第10話 屋台で朝ご飯

 服屋に入ると、カウンターにいた店員がこちらを見て――慌てて出てきて深く頭を下げた。間違いなくドレスのせいだろう。


「いらっしゃいませ!」

「ごめんなさい、ドレスを着てるだけで普通の街娘なの」


 私が理由を話し、着ているドレスを売って新しい服を買いたい旨を伝えると、「そうだったの~!」と店員の女性はめちゃくちゃ安心したようだ。

 ……もう私は公爵家の娘じゃないもんね。


 ドレスは無事に買い取ってもらえることになったので、新しい服を何着か選んだ。さすがに公爵家のドレスだけあって、いい値段で買い取ってもらえた。


 私は動きやすさを重視して服を選んだ。

 キャンピングカーを運転するんだから、裾の長いスカートはちょっと遠慮したい。膝丈のワンピースや、ホットパンツなど、キャンプをするときに着られそうなものもチョイスする。

 上着類もいくつかあるといいので、肌着なども含めていろいろ購入させてもらった。


「ありがとうございます!」

「私こそ、買い取ってもらってありがとうございます」

『にゃう!』



 服装の問題が解決したので、次はやはり――朝ご飯だ!!


「おはぎもお腹すいたよね?」

『にゃうぅ』


 どうやらお腹が空いたらしい。

 何かいい物はないかなと通りを進むと、いい匂いがただよってきた。パンとお肉が焼ける匂いだ……!


『にゃあぁ~!』

「うんうん、美味しそうな匂いだね……!」


 これはおそらく――鶏肉!

 ということで、私たちは匂いのする方に引き寄せられるのだった。




 たどり着いた場所は市場だった。

 その一画で飲食の屋台があり、いろいろな人が朝食を食べているところだった。串焼きを始め、サラダ、スープ、サンドイッチ、フルーツなどが多いみたいだ。


 私とおはぎは、焼いた鶏肉を野菜と一緒に挟んで販売している屋台へやってきた。甘辛ソースがかかっていて、容赦なく食欲をそそってくる。


「はああぁぁ、美味しそう!」

「らっしゃい」

「サンドイッチを一つお願いします! それと……あれって、いただけますか?」

「ん?」


 私が指差したのは、下茹でをしている鶏肉だ。味付けをしてしまったものをおはぎにあげるわけにはいかないが、ただ茹でただけの鶏肉ならあげても問題ない。


「この子のご飯にしたいんです」

「ああ、猫の! もちろんいいぞ。たくさん食わせてやってくれ。タレがついたものをあげるわけにはいかないもんな」

「ありがとうございます!」


 自分の分と、おはぎの分のお肉の代金を支払って受け取った。

 ちなみに鶏肉は塩なども使っていないというのも確認している。塩分の摂りすぎはよくないからね……!



 それからスープを購入し、私たちは近くのベンチで朝ご飯にした。

 おはぎにあげるのは、鶏胸肉と、その半分くらいの鶏もも肉だ。まだ成猫ではないので、一日数回に分けてご飯をあげる必要がある。


『にゃっ、にゃっ、にゃ~~っ!』

「わあ、大興奮。どうぞ、おはぎ」

『にゃ!』


 屋台で借りた小さなお皿にお肉を盛ってあげると、おはぎがすごい勢いで食べ始めた。尻尾をゆらゆらさせているので、美味しくてたまらないということがわかる。


「ではでは、私もいただきます!」


 硬めのバンズにシャキシャキのレタスと、その上に甘辛ソースのかかった鶏肉が載っている。

 令嬢をやっていたときは、とてもではないが食べられなかった料理だ。

 しかし今の私は庶民! 誰に何を言われても平民だと胸を張って主張する! ということで、気にせず大口でサンドイッチにかぶりついた。


「んっ!」


 かぶりついたとたん、お肉の存在感が口内いっぱいに広がった。どうやら茹でた後に焼いているみたいで、皮の部分がパリパリだった。中から溢れる肉汁が甘辛ソースに絡みついて、食べるのを止められない。

 一緒にサンドされているレタスは瑞々しくて、濃厚な味わいのソースの後味を少しだけさっぱりさせてくれる。


「ん~~、美味しい~~!」


 私は美味しさのあまり声をあげるのだった。

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