第100話 今日は休日

 翌日、私たちは一日お休みにした。

 といっても、夕方にはティアーズフィッシュハンバーガーの販売をする予定なので、お休みと言っていいのかはわからないけれど……。


 とはいえせっかくの休み!

 ということで、私は釣り竿を持ってラウルと一緒に川にやってきた。

 おはぎはキャンピングカーの中でごろごろしていて、フィフィアはお風呂に入ってのんびりしたいということなのでお留守番をしてくれている。

 休日にお風呂に入ってまったりするなんて、なかなかのお風呂通ではないだろうか。



「それにしても、この川はすごく水が澄んでるよね。どこから流れてるんだろう。地下水なのかな?」


 もしかしたら、精霊のところから湧き上がってきているのかもしれない。


「うーん……。ダンジョンは理解できないような、不思議なことが多いからなぁ。研究者もいるけど、あんまりいい成果は出てないって聞いたきがする」

「人間が理解するには難しそうだねぇ……」


 私は苦笑して、釣り針に餌をつけて釣り竿を振った。


「理解することはあきらめるので、ぜひ釣果を!」


 すると、私の祈りが届いたのか……すぐにピクピクッと反応がきた。少し引いているだけなので、まだ、まだ耐えて……と様子を見る。


「お、いい出だしだな」

「うん。たくさんハンバーガーを売るためには、大漁でなくちゃ!」


 大きくくんっと引っ張られたので、私は慌てて竿を上げる。バシャンッと大きな水しぶきがかかってしまったけれど、無事に釣り上げた。


「うわ、でっかい!」

「大物だ!」


 ティアーズフィッシュは、私が両手を使ってやっと持ち上げられるくらいの大きさだった。昨日ラウルたちが釣ったものにくらべたら、二倍くらい大きいかもしれない。

 これは人生初の魚拓を取ってもいいレベルかも、なんて思ってしまう。

 とりあえず魚をバケツにいれてみるが、大きすぎたので尾びれがちょっと飛び出てしまった。


「これ一匹で、何人前の料理が作れるんだろうね」

「俺たちだけなら、腹いっぱいになるな」


 見ればラウルもびしょ濡れになっていたので、その様子を見て二人で笑う。


「せっかくなら煮つけとかも作りたいけど、調味料が足りないんだよね……」


 せめて醤油があれば、料理の幅が今の百倍くらい広がるのに……!!


「煮つけって?」

「ここら辺では食べないよね。魚を甘く似た感じの料理なんだけど、醤油が必要なんだよね。ラウル、知ってる?」

「ん~……」


 この世界も広いので、もしかしたらどこかに醤油があるかもしれない。そんな駄目元な気持ちでラウルに聞いてみると、「あ」と声をあげた。


「ミザリーの言う醤油かはわからないけど、甘い感じになる調味料があるっていうのは聞いたことがあるな」

「え、本当!?」

「旅をしてる冒険者に聞いたんだ。確か、東の方だったかな? 故郷の調味料は、ここら辺とは全然違うって言ってた」

「それは期待が持てそうかも……!」


 全然違うということは、味噌なんかもあるかもしれない。

 これからの旅は、進路を東にしてもいいかも。まだ見ぬ東の国へ、醤油・味噌・米を求めて出発だ! ――なんて。




「お、ミザリーかかってるぞ」

「これで五匹目、っと!」


 ここの川は魚があまりすれていないからか、結構簡単に釣ることができた。五匹も釣れば、夕食の分は十分だろう。


 あとは、お昼ご飯用があったらいいかな?

 せっかく新鮮な魚が手に入るので、美味しくいただきたい。私はワクワクしながら釣り竿を振った。


「そろそろ十分じゃないか?」

「今から釣るのは、私たちのお昼ご飯! せっかくだから、美味しい魚を堪能しよう」

「どんな料理になるか楽しみだな」


 それから魚を三匹釣りあげて、私たちはキャンピングカーに戻った。




「ミザリー、何か手伝うか?」

「あ、じゃあ野菜をお願いしようかな? ミニトマトと、何か緑の野菜……あ、アスパラがあったんじゃない? それからニンニクも!」

「オッケー!」


 私が材料を言うと、ラウルがすぐに取り出して洗ってくれる。ミニトマトはそのままで、アスパラは食べやすい大きさに切ってくれている。

 本当はアサリがあったらよかったんだけど、ないものは仕方がない。

 私はその間に魚の処理だ。内臓などを取り除いて、大きい骨も取ってしまう。これで多少は食べやすくなったはずだ。


 魚の皮部分をフォークで軽く刺して、塩コショウで下味をつけたらフライパンにオリーブオイルを入れてニンニクと一緒に皮がカリッとなるまで焼く。

 うん、香ばしくていい匂い!


「美味そうだな」

「ニンニクの匂いもたまらないねぇ」


 それからミニトマト、アスパラ、料理用のワインと水を入れ、魚に火が通るまでグツグツに混むだけだ。


「魚はこれでオッケー。パンはアクアパッツァ……魚料理のスープをつけて食べても美味しいと思う」

「それは名案だな」


 ラウルは頷いて、黒パンを取り出した。人数分に切り分けて、それぞれのお皿に持ってくれる。

 それからジャガイモでポテトサラダを作ったりし、お昼ご飯が完成した。



 私は脱衣所をノックして、「フィフィア~」と声をかける。


「私の部屋にもいなかったから、たぶんまだお風呂を満喫してるんだよね……? のぼせてないといいんだけど……」


 かなりの時間、フィフィアの姿を見ていない。最初にお風呂に入ったときにのぼせてしまったので、心配なのだ。

 すると、すぐ「はーい」と返事が聞こえた。


 ……よかった、倒れたりしてない。


 私はほっと胸を撫で下ろして、用件を伝える。


「お昼ご飯の準備ができたよ。お風呂、あがれそう?」

「お昼! すぐ行くわ!!」


 フィフィアはお風呂が好きだけれど、ご飯はもっと大事のようだ。その反応が可愛くて、思わず笑ってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る