第18話 招かれざる客

「お兄様もついに婚約ね! オリビア、お姉様って呼べるのかしら。」

その日、私は完全に浮かれていた。


雲行きは怪しかったけど、お祖父様にも婚約の話を早く報告したく、馬に跨り屋敷に戻った。

途中雨に降られたけど、マオの防御魔法で私達は濡れずに済んだ。

「本当に便利だなぁ。」というと、

「リリーは僕を便利に使えば良いでしょ。」なんて優しい声で言う。好き。


屋敷に近づくと、屋敷の前に王家の馬車が停まっているのが見え、驚きと嫌な予感に苛まれる。

屋敷に入るとまず、家令からウィリアム殿下とユーリア様の訪問を告げられた。



「ようこそ、この様な田舎にまでお越しいただき、ありがとうございます。」

「リリアーナ、久しいな。」

まだ夏休みに入り2週間ほどなのですがね。と心のなかでつっこむ。



「視察の帰りにオーベル侯爵にわがままを言って、立ち寄らせて頂いたの。先触れもなくごめんなさいね。昨日は居なくて寂しかったわ。」

ユーリア様の視線がマオに向いてる気がして、胸がザワつく。



「そうだったのですね、生憎の雨ですがゆっくりしていってください。」

かなり強い雨が続いているので、屋敷周辺でで過ごすこととなった。少し残念ね。



「せっかくお越しいただいた殿下には、是非見ていただきたい場所があります。みんな揃ってるので、行きましょう。」  

祖父が殿下をシェルターへ案内したいとのことで、雨の中みんなで行くこととなった。


シェルターは昔の世界大戦で使われていた、ミサイル攻撃に備えた建物。

結局この地はマオのお祖父様・英雄ナカムラ様に守られ、無事だった。



シェルターに着くと、祖父が張り切って先頭に立ち、声を張って案内をした。

「この技術は今でも大変貴重で、国家遺産となっています。当時この地にいた科学者と魔法学者が、力を合わせて作ったもので、この建物は試作の段階でしたが、これ以上のものは今でも作れる技術はないのです。」


「魔法攻撃にも強いのか?」

殿下も興味があるようだった。


「はい。外側から撃ち込んだ魔法も無効になります。」

祖父が自信満々に答える。


「中は簡素な部屋なのね、これでは1日で息が詰まるわね。」

「ええ、ユーリア様の仰る通りで、ご令嬢には息の詰まる場所でしょうな。ハッハッハ。」

 

シェルターの中は20畳ほどのホールとお手洗いだけ。攻撃を受けた際に屋敷の人間が全て入りきる程度のものだった。

簡素ではあるが頑丈な作りであるのはよく分かった。



ーーーーーー



午後は、オリビア様の提案でティールームでお茶会を開くことになった。

オリビア様はとにかく周りにも気を配れる方で、入学まで外に出なかった私には学ぶことが多かったり。



ユーリア様はマオの隣から離れようとしない。

一方、ウィリアム殿下も私にずっと話しかけていた。


マオも、やきもきしているようだったけど、ユーリア様を無下にも出来ず。

疲れてきたのか、「少し部屋に戻ります。」と言って、眠そうな顔をしたマオは先に一人で部屋に戻った。

昨日も今日も馬に乗っていたし、疲れたのかも知れない。


私は、ウィリアム殿下の話を遮ることも出来ずに、止まらない自慢話を延々と聞くこととなっていた。


「私の魔術師ランクを知っているか?Bだ。C級を飛ばしたのだよ、これは名誉なことだろうな。」

「先日は狩りに出掛けたが、騎士団長よりも大きな鹿を仕留めたのだよ。」

あくびが出そうです……殿下……。



ーーーーーー



夜は晩餐会が開かれることになった。

急遽開かれることになったのだけど、オーベル領に観光に来ていた貴族や、近隣の貴族も、殿下やユーリア様とお近付きになりたいとのことで、参加することとなり、それなりの規模となった。


まだ15歳の私は、デビュタントもしていないので遠慮しようと思ったが、そうはいかなかった。。


「リリアーナ、今夜の晩餐会は私がエスコートする。」

「よ、よ、よろしくお願いいたします。」

「ふははは、緊張しているね! 本当はドレスを贈りたいところだけど、それはデビュタントの楽しみにしておこう。」

 


屋敷にも数着ドレスはあったので、見せてもらう。

「殿下がエスコートしてくださるとのことですので、こちらが良いのではないでしょうか?」

と、持ってこられたのはコバルトブルーのドレスだった。

デコルテも大きく開いており、たっぷりとしたドレープが華美で私の好みではない。

「ごめんなさい、今日はこちらにするわ。」

私が選んだのは薄いピンクのAラインドレスにした。

「左様でございますね、リリアーナ様の若々しさが際立ちますね。」 



マオの支度は兄と使用人で手伝うと言っていたので、少し楽しみが出来た。

一体マオはどんな格好で来るのだろう。





 

時間になり殿下のエスコートで会場に入る。

今夜は殿下がメインなので、会場からの視線が集まる。

「まぁ、お二人はお似合いね!」とユーリア様が一際大きな声ではしゃいでみせた。




マオを探すけど、見つからない。

気になるけど、殿下のエスコートに促され、席についた。

食事が始まると、リピート再生機能付きの殿下は、日中に聞いた自慢話を、新メンバーにも話し始めた。



食事の後は、別室でデザートの用意がされている、サロンへ向かう。


「リリアーナ様、マオ様を見かけませんでしたか?」

ユーリア様の口からマオの名前が出るだけで気持ちが乱れる。


「ごめんなさい、私も探していたの。」

「そう……夕方シェルターに大事なものを落としたかもと仰って出ていってから、戻ってないのかしら……。」

「……っ!!」

私はそれを聞いて、ドレスのままシェルターへと向かっていた。  


マオのことだから大丈夫だと思うけど、今日は具合がよくなさそうだったし……。 

そんな事を考えてると、どんどん足が早くなる。


外は傘をさしても意味がないほどの、土砂降りで、どんどん重くなるドレスを引き摺りながら急いだ。

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