第16話 夏の兄妹計画!

放課後、お気に入りのカフェテリア。

昨晩は強い雨が降っていたので、おばちゃんは脚立に登って、仁王立ちで窓を拭いている。



「ところで、無事に受かったのよね?」

「うん、A級で合格しましたよ。」

「えっ、A級なの!? お父様もうマオに並ばれたのね。」


「じゃ、そろそろご褒美もらえますか?」

「え、あげたわよね?」

「あれはノーカンです。あれは、本能的に……ふたりの想いが盛り上がってのものでしょう……? よって、ご褒美は別です。」

  


あの時私は、マオの事が好きだとハッキリと自覚して、それはもう封じ込められる想いではないことに気付かされた。


物心ついてから、私は自分の気持ちを抑える事が癖になっていた。

本当に欲しかった母との、家族との時間。

望んでも手に入らない。望むから苦しくなる。だからもう何も望まないと、そう心に決めていた。


それでも私は、マオの手を離さないと決めた。


「あ、ところでユーリア様が言ってた、ペアってなんなの?」

「むー、はぐらかしましたね。一緒に実習を行うペアなんだ。魔力量や得意な魔法の相性で勝手に決められる。」

「そうなのね、ユーリア様は王族の血縁だものね、魔力量も高いというわけね。」



ユーリア様のお母様は、陛下の妹君。

お父様は、魔術師団と騎士団を纏め上げる、軍事の最高指揮官。

王家と遜色ないほどの魔力量があるはずだわ。



「リリアーナ、気になるよね。」

「いいえ、大丈夫よ。でも、リリアーナに戻ってる。リリーって呼んでほしい!」



「リリー。」

「ひやぁぁぁ。」

耳元は反則ーー!!




 

「あら、お二人でイチャイチャしてるところに、ごめんなさいね。こんにちは。」

「あわわ、オリビア様! こんにちは。イチャイチャしておりません!」 


「うふふ、お二人は夏休みどう過ごされるの?」

「私は領地に行きます。」

「僕は祖父の元で、少しやることがあって。」

「そうなのね、しばらく会えないわね、寂しくなるわ。」


「そうだ! オリビア様、良かったらオーベル領に遊びに来ませんか? 兄もきっと喜びます! マオも来てくれないかしら?」

「まぁ、嬉しいわ! とても楽しそうね!」

「そうですね、では僕も予定を合わせて行きます!」

 


ーーーーーー



「リリー!僕はオリビア嬢を迎えに行ってくる。」

「お兄様、馬で行くの? 気をつけて。」


澄み渡る青い空、入道雲が競うように高く登る。

オーベル領は、避暑地としても有名できっと他の地域に比べたら涼しいのだけど……それでも暑い。


お兄様はオリビア様が待ち切れず、途中まで馬で迎えに行った。

子供か?! と思いながらも、馬車を置いて二人乗りで戻ってきて、とても微笑ましかった。


それから程なくして、マオも来た。


「お招きいただき、ありがとうございます。ブラームス伯爵家のオリビア・ブラームスと申します。」

「お世話になります、マオ・ナカムラと申します。よろしくお願いいたします。」


「よく来てくださった。今年は賑やかで嬉しいよ。ゆっくりして行きなさい。」


お祖父様へのご挨拶が終わると、それぞれのお部屋に案内した。

それから晩餐の後、明日からの計画を立てていた。


「ここから南へ2時間走ると湖があるの、そこへいきましょう! 湖畔に別荘もあるわ!」

「夜にね、星空がよく見えるんだ。リリーと僕のお気に入りの場所なんだ。2人にも見せたい。」 

「ありがとうございます。とても楽しみだわ」




実はこれ、兄妹で事前にサプライズ計画を立てていた。

湖畔の別荘でマオのお誕生日会を開く。

星空を見る。

ここで、兄はオリビア様に婚約を申し込む!

という、兄妹のサプライズ企画を立てたのであります。


そう、明日はマオの誕生日でもある。

これまで毎年マオはお祖父様のところに行き、別々に過ごしていた。

あとからプレゼントを渡したりしたけど、既製品やお菓子など特別な物ではなかった。

今年は手作りプレゼントを用意したのです!

さて、喜んでもらえるかしら。



それから話は盛り上がり、夜も更けてきて、明日に備えて解散となった。

マオのお部屋は別の階なので、階段で別れる。


「あ、マオ待って、これに少し魔力を込めてくれない?」


「なんですか、この石。」

「前にマオが魔力を込めて、光る石にしてくれたものよ。触れてると、なんだかよく眠れるのよ。最近もう光らなくなっちゃって。」


「………くっ! なんなんですか、もう!」

「マオ、耳まで赤いわよ。大丈夫? 辛かったら今日はいいわ。」

「沢山込めておきます。」



可愛すぎか? 俺を殺す気か? 抑えろ俺、そのうち重力で潰れるぞ? などと、わけの分からない事を言いながら、マオは石に魔力を込めてくれた。


「ありがとう、おやすみなさい。大好きよ、マオ。」


ーーーーーー



翌朝私達は、湖畔の別荘に向けて出発した。

荷物は馬車に乗せて、後から着いてきてもらい、私達は先に馬で向かった。

兄とオリビア様、マオと私で馬に乗った。


相変わらず、マオとの密着感に鼓動が早くなる。

勘の良いマオはすぐに気付いてしまうのに。

「リリーは乗馬にはなかなか慣れないね、大丈夫?絶対に落とさないよ、心配なら防御魔法を張っておくね。」

マオはまた勘違いをして、過保護にしてくれる。



途中、何故か王家の馬車とすれ違った。

この時はまだ視察途中に誰かが立ち寄ったのかしら?と、深く考えないでいた。

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