第19話 観光名所

「は~~、やっと隣国!」


 国境門をくぐってすぐに、私はぐぐーっと伸びをした。なんだか、いろいろなことから解放されたような、爽やかな気分だ。


「もう国には戻れないから、いろいろなところを旅してみよっか。のんびりキャンピングカーで生活するのも楽しいし。どうかな、おはぎ」

『にゃぁ~!』


 最初はおはぎが環境変化でストレスをかかえてしまうかも……と心配していたけれど、私と同じで家から出たときの方が生き生きとしている。

 ということで、私は前世のときに夢見ていたのんびりスローライフ生活を送ることに決めました。




 さすがに国境門の近くは人が大勢いるので、キャンピングカーを出すのには適さない。とはいえ、もう隣国なので急ぐ旅でもない。

 幸い、一〇分ほど歩いたところに国境の街があるので、そこで少しだけゆっくりすることにした。


「買いたいものはいっぱいあるんだよね。包丁とクッションは必須だし、タオルとかの生活用品もほしいんだよね」


 この先スキルレベルが上がってきたら、キャンピングカーも大きくなっていくかもしれない。それを考えると、食器類も充実させていきたいところだ。

 う~ん、ほしいものが多すぎる。


「おはぎのおもちゃも買ってあげたいし……」


 でもこの世界って、ねこじゃらし的なものは売ってるんだろうか? そういうお店はみたことがないので、何か手作りおもちゃの方がいいかもしれない。


「あれ? あっちの方に歩いていく人が多いね」

『にゃ?』


 国境門から続く街道はまっすぐ街に伸びているんだけど、何人かの人たちが草原の中へ入って行っている。行き先は……丘の上みたいだ。

 よく見ると、人が通っている草原は踏み慣らされた跡がしっかり残っている。定期的に通る人が多いのだろう。


「……私たちも行ってみようか」

『にゃ!』


 好奇心に駆られた私は街道から外れて、草原の道を歩き始めた。

 子供から年寄りまで、いろいろな年齢の人が同じ方向に向かって歩いている。何があるのだろう?


 数分ほど歩くと、その答えがわかった。

 一面に、黄金色が広がっていた。


「わああ! 一面の花畑だ!!」

『にゃあぁ~!』


 丘の上に着くと、向こう側一面に花が咲いていたのだ。黄色の花が風に揺れ、その間にはシロツメクサも咲いている。まさに圧巻。

 これはいい観光名所だね……!


『にゃっ、にゃっ!』

「おはぎ?」


 突然興奮したおはぎが走り出したので、私は慌てて後を追いかける。何事かと思ったら蝶々が飛んでいたみたいだ。


「きゃー! 駄目、蝶々を狩らないで~!」


 私は慌てておはぎを抱っこして、ふうと息をつく。

 ネズミあたりならいいかもしれないけれど、さすがに蝶々はね……観光客はほかにもいるから……。

 おはぎはちょっと不貞腐れた様子を見せつつも、蝶々を狩るのはあきらめてくれた。よかった。


 もう少しのんびり花畑を見てから移動しようかなと思っていると、「いらっしゃい~! 蜜ジュースはいかがですか~」という声が聞こえてきた。


「蜜ジュース?」


 なんぞそれはと思い声のした方を見ると、屋台があった。どうやら花畑を見に来た人をターゲットにお店を出しているらしい。

 売っているのは、この花畑に咲いている黄色の花から取れた蜜をソーダ水で割ったジュースのようだ。


 何それ絶対に美味しいやつでは……!

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