第15話 念願の焚火!
「すーはー、すーはー。大丈夫、スライムだったら私にも倒せる!」
私はぐっと短剣を握りこみ、おそるおそるスライムへと近づいていく。気合は入れたけれど、私は走っていって切りつける主人公タイプではないのだ。
すると、スライムも動きを見せた。
のろ……。
のろのろ……。
「…………遅っ!」
五倍速再生くらいしたいと思ってしまうほどの移動速度だった。これはスライムが雑魚と呼ばれてしまっても仕方ないかもしれない。
のろり……。
「こんなにゆっくり歩かれると、逆に申し訳なくて攻撃できないよ……」
のろのろ……。
どうしよう。
見逃してあげた方がいいのだろうか。そんなことを考え始めたとき、おはぎがトットットッとスライムの方へ歩いて行って――ザシュッ!
「おはぎ!?」
『にゃふっ!』
鋭い爪でスライムを核ごと引っ掻いて倒してしまった……!!
そうか、これが弱肉強食というものなのか……。私はまた一つ、旅に出て自然の摂理を学んでしまったようだ。
スライムさんのことは綺麗さっぱり忘れることにして、私は念願の焚火を始めることにした。
「さてと……」
キャンピングカーのところへ戻ってきた私は、さっそく拾ってきた木の枝を重ねていく。太めで大きいものは下に置いて、その上に細い枝を置く。
いい感じに木の枝を積み上げたら、次は火種を作らなければいけない。
「確か動画だと、木の枝をナイフで削ってたんだよね。確か、フェザースティック、だっけ? 彼岸花みたいになって、結構可愛い仕上がりだったんだよね」
短剣で削るくらいだったら、刃物に不慣れな私でもできそうだ。
左手で木の枝を持って、右手で短剣を持って……いざ!
自分の手元方向から先へ向け短剣で枝の側面を削っていく。鰹節を削るのにちょっと似てるかもしれない。ちょっとだけ。本当にちょっと。
それを何回か繰り返すと、削った部分が枝の先に集まってくるんとなり、花みたいになるのだ。ここの削った部分が、いい仕事をして焚火へと導いてくれるらしいのだ。
「よし、できた!」
最初は可愛くできるかなと思ったけれど、不慣れな自分がやったせいでいびつなフェザースティックになってしまった……。
ただ一つでは心もとないので、それを五本ほど作ったらまあまあ慣れてきて楽しくなった。
ということで、下準備はこんなものでいいだろう。
私は作ったフェザースティック三つを組んだ木の上に置いて、もう一つは中の方へ押し込んでみる。これくらい入れておけば、いい感じに燃えるのではないだろうか。
「おはぎ、火をつけるからちょっと離れててね。熱い熱いなんだよ」
『にゃうー?』
おはぎを持ち上げて、焚火予定地から少し離れたところに下してあげる。これなら大丈夫だろう。
私は着火石を取り出して、木の枝を組んだ上でカシッカシッと擦り合わせるようにぶつけ合った。すると、パチッと火花が飛んで、それがフェザースティックへ移った。
「お? お、おお……?」
火花らしきものは、フェザースティックのわさわさっとした部分に潜りこんでいってしまった。
……大丈夫かな?
私が心配になってそろっと覗き込むと、いきなりボッと音を立てて燃え始めた。
「うひゃっ! あっちぃ!!」
『シャーッ!』
私がびっくりしたからおはぎもびっくりしてしまったみたいだ。
「ごめんごめん、おはぎ!」
『にゃふ』
「……って、私の前髪ちょっと焦げてる!!」
なんてこった。
焚火を召喚するために自分の前髪を捧げなければいけないなんて、知らなかったよ……。
「でもせっかくだし、髪の毛……切ろうかな」
令嬢をやっていたので、生まれてからずっと長い髪だった。なので、ばっさりきってボブくらいにしてもいいかもしれない。
次から次にやりたいことばっかりで、私の欲は当分止まることはなさそうだ。
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