第12話 魔王の怒りと、おねだり

うぅ……グッ……ゴホゴホ


目を開けるとそこは、埃っぽく狭い部屋の中に横たわっていた。

手足は縛られていた。

見るからにガラの悪い男が6人いる。



この危機を予知できなかったということは……。 薄々気づいていたけれども、私自身のことはやっぱり予知出来ないのね。



「お、目を開けたか?」

「悪いなぁ、俺たちは高く売れそうな女を探していたんだ」

「あぁ、こっちの女の目は紫だ。貴族に人気がある。高く売れそうだ。」




人身売買……。

それも貴族が絡んでるのね。



「あなたたち見る目がないわね。私は、カスター伯爵家の娘、コリン・カスターよ。その子は私の侍女、離しなさい。」


「ほぅ。そうか。それはラッキーだ。」

「貴族の令嬢なら、身代金ガッポリだろ?」

「お前らバカか、こいつが庇うということは、逆ということだ。紫の目の女が貴族ということだろう。」

 



「ウォーターボーーーーール!」

コリンは大げさに詠唱し、サッカーボールくらいの水の玉を出して、一人の男の顔面にパシャリと当てつけた。


「くそ、めんどくせぇ女だ。」

「あぁ、魔力が少しあるのか、貴族というのは間違いなさそうだな。」

「金はガッポリ入るなら、こっちの女は、俺たちで楽しむか?」

「こんな上物なかなか居ないぜ?」


クククッと笑いながら近づいてくる、大きな男に、顎をつかまれ、上を向かされる。

舐め回すように纏わり付く視線に、全身から鳥肌が立った。


触られたくない。

マオの顔が頭に浮かび、涙が零れる。

すると胸のあたりから、マオの魔力の気配がした。



バンッとドアが吹き飛ぶと同時に、部屋にいた男たちは全て壁に張り付けにされていた。



「ーーー殺す!」

それはこれまで聞いたことのない、地を這うような低い声だった。


貼り付けられた男たちは見えないロープで縛り上げられてるようで、

「グォォォォ……グェ!」

「ギェーーーーー!」

と、苦しそうに悶えている。


「ーーー死ね!」

苦悶の表情の男達は一気に泡を吹いた。


「マオ……っ、マオ、ダメ!」


「……っ」


壁に張り付けられていた男達が、ドサっと床に落ちた。

誰も動かないが、生きている様だった。

辺りが静かになった。


「マオ……ごめんなさい。」 



強く抱き締められた。

抱き締めるマオの腕が震えてる。

「ごめんなさい。」

「ぅぐ……痛いよ、マオ。」

少しだけ力が緩んだ。

「マオ?」

顔を覗きたくて、見上げるようと体を離すとまたグッと力を入れられた。

「うぐ…。」

「酷い顔してるんで、見ちゃダメです。」 

マオの声、まだ震えてる…。

「マオ…ごめんね…」

マオの背中に手を回し、こんなに大きかったっけ?と思いながら、上下にゆっくり撫でると少しずつ落ち着いてきたようで、震えも収まってきた。







 


「あのぉ……そろそろ、いいかしら……?」


「あ、コリン様!」


「私も拘束を解いていただいても良いかしら?」


コリン様がいることを忘れていたなんてことはない。もちろん、そんなことはない。

私が縄を解いている間、コリン様に謝られた。


「迂闊な真似をしてごめんなさい。私が追いかけなければ良かったのよ……。後先考えずに行動しちゃうの、悪い癖だわ。」


「いいのよ、私を庇ってくれてありがとう。コリン様、かっこ良かったわ。」


「ふふふ、全力の攻撃だったのよ。あのウォーターボール。挑発にしかならなかったわね。」


そして、コリン様はマオに向き直ると、


「コリン・カスターと申します。この度はリリアーナ様を巻き込んでしまい、申し訳ありませんでした。」

コリン様は、深く深く頭を下げた。

マオは何も言わなかった。



「では邪魔者は、先に戻るわ。」

コリン様から盗まれたキャンディー入りの袋を受け取った。



取り返してくれてたのね……



「コリン様、コリンと呼んても良い?」

「もちろんよ、リリアーナ。」

こちら見て一度ニッと笑うと、踵を返して去っていった。



その後、犯人達を騎士団に引き渡した。

後日、人身売買を斡旋していた貴族がまるっと捕まった。



ーーーーーー




「ウォーターボール!」

「ウォーターボーーール!」


放課後、ベンチで本を読んでいるマオのそばで、ウォーターボールの練習をする。



「でも、何でウォーターボールなんですか?」


「それがね、かっこよかったのよ! コリンが悪い奴らにバッシャーーンってね。もうちょっと弱かったかしら。」


「コリン様はいいなぁ…。僕だってウォーターボール出来ますよ?」  


「マオはかっこいいわよ、でもなんだか、私とはレベルが違いすぎて憧れることも出来ないのよ!」


「憧れてほしいです。」










「そう言えば、どうしてマオ、私達の居る場所がわかったの?」


「んー怒らない?」


「ふふ、先に許可取るのズルいわ。でも助けてくれたからね、怒らない。」


「ふぅ……。これを着けてればリリアーナの場所がある程度わかります。まだ精度が安定しなくて時間かかりましたけど。改良しないとな……」

マオはそういいながら、私が着けてる首元からネックレスを掬い、ネックレスの先にある透明な石を長い指で撫でた。

その仕草にドキリとした。


「そうだったのね……。あの時、マオの魔力を感じてたの。」


「必死に探しましたからね。もう、あんな無茶しないでください。どこか行くなら僕も連れて行ってください。」


「だって、最近のマオ、試験勉強で忙しかったから。なんの試験なの?」


「明日までです。明日、魔術師試験があるんですよー。筆記試験もなるべく点数稼ぎたくて頑張ってました。」


「明日なの? そうなのね…。マオ……魔術師団に入っちゃうの?」


「入りません。」


「じゃあ何で受けるの?」


「将来のためです。」


「じゃあ卒業したら、魔術師になるの?」


「いや、んー。欲しいものがあるんです。」


「何? 教えて!」


「まだ教えません。受かったら教えます。あ、受かったらご褒美ください。」


「良いよ、こないだの、ぶどうキャンディー?」


「リリアーナのキスがほしいです。」


「オッケー! 用意し…てお…………?」

カーーーっと顔が赤くなるのが分かった。

ドキドキと、胸が高鳴る。


「ぷふ、オッケー! って聞きましたからね!用意しておいて下さいね! めちゃくちゃ、やる気が出ました!」


ウソでしょ!?冗談でしょーーーーー!?





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