魔力は通常指先や足先、頭頂部など、体の先端部分から放出される。

今回は、魔力が止まってしまう部分をマオに補ってもらったから出来たようだった。


「僕が付き合うから、今の魔力が流れ出る感じを体で覚えよう!」

これまで来てくれた、どの家庭教師の先生よりも、的確な指摘に正直驚いていた。



夕食は庭園に用意した、バーベキューで色々焼くことにする。

まだお酒は飲めないけど、湖で取れたお魚や、この地のお肉、特産のお野菜など、焼いて食べることにした。


「クリス様、こちらも運んでください。」

「クリス様、取り分けましたので皆さんの分もソースをかけてくださいね。」

と、オリビア様は大変手際よく、兄を上手く従えて用意してくれた。


ぼんやりと素敵な夫婦像が見えてきて、兄のプロポーズ成功をますます祈りたくなる。


食後はケーキを持ってきてもらって、皆でマオにお誕生日のお祝いの言葉を贈った。


「マオ様16歳のお誕生日おめでとうございます。」

オリビア様は花束を渡した。紫色のスイートピーに、かすみ草を合わせてくれた。

「リリーの色ですね、ありがとうございます。」


「俺からはお前に、秘伝の教本をやるからな。まだ使うなよ?ちゃんと、時期が来たらだ。それまでは我慢しろ。わかったな?」

と、兄は何やらマオにいかがわしい本をこっそり渡した。


「マオ、使ってくれると嬉しいわ。」

「開けてみても?」

「ええ、結構力作なのよ!」

私は、ここ3ヶ月かけて枕を作った。カバーには眼鏡の刺繍も入れた。

「リリー、ありがとう。毎日リリーだと思って、抱いて寝るよ。」

それはまだ早いぞ、と兄の突っ込みが入った。


「うふふ、気に入った? マオは寝ることが好きだもんね。」

「祖父の遺言で、睡眠だけは取るようにと言われてるんです。まだ生きてますけど。」

英雄、ユキオ・ナカムラ様はマオの話の中で、何故か何度となく亡き人のように扱われている。


とにかくサプライズ成功である。




別荘には大きなウッドデッキがあって、ウッドデッキからは星空が見える。


「ここから見る星空が私達の子供の頃からのお気に入りなの。」

今日は快晴で、三日月。

夜空は特に暗くて小さな無数の星もよく見えた。


お兄様はオリビア様と、ウッドデッキの端にある柵に寄り掛かり眺めている。



突然、私の体はふわっと浮いた。

マオの仕業だ。

「しーっ!クリス様とオリビア様がいい雰囲気だからね、僕も二人で星空が見たいです。」

「流石、マオは察しがいいわね!これからお兄様、プロポーズする予定なのよ。」


二人で手を繋いだまま、屋根の上に降りた。

遠くに兄とオリビア様が見える。


「うまくいくといいわね。」

「うまくいきますよ。」




「星ばっかり見ないでください。」

「え?」

振り向くと、顔が近い。

真っ暗な空に月明かりだけで、私の頬の赤さなんてバレないはず。

少し大胆になり、私から唇を重ねた。


「……リリー。」

マオの聞いたことのない熱っぽい声に心臓が飛び出そうになる。

髪を撫でられ、後頭部に手を回されて、また唇が重なる。

……ん、な、何これ?知ってるキスと違うじゃない!

「んーんー。」ドンドン!とマオの胸を叩く。

「ふはっ……!もう、息ができない!」

「ん…?鼻でして。」

それだけ言うと、また深いキスが始まった。


正直、溶けそうになるほど気持ち良いこの行為に、私はしばらく夢中になっていた。


しばらくして、私の顔を見ると、マオは頭を抱え、

「リリー、その顔は…まずい…。わー、まだ色々まずいんです。わかってるんですけど、あーもーかわいいが過ぎる!」などとブツブツ言って、自身に拘束魔法をかけて、固まった。


動かないマオは、お祖父さま直伝という、念仏のようなものを唱えていた。


「ふふ、変なマオ!」

「健康的な男子は、色々大変なんです。」

 

それから、マオの拘束魔法が解けるのを待って部屋に戻った。




翌朝、オリビア様からはとびきりの笑顔で、婚約成立の話を聞いた。

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