第29話 頂上からの景色

 私は山を下る前に、キャンピングカーの外へ出た。

 もう辺りは暗くなってしまっているので、今日はここで一泊して朝になったら山を下りるのがいいだろう。


「ん~、満天の星! そして山は――ん?」


 暗くて何も見えないだろうと思っていた山は、なぜかところどころ光っていた。蛍がいるにしては大きな光で、山のいたるところで見られる。


「でも、光が見えるのは山の向こう側だけだ。私が登ってきた方は全然光ってない」


 いったい何があるのだろうか?

 すぐ近くであれば、目と鼻の先――数十歩ほどのところの草むらが光っている。


「おはぎ、見に行ってみよう?」

『にゃ!』


 声をかけると、おはぎが軽やかにジャンプをして私の肩に乗った。相変わらずナイスジャンプです!


 ファンタジーの鉄板、光る鉱石みたいなアイテムが落ちていたらいいな。間違っても変な虫が光っていませんようにと、ちょっと恐る恐る近づいてみると、そこには光る花が咲いていた。


「わあぁ、ファンタジー! なんの花だろう?」


 光っているのはネモフィラに似た水色の花で、花弁の中心の色は白になっていて、そこから光が零れている。

 一ヶ所に数株が集まって咲いているので、遠目から見たときに幻想的な光の光景に見えたのだろう。


「これって、摘んでも光ったままなのかな?」

『にゃにゃっ!』


 私がしゃがんで光る花を見ていると、肩の上に乗ったままのおはぎが花にじゃれるように猫パンチをしている。光っているので、気になっているみたいだ。

 花がねこじゃらし替わりになっている……。


 私はクスリと笑って、光る花を一輪手に取った。


「おお~っ、摘んでも光ったままなんだ!」


 これはいいね。

 何本か摘んで花瓶に活けて、夜の照明にしたら素敵だと思う。ベッドサイドに置くのもいいけど、森の中で明りにして静かなキャンプをするのもいい。


「うわ~、光る花のテンション半端ない……!」


 私はそれから何本か摘んで、キャンピングカーに戻った。



「山を下りたところにある村に行ったら、この花の名前とかもわかるかな?」


 もしかしたら、照明以外にも有効活用する方法があるかもしれない。私は明日下山するのがとっても楽しみになる。


 よーし、このテンションのまま焚火もしっちゃおうかな?

 シャワー室が設置されたので、焚火で頭が臭くなってもへっちゃらだ。


 私はキャンピングカーのトランクに積んでおいた、以前拾った薪を取り出す。一五本くらいをひとまとめにして、麻縄で縛っておいたのだ。

 ホームセンターで売ってる薪みたいで、なんだか楽しい。キャンプ用品もどきも、もっと増やしていきたいところだ。

 この世界だと、キャンプっていうより野宿用品だね。


 ちょっとだけ地面を掘って、その上に薪を積んでいく。

 そして前回同様、木の枝をナイフで削ってフェザースティックをいくつか作る。それを組んだ薪の下の方に入れれば準備完了だ。

 ……この間みたいに前髪を燃やす失態はもうしないよ!


「あとは着火石で……っと」


 まだ少し不慣れではあるけれど、着火石は問題なく使うことができる。簡単に火種ができて、すぐにフェザースティックが燃え始めた。


「よしよし、いい感じ」


 フェザースティックがぼうっと大きく燃えて、その火がゆっくり薪に移っていく。その様子をただじっと見つめているのが、なんだか楽しい。

 は~~~~、ずっと見ていたい。

 しかし少しすると火が燃え広がって、立派な焚火が完成した。ちょっと寂しいような、でも嬉しいような微妙な感想をいだきつつ……私は食材を取るため一度キャンピングカーに戻った。

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