第21話 《マオ視点》救出

突然の王太子とユーリアの訪問だった。

王太子はリリアーナがお気に入りのようで、突如開かれたお茶会の最中もリリアーナの側から離れない。


そんな、面白くない茶会の最中、急な眠気に襲われた。

何度も言うが、祖父の遺言が染み付いている僕は、眠気に抗うことが普段からなく、茶会の最中だが一旦退席することにした。


今思えば、この時の僕は、まるで警戒心がなかった。

あの眠気は、通常のものではなかった。

薬を盛られたんだと、今頃気付く。


部屋に戻ると、使い魔である黒猫カゲを出した。

「リリーを頼む……。」

それだけ言い残して、ベッドに倒れ込むようにして眠りについた。


カゲを出せるようになってから、僕がリリアーナの側に居られない時に、リリアーナに危険がないか、遠くから見張らせていた。



ーーーーーー



目が覚めると午前3時を過ぎていた。

嫌な予感がして、カゲを呼ぶ。

すぐに足元に出てくる。


カゲの記憶を自身に取り込む。


リリアーナはユーリアの誘いに乗り、シェルターに入った。

僕は部屋の窓から飛び降りて、空中からシェルターへ急いだ。

到着すると、王太子の近衛兵がシェルターを囲んでいた。

リリアーナのお祖父様やクリス様もいたので話しを聞く。


シェルターの鍵で解錠はしてるものの、扉はまったく開かないとのこと。

「大きな声では言えんが、恐らく王家に伝わる封印魔法が使われている。術者しか解けん。」

クソっ、ユーリアか……。


僕は一瞬、魔力コントロールを失い、漏れ出た魔力に近衛騎士が、咄嗟に防御魔法を張った。 

「マオ、気持ちは分かるが少し落ち着け。」

クリス様の声にハッとする。


「……申し訳ありません。」

謝罪し、それからユーリアの元へ転移した。





ユーリアはオーベル侯爵邸であてがわれた部屋に居た。

「あらぁ〜マオ様、来てくださったのね! 転移魔法なんて凄いわ!……ますますあなたが欲しくなっちゃう。」

まるで無垢な少女のように、はしゃぐユーリアに、寒気がする。


近距離転移は、何度か試していたが人前で使ったのは初めてだ。


「貴様、王太子にもなにか仕組んでるのか?」

「あのバカは、あの女を追いかけてるだけでしょう? まぁ、密室なら何をするか分からないけど。」


僕は一瞬で、ユーリアの首元に氷刃をあてた。

スーっと、血が滴る。

殺したい気持ちをぐっと抑え、氷刃を回収すると、再びシェルターに転移した。



一人残された部屋で、ユーリアは笑みを浮かべていた。首元にその美しい手を当てると、スッと傷が消えた。



転移で再びシェルターに戻ると、驚いた顔をした面々に迎い入れられる。

「まさか転移か……?」などと近衛騎士達が囁いているが、無視して、封印魔法を解除する糸口を探す。

シェルターの前に、赤く魔法陣が浮かび上がる。 




ーアスベル王国の始まりそれは……

その昔この地に、悪魔に取り憑かれた、強力な力を持つ魔術師が現れた。

その悪魔に取り憑かれ魔術師は、血を欲し、多くの民を殺めた。

一人の魔術師が、自らの血を使い、悪魔に取り憑かれた魔術師を封印した。

民を救った魔術師は王となり、この国を治めた。



昔、禁忌とされる本で読んだことがあるが、王家の血筋には、その封印魔法が伝えられる。

恐らくユーリアは、自らの血を使いシェルターを封印した。


先程ユーリアを切り、血のついた氷刃を取り出し、その血で浮かび上がる魔法陣に、解除の魔法陣を幾重にも上書きしていく。



ーーーやがてパリン、パリン、と幾度かの高い音を立て、魔法陣が消えていった。

集中していたので気付かなかったが、かなり時間を費やしていたようで、辺りには朝の陽光が差していた。



ガチャン扉を開けると、薄暗い中に上半身裸の王太子が見え、その傍らに小さく動くリリアーナが見えた。


頭の中が真っ白になり、気づくとシェルターの中で近衛騎士数人に抑えられていた。

シェルターの中が魔法無効の効果が無かったら、どうなっていたのかと思うと頭が痛い。


「落ち着け、何もしていない。リリアーナは熱がある。まずは救護を!」

王太子の言葉に我に返った。


リリアーナを抱き上げる。

その小さな体は小刻みに震えていた。

急いで邸に戻り、部屋に運ぶ。

オリビアに着替えを頼み、医師を呼びに行った。


「まぁ、所謂風邪ですな、薬を飲んでゆっくり休めば良くなります。」

そう言うと白髭を蓄えた医者は、薬を置いていった。

白魔術を使えるのは、この国では20人程度。

殆どが王都に居て、教会に所属している。

そのため、医療も日々進歩している……が、こういう時は、自分が白魔術を使えないことにヤキモキする。


リリアーナの足には靴擦れのせいか、擦り傷があった。

雨の中、必死に走り自分を探していた様子が伺えて、胸が痛くなる。

目を覚まさない様に、風邪薬と一緒にもらった、傷薬を、白く折れそうなほどに細い脚に、そっと塗った。




コンコンコン……

ドアが開き、王太子が入ってきた。


部屋のドアが閉まると、王太子に拘束魔法をかけて、数本の氷刃で360度、喉元を囲う。

それから、シェルター内の状況を聞いた。


「ずっとお前の名を呼んでいた。お前が守ってやるがいい。しかし、今はまだ無理だ。その力がお前に無い。」


「なぜ、あなたはリリアーナのことを……。」

拘束を解き、氷刃を消す。


「ふん、お前が守れぬなら私が守ってやる。それまでだ。」

王太子はニヤリと笑った。

それから続けた。


「ユーリアの祖父は、知っての通り大司教だ。ミリオン公爵は、王家と教会をうまく取り持っているが、教会はリリアーナを聖女にする動きを強めている。学園に在学中であれば、私の婚約者候補として守れるが、卒業してしまえば守りきれん。それまでにお前はSランクになるんだな。」


僕はリリアーナの穏やかに眠る顔を見て、誓いを込めて頷いた。


「まぁ、無理だったら、俺の妃にするまでだ。」

「渡すわけがない。」

そう言い、無意識に漏れ出た魔力を抑えた。


「ハハハ、お前はリリアーナのことになると、ポンコツだな。それから、ユーリアには気をつけろ。お前のことも狙っている。お前の力なのか、お前自身なのかは分からんが、あれは怖い女だ。私にもまったく理解できん。」




「僕は、しばらく学園を離れることが多くなる。それで、もしリリアーナが……」

「ふふ、良いぞ、良きライバルだからな。私を頼れ!」


そう言うと、まためちゃくちゃ爽やかな笑顔で手を差し出してきた。


僕はこの王太子に対して、何度目かの、アホだけど悪いやつではない。と、心のなかでつぶやいて握手を交わした。

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