第11話 道具屋
お腹を満たしたあとは、日用品と食料の買い出しだ。
「せっかくだから、タープになるものがほしいんだよね」
『にゃ?』
タープというのは、簡単に言うと大きな防水布だ。
テントのようなしっかりした造りではなくて、屋根をつける……という感じだろうか。木を利用して固定したり、今だったらキャンピングカーのドアの前やトランク部分につけたりしてもいいだろう。
しかし防水布なんて、この世界にあるのだろうか?
今まで貴族の令嬢として生活していたミザリーは、この世界で生きていたにも関わらずわからないことが多い。
「乙女ゲームだけど、魔物が出るし、冒険者もいるし……あ! 冒険者ご用達のお店に行けばあるかもしれない!!」
――さすが私、閃いてる!
ということでさっそく冒険者が利用する道具屋へやってきた。
大通り沿いにあった道具屋に入ると、ランタンや野営用のテント、魔物が嫌う匂いの草、革袋や短剣など冒険に必需品のアイテムが並んでいた。
……ファンタジーだ。
その中に紛れて、野営で使えそうな小さいフライパンや鍋なども置かれている。荷物として持っていくこともできそうだ。
私はキャンピングカーがあるので、いくら荷物があっても問題はない。
まず手にしたのは、お鍋二つだ。
私とおはぎ、味付けが異なるのでそれぞれ用意するのは必須だ。
そしてお鍋といえば!
袋ラーメンとウインナーを入れてお鍋のまま食べたい! という、ちょっとした野望がある。それを叶えるときではないだろうか――ハッ!
「そうだ、この世界には袋ラーメンなんてないんだった……」
これなら実は料理がそんなに上手くない私でもお手軽にできると思ったのに、そう都合よくはいかないみたいだ。
いつか麺を手に入れることができたら挑戦してみよう。
「あ、この大きな布……タープになるんじゃない?」
手に取って広げてみると、大きさは三メートル×三メートルほどだろうか。私とおはぎで使うには、十分な大きさだ。
ただ問題は、普通の布……ということだろうか。
「これじゃあ、雨が降ったときは使えないよね」
私が悩んでいると、「加工布が必要かい?」と店員が声をかけてきた。どうやら加工してくれるみたいだ。
「どんな加工ができるんですか?」
「見本があるよ」
そう言って、店員はカウンターの奥から束になった見本の布を持ってきてくれた。
純粋に厚みがある布、網目が粗くなって風通しがよさそうな布、ツルツルした布など、いくつも種類がある。
「へえぇ、面白いですね」
いろいろ触っていくと、一枚これだ! という加工の布があった。ポリエステルとナイロンの合成繊維のような触り心地で、とても軽い。
私が熱心に触り心地を確認していると、店員が説明をしてくれた。
「それはマンドラゴラの樹液を塗って加工したものだよ。材料が材料なだけにかなり高いけど、持っていて損はない品さ」
「まんどらごら……?」
あの、引っこ抜いて悲鳴を聞くと死ぬという植物だろうか……?
でも加工の素材として使われているのなら、それほど恐ろしい植物ではないのかもしれない。
ちなみにお値段を聞いてみたら、私が売ったドレスの残金のほとんどすべてだった。大きい布なので、それくらいはかかってしまうみたいだ。
「厳しいようだったら、加工する布を小さくすれば安くなるよ」
「……いえ、このままでお願いします!」
所詮、このお金は公爵家のドレスを売って得たお金だ。これから独り立ちするためには、私が自分で稼いでいくのだ。
「大丈夫です! 加工をお願いします!」
「毎度あり!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます