第13話 《マオ視点》離さない

入寮のときも、可愛いリリアーナはとても目立っていた。

そこで重力操作をして、大荷物を運ぶ自分に注目がいくようにした。

それでも見てくる輩が居たので、幻影魔法でリリアーナに霞をかけて、周りからはよく見えないようにした。

よし、完璧だ!


普段は女子寮には立ち入れないとのことだが、今日は引っ越しという大義名分のもと、堂々と入る。


簡素な部屋だった。 

侯爵家で、何不自由なく育った彼女だが、「十分だわ。」と笑った。


彼女はいつも多くを欲しがらない。

彼女はいつも大きな主張もしない。

本当に欲しいものを言えなくなっている、そんな気がする。


最近すぐに顔を赤らめてくれるが、もっと異性として見てほしくて、自分の部屋を”男の部屋”と言ってみた。

焦る顔が可愛い。

どうやら成功したようだった。


いつでもリリアーナを探せるように、位置情報が分かる魔道具を身に着けてもらった。

本当は、音声、視覚共有もつけたいくらいだが、絶対に怒られるので止めた。


リリアーナが、予知夢を見た。

情報が少ないが、出来る限りのことを尽くす。


リリアーナは時折、「自分には何も出来ない。」と当然のように言う。

まるで、とうの昔から諦めているように。


予知夢を見ても、何も出来なかった自身をずっと責め続けているようで、僕はその場所から彼女を解放したいと思っている。

必ず解放する。


クリス様のおかげもあり、今回の事件は最悪な状況を防げ、クリス樣とオリビア様の仲が深まった様子だった。

クリス様は、かなり不器用なので、オリビア様くらい包容力のある女性が側にいてくれたら良いと思う。


入学式が終わると、早速王太子にリリアーナの素顔が見られてしまった。

時間の問題とは思っていたから、仕方ない。

それにしても、王太子の距離が近い。

「妃」という言葉を耳にしたら、一瞬魔力が暴走してしまい、廊下の窓ガラス数枚に、ヒビを入れてしまった。


リリアーナが悪いわけでもない、王太子が悪いわけでもない。

それなのに、紙飛行機に意地悪な言葉を乗せて、リリアーナに飛ばして、ふて寝した。

僕はリリアーナのことになると、すこぶる格好悪い。



突然、繋げてある魔力の一つがピリピリした。

辿ると、リリアーナに渡したネックレスと繋げた魔力で……胸騒ぎがする。

リリアーナに何か異変が起こっている。


場所を調べると、街の中心から少し外れた位置であることが分かった。

どの建物がはっきりしない。精度が悪い。

移動して、一つ一つ、ネックレスに繋げた魔力を探る。

探し始めて2区画目の建物から反応があった。

すぐに反応のあった地下へ向かう。


ドアを蹴破ると、目に涙を浮かべたリリアーナに近付き触れる男が目に入った。

その瞬間、頭の中が真っ白になった。

魔力が一気に膨らみ、部屋中の男どもを吹き飛ばし、壁に縛り付けた。

見えない糸を額、首、手首、股関節、足首、に巻き付け捕らえる。

徐々に縛り上げていく。

目の前に死が迫りくる苦しみを味わえ。

生かしておかない。


リリアーナの悲痛な叫びで我に返った。

一度力を緩め、愚か者どもをぎりぎりのラインで生かした。

リリアーナの心を、これ以上傷付けたくない。



リリアーナを腕の中に閉じ込めた。 

張り詰めていた空気が和らぎ、やっと息が出来た気がした。

リリアーナに出会ってからずっと、この華奢で、小さな温もりに、追い縋っている。


コリン・カスターが謝罪してきたが、

リリアーナのことになると狭量な僕は、何も言葉を返せなかった。




オーベル侯爵の考えはこうだった。


オーベル侯爵はリリアーナを守る為、王太子と婚姻させようとしていた。

リリアーナの予知能力が知られたとき、協会が「聖女様が現れた。」と内々で騒いだ。 

聖女様と祀り上げられれば、協会所属となり、リリアーナの自由を奪う。

王太子妃候補という立場であるなら、利用されることもなくなる。

当然そのまま王太子妃にさせるという道筋を考えていたようだ。


それでも僕は、リリアーナが欲しいと願い出た。

オーベル侯爵は、S級魔術師となり、リリアーナが望めば婚約を許すと言った。

S級魔術師になれば、協会を黙らせるほどの権威があるからだ。


魔術師試験で取得出来るのはA級までで、そこからは魔術師として活動し、国からの依頼に貢献し認められた場合、S級となる。

まずはA級にならないと始まらない。

ちょっと強引だったが、ご褒美の約束も取り付けた。


よし、やるしかない!

気合を入れて立ち上がった。

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