第10話 妃なんて、なりませんから……!

学園に戻ってからも事情聴取があり、私達はほとほとに疲れていた。


エイドリアン・ブラウン伯爵令息は収容所に移されて、退学になった。

魔法学園を退学になるということは、爵位を持てなくなる。

重大なことをしたと、今頃は気付いているだろう。



ーーーーーー



クラス分けテストが行われ、結果は……


リリアーナ・オーベル Cクラス


マオ・ナカムラ Aクラス


「流石マオね、Aクラスだわ!」

「ありがとう。」 


私達は、ささやかなお祝いを、例の人気のないカフェテリアでしていた。

今日もおばちゃんは、俄然元気である。



「リリアーナ樣?」

声をかけられ振り向くと、緩やかなウェーブがきれいなミルクティブラウンの髪の毛に、薄緑色の瞳の、凛としたご令嬢がいた。


「どなたでしょ……あ、オ、オリビア様!!」


「ふふふ、忘れられたのかと思いました。あの時は髪も服も乱れていましたものね。お礼が遅くなりました。先日は助けてくださり、本当にありがとうございました。」


「もう大丈夫なのですか? 魔力もかなり消耗していたと聞きました。」


「この通り、元気です。改めてご挨拶させてくださいませ。オリビア・ブラームスと申します。リリアーナ樣、マオ様、よろしくお願いいたします。」

 

「元気そうで、安心致しました。クリスの妹、リリアーナ・オーベルです。よろしくお願いいたします。」


「ご無事で何よりです。マオ・ナカムラです。よろしくお願いいたします。」


「どうしてこの場所がわかったのですか?」


「ふふふ、分かってたわけでは無いんです。ここはよくクリス様がいらっしゃるから、私もよく来るようになったんです。そしたら居心地が良くて。」


「あ、あの……オリビア様はお兄様のこと……その……」


「ふふ、好きですよ! 意外ですか? クリス様はね、意外とモテるんですよ!」


「そ、そうなんですか?」


確かに、侯爵家嫡男で銀髪に碧眼で、背も高く、スラリとしている。

一見儚い系イケメンである。

見た目儚いのに、拳でしか語り合えないし。

それでいてシスコンなのだ。

まさか……そこに惹かれたとか……?

ニッチだ。ニッチ過ぎるー!


混乱している私を見てマオが笑った。

「リリアーナのクリス様への評価が低すぎなんです。あの日、夢中で助けに行くクリス様はカッコ良かったですよ。」


「リリアーナ樣とマオ様は、とっても仲が良いんですね。」


「はい! 最近友達になったんです!」


「そうなんですか? お二人は、その……特別な関係に見えました。」


「学園に来るまでは、父の従者だったので。ここに来る途中に、友達に変更してもらいました。初めての友達なの。」


「ふふ、マオ様も、大変ですね。」


「はぁ……。ご理解いただけたようで。」

何故か見えない同盟が、ここに組まれた気がした。


「リリアーナ様、私もそのお友達に入れてくださいませんか?」


「もちろんです! オリビア様! ………ッ」

嬉しくて、思わずガタンと立ち上がって脚を打ってしまった。


「これは可愛いですね、マオ様!」


「はい、とても。」


「それでは、私はおじゃま虫なので、失礼しますね! お二人はごゆっくり。」



ーーーーーー



4月に入り、入学式を迎えた。

貴族令息、令嬢が通う学園なので、派手な催しとなるのかと思ったけど、

学園長からのお話、先生の紹介、在校生からの学園紹介などなど、充実した内容だった。



入学式が終わり、寮に戻る。 


突然後ろから腕をつかまれ、力強く引き寄せられた。


「リリアーナ? やはり! リリアーナではないか!」


まずーーーーい! この声は……。

厚切りメガネをかけておけば良かった。

抜かった。完全に抜かったわーーーー!


「目は良くなったのか? やはり可愛いなぁ、うんうん。ところで、クラスはどこなのだ?」


矢継ぎ早に聞いてくるこの厄介な男は、もちろんウィリアム殿下である。


「殿下、ご機嫌麗しゅうございます。」


「よいよいよい、リリアーナ、先程の先生方の話を聞いていたか? 学園では上も下もない。 私とリリアーナは対等だ!」


「そ、そうはいきません。殿下と対等など、不敬にあたります。」


「よいのだ、そなたは、わたしの、その、なんだ、妃になるのだしな。ハハハハ。」


一瞬固まってしまい、キャパを越えてしまった私は


「ししし、失礼しまーす!」

と声を裏返して、スススーと走り去った。




ーーーーーー




部屋に戻ると、はぁ…っとため息が出た。


「コン、、コン、、コン、、」

紙飛行機ね!と、すぐに気付いた。


ガチャリと窓を開けると、フワリと入ってきた。

相変わらず、机にきれいに着陸すると、きれいにパラパラと開いた。


《眼鏡なくしたんですか? お妃様》

と書いてあった。


窓に戻り、マオの部屋を見る。

窓際にいるマオは、こっちを見ない。


リリアーナは大きく手を振った。

こっちを見ない。


何これ、怒ってるの?


机に戻って、紙飛行機に書いてみる。

《無くしてないよ? お妃様なんてやめて。》


紙飛行機を折る。

窓際から投げてみた。


フワリときれいに飛び、一度旋回すると

マオの元へ向かった。

一度もこちらを見ずに、マオは紙飛行機をパシっと掴んだ。


ゆっくり紙飛行機を広げて、見ている。


もう……マオ、こっち見てよ。

おーい。ともう一度手を振る。


マオは一度前髪をクシャっとすると、部屋に戻って行った。

一度もこちらを見なかった。


もう……! なんなのよ……!

モヤモヤするー。






今日はもう外には出たくないので、夕飯は女子寮内の食堂で食べることにした。

「リリアーナ様?」

「オリビア様!」


オリビア樣と、偶然にもまた食堂の前で会った。


「オリビア様、ご一緒しても良いですか?」

「ええ、もちろんよ。」


オリビア様には、心を許してしまう。

そんな不思議なオーラがある。

モヤモヤしている理由を、思い切って話してみた。


一通り話しを聞いてくださると、オリビア様は

「マオ様のこと、どう思ってるんですか?」

と聞かれた。

「…………かっこいい。かっこよくて、ちょっと困ってるんです。」素直にそう答えた。


オリビア様はクスリと笑うと、

「リリアーナ様は……天然ではないのに、自分の事となると…何ていうか、疎いのね。大丈夫よ、2人なら、すぐにまた戻るわ。」と言ってくれた。


「それは予知ですか? いつ仲直り出来ますでしょうか……」


「ふふ、予知ではないわね。そうね、明日にはきっと仲直りしてるわよ!」


話を聞いてもらったら、なんだかスッキリして。

お礼を告げて、私達はそれぞれの部屋に戻った。




ーーーーーー



翌日私は、厚切り眼鏡をつけて教室に向かった。

途中マオと顔を合わせると、

「もう、今更眼鏡は着けなくていいでしょ。」と外された。


「怒ってる?」

「怒ってません。……すみませんでした。」

「ううん、いいの。」

「良いんですか?」

「うん、マオがちゃんと私を見てくれるなら、良いの!」

「………っもう、なんなんですか。」

マオを見ると顔を半分片手で隠して、顔を赤く染めていた。


「ふふ、マオ、可愛い。」

「こっちの台詞です。行きますよ!」


リリアーナは、自分の以外にも予知能力者がいたのだと、オリビアの顔を思い浮かべた。

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