第5話 ちょっとした仕組み
「そういえば、キャンピングカーといえば簡易ベッドがあるよね? きっとテーブルとソファを収納すると、寝るスペースができるはず……」
私はテーブルとソファをいろいろな角度から見て、触って、動かせないか試してみる。すると、ソファもテーブルも折りたたんで収納するとベッドになった。
はあぁぁ~、今すぐ寝ちゃいたい……。
しかしこの状況下で寝てしまうのはよくない。もう少し進んでおかないと、クロードたちに追いつかれてしまう可能性もある。
『にゃふぅ……』
しかしおはぎは眠かったようで、ベッドにしたとたん丸まって寝てしまった。すぐにスピスピと寝息が聞こえてきた。
「そうだよね、おはぎはまだ子猫だもんね……。いっぱい寝て、大きくなるんだよ」
私が寝ているおはぎのおでこを撫でると、ゴロゴロ……と嬉しそうな寝息を立ててくれた。私、おはぎのために稼ぐよ……!
「もうちょっと頑張りますか……って、あれ?」
ふいに運転席方向に視線を向けると、壁に取っ手がついていた。よくみたら引き戸になっているみたいだ。
これはもしかしてもしかしなくても……。私が引き戸を開けると、運転席が顔を出した。どうやら仕切りがあっただけで、居住スペースと繋がっていたみたいだ。
「これなら移動するとき外に出る必要もないから、楽ちんだ~!」
これはいい大発見!
私はルンルン気分で運転席に移動する。
「あ、靴も持ってこないと運転できないや」
さすがに裸足で運転するわけにもいかないからね。とはいえ今の靴はヒールなので運転に適してはいないんだけれど……履いているだけマシと考えよう。
運転席に座ると、目の前のインパネが気になった。よく見ると右下のところに鍵のアイコンがあった。タップしてみると、『利用許可者一覧』『ゲスト』と出てきた。ゲストのところには、おはぎの名前がある。
「もしかして、ここに登録するとキャンピングカーの施錠ができるようになるのかな?」
私はインパネをタップして、おはぎをゲストから利用許可者に変更した。おはぎが自分でドアを開けれるかと言われたら微妙だけれど、何かあったときのために登録しておいた方がいいだろう。
「よし、準備万端! おはぎが寝てるから、安全運転でいきますか」
キャンピングカーのヘッドライトを付けて、再び走り始めた。馬車が走っていない深夜の間に、もう少し王都から離れよう。
ブロロロ……と走り出し、私はやっと落ち着けた気分になってきた。
今までの18年間は、本当に辛かった。乙女ゲームが始まり、学園に通うようになってからはさらに……。いじめるはずの悪役令嬢の私がいじめられているという不思議な状況だったのだから。
その分、今から目いっぱい人生を楽しむのだけれど。
「今まではお父様から私に雀の涙くらいの予算しかもらってなかったけど、これからは自分で稼いで生きていけるんだよね」
それだけでハッピーだ。
ただ収入の目途はまだ立てていないので、そこは考えなければいけない。今着ているドレスやアクセサリーは、売っぱらって慰謝料としていただくつもりだが。
「あとはやっぱり、キャンピングカー生活を満喫したいよね!」
実は前世ではまあまあな社畜だった私は、夜な夜な焚火動画を見て癒されていた……。不思議だよね、焚火ってずっと見てられると思う。お勧めです。
その動画の関連で、キャンプやキャンピングカーの動画も見る機会が多かった。気づけばキャンプ系の動画が大好きになり、いつか自分でもやってみたいと思っていたのだ。
……まさか転生したのちにその夢が叶うとは思わなかったけど。
「あ!」
丁度ヘッドライトに照らされた道の端に、木の実が落ちていることに気づいた。
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