第15話 絡まる指先、結ばれる想い
ご褒美……キス……キス……マオと……キス……
マオがあんな事言うから、昨晩は全然眠れなくて。
枕を抱いて、ゴロゴロ転がり、少し落ち着いて、また転がり。
今朝は寝坊して、授業前にマオに会えなかった。
重い瞼を誤魔化しながら授業を乗り切る。
『キス……』とノートに書いてしまうほどに集中力のない私!いかん!なんとハレンチな!
まずはちゃんと、本人の口から結果報告を聞かなきゃ!
カーン カーン カーン カーン
休み時間になり、マオの教室に向かう。
放課後はいつもマオが迎えに来てくれるので、1−Aの教室に行くのは初めてで、少し緊張してしまう。
教室の入口に立ち、マオを目で探す。
マオ……マオ……あれいない?
教室の中心に、女子達が大勢集まっている。
その中に、お目当ての黒髪が見えた気がした。
「ーーーマオ……?」
マオは私のその小さな声に気づいて立ち上がり、振り向くと、すぐにこちらに来てくれた。
「リリアーナ! 来てくれたんだね。休み時間に教室を出るなんて、珍しいね。」
「うん、試験結果を早く聞きたくて……。」
すると一人の女生徒が寄ってきて、マオの隣に並んだ。
……距離が近い。
金色で艶のあるウェーブを腰まで靡かせて、マオの腕にまで、その金髪が触れている。
すると彼女は碧い瞳を優雅に細めて、挨拶をした。
「こんにちは、マオ様のお友達のリリアーナ様ね! 私はユーリア・フォン・ミリオン。この1年マオ様とペアになりましたの。よろしくね。」
「ユーリア様、はじめまして。リリアーナ・オーベルです。よろしくお願いいたします。」
私はそう淡々と応えた。
思っていたより早口になってしまった。
「リリアーナ様は、ウィルの婚約者候補だものね、私ね、応援してるのよ。」
そうだ、彼女は殿下の従姉妹の、ミリオン公爵令嬢だわ。
「それでは、失礼します。」
私は頭を下げると、踵を返して早足で歩いた。
「リリアーナ、待って!」
マオが追ってくる。
「大丈夫、気にしないでマオ。ちょっと外の風に当たってくる。」
そう、ちょっとびっくりしただけ。
でも今は顔を見られたくないし、見たくない。
きっと私の顔、酷い顔してる。
マオにはマオの席がきちんとあって、私の知らない友人も沢山いて。
外に出ても、今日は風なんて吹いてなかった。
「どこまで行くの?」
「放っておいて! 離して! キャっ」
次の瞬間。身体がフワリと浮いた。
マオに後ろから抱きしめられながら。
「マ、マオ……私達浮いてる……。」
「大丈夫。離さないから。」
「マオ、空を飛べるの……?」
「重力操作でね! まだあまり公にはしたくないんだけどね。」
カーン カーン カーン カーン
学園の鐘が鳴る。
鐘の塔は、街で一番高い建物になる。
私達は鐘が鳴り終わると、その前に座った。
空を飛ぶなんて、考えたことなかった。
マオは知らない間にどんどん出来ることが増えていて、知らない世界の人になっちゃうみたいで。
いつか届かなくなっちゃうみたいで。
「リリアーナ、さっきはごめんね。来てくれてたのに、すぐに気付けばよかった。」
「ううん、いいの。ユーリア様、素敵なクラスメイトね。」
「リリアーナ……。」
私は何も出来ないと、ずっと諦めてきた。
目の前からどんどん見えなくなるマオを、ただ見送る覚悟は出来ていた。
僅かな期待は、胸のずっと奥にしまって。
本当はこんなに醜い嫉妬の欠片も、見せたくなかった。
「リリアーナ、僕は君が……ずっと前から君だけが特別なんだ。」
マオが私の髪の毛を耳にかける。
宝物を扱うように、耳朶、頬を唇を指で確かめている。
マオの長い指先が触れた場所は、じんわりと温かくなり強張りが解けていく。
「マオ、そんな事言われたら私……。」
「好きだよ、リリアーナ。」
マオの顔が近付いてきて、私はそっと目を閉じた。
柔らかい唇の温もりが伝わってきて、泣きたくなる。
見送る覚悟が出来ていたなんて、嘘だと思い知らされる。
「私だけが、マオの特別でいたい。」
「もちろんだよ、リリー。君だけが僕の特別だよ。」
また、啄むようにキスをする。
2回、3回……
髪の毛を撫でられながら、何度も何度も、
わたしの不安を取り除くように、優しい口づけが続いた。
絡めた指が解けないように、願いながら……。
「マオが欲しい。」
ゴクリ。マオの喉が鳴った。
「リリー……それは……男に言っては駄目なやつだ……。」
マオは理性を総動員させて、自身に重力をかけた。
こんな便利な使い方があったのかと、自分の器用さに驚きながら。
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