第6話 冒険者との出会い
私はキャンピングカーを止めて、周囲を見る。街道の横に広場があり、馬車を停めて野宿することができるようになっていた。いくつかテントが張ってある。
なるほど、道中の街や村に立ち寄れなかったときのためにこういう設備があるのね。
そして本題の果物だが、その広場の端に何本か木が生えていた。どうやらそこから熟れたものが地面に落ちたようだ。
……あれって食べてもいいのかな?
とりあえず見てみることにしよう。私がドアを開けて降りようとすると、『にゃ~?』とおはぎが起きて私の肩に乗ってきた。
「そうだね、おはぎも一緒に行こう」
私はキャンピングカーから下りると、スキルを使ってキャンピングカーをしまう。都度召喚すればいいので、駐車場の心配をしなくていいのがとても助かる。
すると、「何者だ!?」という声が私に向けられた。
「――!」
「今の、巨大なものはなんだ……?」
やってきたのは、防具を身につけた二人の男女の冒険者だった。手にはランタンを持っている。こんな街道で野宿をしているのだから、夜の見張り番がいないわけがなかった。
私は「怪しい者ではありませんよ」と言いつつも、国外追放を言い渡されているので怪しいものだったかもしれないと心の片隅で思ったが……気にしないことにした。
「今のは私の固有スキルなので、すみませんが詳細はお伝えできません」
「! 固有スキル持ちだったのか……なら、あまり突っ込んで聞くわけにもいかないか」
追及はしないでくれた男性冒険者に、私はほっとする。
この乙女ゲーム世界には通常のスキルと固有スキルの二種類があり、スキル――特に固有スキルを詮索するのはよくないとされている。特に冒険者などは、自身のスキルを知られることで弱点になることもあるからね。
「それより、私は彼女の服装の方が気になるんだけど……? なんか厄介なことになってるんじゃないの?」
「あ……」
そういえば舞踏会のドレスのままだったことを思い出す。こんな夜中にドレスの女が一人、いきなり現れたら驚かれても仕方ないだろう。
「オホホホ」
とりあえず笑って誤魔化しておいた。
「それはそうと……少しお伺いしたいことが。この広場に生っている果物は誰かの所有物だったりしますか? お腹が空いたんですけど、あいにく何も持っていなくて」
「めちゃくちゃ訳アリっぽいじゃん! ……あの果物は、特に誰のものでもないから自由に食べて大丈夫だよ」
「おお! 教えてくれてありがとう!」
自由に食べていいらしい。
果物の木は、みかんと、この世界特有のリーリシュという甘い果物だった。どちらも背の高さは二メートルもなかったので、私でも簡単に収穫することができた。
「こっちで焚火にあたりながら食べたら? もう春とはいえ、夜は冷えるでしょ?」
「焚火!? いいんですか!?」
「構わないよ」
私はありがたく焚火にあたらせてもらうことにした。
は~焚火だ。火がゆらゆらして、木がはぜる音を聞くのはなんとも風流があっていいと思う。このままずっと見ていたい。落ち着く~。
すると、女冒険者が鞄の中から干し肉を取り出して「ほら」と私へ差し出す。その顔はちょっと照れているようにも見える。
「その、厄介者とかいって悪かったね。肉も少しは食べておいた方がいいよ」
「何から何までありがとう……!」
私は感謝して干し肉をいただくことにした。
おはぎにはリーリシュを小さく切って与えると、美味しそうに『にゃうにゃう』と食べてくれる。可愛い。
あとは……。
「すみません、フライパンみたいなものって借りれたりしますか?」
「え? あるけど……」
私の問いかけに、女冒険者はきょとんとしつつも頷いてくれた。
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