第24話 甘い、甘い。
秋も深まり、私は冬休み前のテスト勉強に明け暮れていた。
そんな学生らしい、規則正しい生活にも慣れてきた。
コン、コンコンコン……
マオは相変わらず忙しくしていて、久しぶりの紙飛行機に、慌てて立ち上がり、足の小指を打ってしまった。
「いっ……たぁーーーい!」
うずくまると、カゲが心配そうに寄ってきて、次の瞬間部屋が眩い光に包まれ、マオが駆けつけてきた。
「どうした? 怪我はどこ?」
すぐに抱きかかえ、ベッドにおろされ、靴を脱がされる。
「うぐっ……、大した事ないの……でもまだ痛い。マオなんで分かったの?」
「うん、リリーが危ない時は、僕に伝わるんだ。痛いところ見せて? 医務室に行こう。」
サラっと言いましたけど、どういう事でしょうか……。
「大丈夫よ、こんな間の抜けた事で行くのは恥ずかしいわ。もう少し待って。」
少し時間が経つと、痛みも落ち着いてきて、私の足の小指を、曲げて伸ばして。何度も確認される。
「ね?もうなんとも無いの。それより、カゲと入れ変わったのね。」
「うん、転移でも良かったんだけど、入れ替わる方が早くてね。はぁ…焦ったよ。リリーもう少し、落ち着いて。」
またカゲを出し直さなきゃならないことに、マオの髪の毛を心配してしまう。
「ごめんなさい。嬉しかったの。あ、紙飛行機には何て書いてあったの?」
すると、どこからか紙飛行機が飛んできて、マオの手におさまった。
それから開くと……
『散歩しませんか?』
「ふふ、行くわ!」
「うーん、もう足は大丈夫?」
「平気よ!ね、ほら。」
もう一度、足先をグーパーする。
「じゃあ、空中散歩にしよう。」
鏡を見て、髪の毛を整えて、お土産に買ったキャンディをポケットにしまうと、私達は窓からこっそり抜け出た。
「少し高いところに行こう。」
そう言うと、学園の鐘の塔まで上った。
鐘の前に座る。
この場所は、初めてキスをした場所で、それを思い出して胸が騒ぎ出す。
「リリー?」
「ひ、ひゃい!?」
「プフ、緊張してるんですか?」
ちょうど沈む夕日が見えて。
オレンジ色と紺色の割合が、どんどん変化していく夕焼けの空がとても綺麗で。
「あ、これマオにお土産!」
「ん?」
きれいなガラス瓶に入った《コンペイトウ》を渡した。
ピンク、水色、白、黄色、薄緑……
「これがね、《コンペイトウ》で、こっちは《キンタローアメ》よ。ふふふ、黒猫の絵柄なの、カゲみたいで可愛いでしょ!」
「これはカゲだね、可愛いね、ありがとう。」
「あとね、《キンタローアメ》には色々な柄があってね、白くて四角い、枕柄というのもあったの!ふふふ、全然人気がないみたいで、店員さんも困ってる感じだったわ。」
「えっ……。あれは、僕のイチオシなんですけど。」
「え?マオもキャンディ屋さんに行ったことあるの?」
「はい。僕のお店ですからね。祖父から話で聞いた異世界のお菓子店を作ってみたくて。」
「……早く言ってよ!」
「いや、聞かれなかったんで……。」
「もぅ、マオって変なところで、変なんだから。」
「ふふ、意外と人気が出ましたので、リリーとの駆け落ち資金もバッチリです!」
「え!?そんな計画立ててたの?」
「冗談です。いやでも、いざとなったら攫って行きますよ?」
薄暗くなり始めた空に《コンペイトウ》の瓶をかざす。
「とても綺麗ね、星空みたい。」
「うん、これからもずっと、一緒に見よう。」
瓶を開けると、コロコロとカラフルな《コンペイトウ》が出て来た。
私とマオ、ひと粒づつ食べる。
「甘いわね、お砂糖みたい。そっちの味は、何味?」
マオの顔を見ると、こちらを見ていた。
ずっと見てたの?
マオの掌が、私の頬を覆う。
そのまま顔が近づいて、久しぶりのキスをした。
すごく甘い、甘いキスを。
「こんな味でした。」
「ふふ、もうひと粒食べない?」
ーーーーーー
この冬休みの間、オリビア様は花嫁修業という名目で、タウンハウスに勉強に来ていた。
兄とオリビア様は卒業後、オーベル領で領地の管理をすることになる。
いずれは二人で領地経営をするのだ。
兄達の結婚式は6月に決まり、オリビア様は、時折ドレスやブーケ、テーブルセットの相談をしてくれる。
本来なら、ここにはお母様も居たんだろうなぁ……なんて思ってしまう。
背が高くて、細身のオリビア様には、白のマーメイドラインのドレスがよく似合っていた。
「リリアーナ様のドレスはどんなものにするの?」
「ん〜……。まだ悩んでます。」
「ふふふ、良かったら私も一緒に悩ませて。」
「嬉しいわ、ありがとうございます。オリビア様。」
「マオ様と揃えるのもいいわね。」
「……それ、すごく良いですね! 早速マオに話してみます。」
オリビア様は周りの幸せ、私の幸せも喜んでくれる人で、あの時、予知夢でオリビア様を助けられたこと。
私にとって、ただただ重荷だった予知能力だけど、目の前にいるこの人の笑顔を守れた。
それは私の中の大きな変化だった。
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