第23話 やっぱりパンケーキが好き?

大好きな人とのひとときは、一瞬で。


マオは「見つかったら、候爵様とクリス様に、過労死か、物理的に殺されるから。」と、物騒なことを言って、また転移魔法で帰っていった。

すました顔して、父がマオに堤防作りをさせているのだと悟った。



学園が始まってからも、カゲはずっと側にいた。

カゲは友人や先生からも、普通の猫と認識されていて、おやつをもらったり、遊んでもらったりと、人気者になっていた。


カゲは魔力で出来ているのに、魔力を外には出さないから今のところ誰も気づいてないらしい。


ちなみに、マオはカゲと入れ替わることが出来る。入れ替わるといっても、カゲは一度消えちゃうから、また出さなきゃいけないんだけど。


毎回、マオの髪の毛を使うから、いつかマオが剥げてしまうんじゃないか……と、実は心配している。

オデコ側から上がっていくなら……いや、ダメよ、そうね年老いたら仕方ないわね。

うん、まだ多用できない。

緊急事態だけね!




マオは学園が始まってから、2週間来なかったけど、それから合流できた。


「マオ様が王都中の堤防を作られたのよ!」

と宣伝しているのはユーリア様だった。

マオが学園に、戻ってきてから、そばにはユーリア様が居た。

時折私を見ると、わざとらしくベタベタしている気がした。

気持ちはチクチクするけど、ユーリア様のこと以外は、平和な時間が過ぎていった。




「ねえ、リリアーナ、新しいケーキ店が出来たのよ。ホイップたっぷりのパンケーキですって! 好きでしょう? 南国で流行ってたお店を持ってきたらしいわ! どう? 一緒に行かない?」

以前と変わらずに、毎日話しかけてくれるコリン。


「そうね、前にマオに心配かけてしまったから、一度相談してみるわ。」



今日もマオは学園には来ていない。

放課後、カゲを通じてマオに相談してみると、寮の部屋に相変わらず、紙飛行機が飛んできた。

『カゲを必ず連れて行ってください。それから護衛も付けますね。』

カゲは連れて行かなくても、絶対ついてくるじゃない。



翌日、護衛として来てくれたのは、アンくらいの歳のナイスミディだった。

「はじめまして、リリアーナ様。シェイラ・ラッセルと申します。マオ様からご依頼頂きました。今後も外出の際は、ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」


「ええ、ありがとう、シェイラ。よろしくね。」


「元々は騎士団にいて、魔法騎士をしていました。結婚して、子供も大きくなりましたからね、お話を聞いて、手を挙げました。」

それから、ご主人が魔術師団員とのことだつた。



ほとんど外に出たことがなかった私にとって、護衛がつくこと自体あまりないのだけど、女性というのは初めてだった。

とても背の高い女性で、騎士らしく姿勢がスッとしていて、かっこいい。



放課後また着替えをしてから、コリンと門で待ち合わせをして、街へ向かった。

「ふふふ、マオ様でしょ?リリアーナに護衛つけたの。」

「ええ、そうよ! なんで分かったの?」

「女性騎士だなんて、初めて見たわ! マオ様らしいわね! ふふふ。」



パンケーキ店は、お店の前に入店待ちの列が出来ていた。

殆どが女の子で、あちこちからキャーキャーと楽しそうに会話が聞こえる。

「魔術師のマオ様ね、私は4区画で見たわ!とっても素敵だったわぁー!」

「いいなぁ。私も見たかったわ。イケメンで魔術師団の団長候補でしょ〜? はぁ…憧れちゃう。」

「でも、公爵令嬢のユーリア様と婚約するらしいじゃない。」

「そうよね、はぁ……あんな美男美女で、お似合いよね。」



マオ様って、マオ? いや待て待て、他にもいるんだ、きっと。



「リリアーナ、気にしちゃ駄目よ。ユーリア様が色々勝手に、噂を流してるらしいわ。」

「や、やっぱりマオのことなの?」

「はぁ……。リリアーナは平和ね。でもそれくらいで良いと思うわ。」



それからしばらくして、席に案内された。

窓が大きくて、明るい店内には、女性ばかりだった。

薄いパンケーキが5枚積み重なって、その上からパンケーキの高さ3倍程はある、ホイップクリームが山のように乗っていた。

私は、いちごトッピングにしたから、フレッシュないちごと、お店で作っているジャムが散りばめられている。

薄いモチモチのパンケーキに、クリームを乗せて食べた。

クリームはそれほど甘くなく、ふわっと口の中で溶ける。

いちごの爽やかな香りと酸味がアクセントになるわね……。

「はぁ……、最高ね。マオにも食べさせたいわ。」

「ふふふ、本当に、リリアーナは平和ね。」



帰りには、またキャンディ店に寄った。

店頭で、トントントンと《キンタローアメ》がリズムよく切られていて、今日は黒猫の絵柄がコロコロと出てきた。

「はぁ……可愛いわ! カゲみたい!」

店内には、新作の絵柄が他にもあった。

「何かしら、この白くて四角い絵柄は……。」 


すると店員さんが、困った顔で答えてくれた。

「こちらは、枕柄なんですけど、正直あまり売れてませんね。」


そうね、確かに分かりづらいし……なんというか、地味ね。


それから、きれいな瓶に入った、カラフルで星のような《コンペイトウ》というキャンディを見つけた。


あの日、別荘で屋根の上からマオと見た、無数の星を思い出す……。

「うん! これは、マオへのお土産にしよっ!」


コリン様とは、またお出かけの約束をして、シェイラに寮の部屋の前まで送られて、今回のお出かけは、何事もなく終了した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る