第17話 ミツナスご飯

 自分のご飯はもうできあがるので、その間におはぎの鶏肉の準備に取りかかる。

 キャンピングカーの簡易キッチンで茹でたあと、途中で一度戻って火を止めておいたのだ。ゆっくり中まで火を通しているので、柔らかくできあがっている……予定だ。


 鶏肉を取り出して短剣で切ってみると、中までしっかり火が通っている。


「うん、いい感じ!」


 しかし包丁を買っておかなかったのは失敗だったなと反省する。さすがにこの世界だって、包丁くらいはあるはずだ。

 次の街に着いたら買う物リストに入れておかなければ。


 おはぎが食べやすいよう一口サイズにして、お皿に盛れば完成だ。

 鶏肉を茹でただけだけど、結構いい匂い――と思っていたら、『にゃっ!?』とものすごい勢いでおはぎが駆けてきた。


「おはぎ!?」

『にゃにゃっ』


 おはぎはやってくると、一目散に鶏肉に近づいて来た。鼻をふんふんさせて、食べたいのだと尻尾をゆらゆらさせている。

 ……そんなにいい匂いだったんだ。


「大丈夫だよ、これはおはぎの分だからね。外で一緒に食べよう」

『にゃっ!』


 私はお皿を持って外へ向かうと、上機嫌のおはぎがついてくる。


「可愛すぎでは……?」



 焚火で作っていた私の料理も、フライパンの蓋を取るとチーズがとろりと溶けた匂いが広がってきた。具材から落ちてフライパンについてしまった部分はカリカリになっていて、これまたテンションが上がる。

 チーズはどうやって食べても美味しいからね……!


 私はフライパンから直で食べるので、お皿の必要はナシ!

 面倒だからではない。これがキャンプの醍醐味であると私が勝手に思っているからだ。


「それじゃあ、いただきます!」

『にゃっ!』


 私がいただきますと言い終わるより早く、おはぎがお皿に顔を突っ込んでいった。よほど鶏肉が食べたくて仕方がなかったらしい。

 ……私のご飯ができるまで待たせちゃってごめんね……。


 おはぎが美味しそうに食べるのを眺めつつ、私も自分のご飯に手を付ける。

 ちなみに購入しておいた食器は、木製のスプーンです! 鶏肉はすでに一口サイズに切って料理してあるので、すくえば食べれるお手軽仕様!!


 スプーンですくうと、とろけたチーズがこれでもかと伸びて主張してきた。そんなチーズの隙間から、焼けた鶏肉とミツナスが覗いていて、食欲をそそられる。

 ぱくりと口に含むと、チーズの熱さではふっとなった。


「あっふいけど、ん~~~~美味しいっ!」


 カリっと焼けた鶏肉の皮に、ミツナスの柔らかさと甘さ。じゅわりと出てくる肉汁と絡まると、まるで完成された甘いソースのような味わいだ。


「ミツナスの中に入ってる蜜が、めちゃくちゃ美味しいんだけど!?」


 蜂蜜のような濃厚な甘さではなく、さっぱりした甘さだ。そのため、甘すぎずいくらでも食べることができてしまう。

 次はカリカリに焼けたチーズ部分と一緒に食べると、カリッとした食感が柔らかなミツナスのアクセントになっていた。これも美味しい。

 カリカリチーズは味が濃厚になっているので、単品でも食べたいくらいだ。


「明日の朝はパンに載せて焼いてみよう」


 すっかりミツナスの虜になってしまった。

 私がそんなことを考えていると、隣りから『にゃふ~』と満足げな声が聞こえてきた。


「おはぎも完食だね。ごちそうさま」

『にゃふ』


 おはぎはいっぱい食べて満足したようで、私の横にピッタリくっついて丸まった。どうやら食後のくつろぎモードに入ったらしい。


「美味しいご飯を食べて、焚火の前でまったりする時間……いいね」


 パチパチ燃える焚火に枝を追加でくべて、私もまったりモードに入る。


「ああでも、どうせならクッションとか買っておけばよかったなぁ」


 クッションを抱えて丸まったら、間違いなく気持ちよく眠ることができたと思う。次の街に行ったらクッションも買おう。そうしよう。


 隣で眠るおはぎを撫でて、ふと空を見上げると――満天の星空が広がっていた。


「もうすっかり夜になっちゃったね」


 焚火をしようとしたときはそんな時間ではなかったけれど、初めて尽くしで一つ一つに時間がかかってしまった。


「……次はもう少し早くできるかな?」


 そんなことを考えながら星を見ていたら、私もうとうとし始めて……おはぎと一緒に眠ってしまった。

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