第32話 村長の家

 村長の家は、村の奥にある、ほかの家より一回り大きな家だった。

 玄関先には山で見た青く光る花をモチーフにしたランプがあり、花壇にもいろいろな種類の草花が植えられている。


「ここが村長の家だよ」


 そういうと、薪割りのお兄さんが村長の家のドアをノックした。すぐ、「なんじゃ~?」と家の中から返事が聞こえてくる。


 そしてドアが開いて、出てきたのはおじいちゃんだった。


「旅人さんが来たぞ」

「なんとまあ、めずらしいこともあるものじゃ」


 村長は長い白髭がもふもふっとした、私より身長の低い可愛らしい感じの人だった。

 木の枝を丁寧に加工し、青い花の飾りがついた杖。民族衣装のような刺繍の入った衣装は、きっとこの村独特のものだろう。


「ようこそいらっしゃいました。わしは村長のイーゼフですじゃ。この村に旅の方がこられるのはとても珍しいので、驚きましたよ」

「ミザリーです。こっちは黒猫のおはぎ。二人で気楽に旅をして、いろいろなところを観光してるんです」

「そうでしたか」


 私の言葉に、イーゼフ村長は微笑んで頷いてくれた。もふもふの白髭のせいで、なんだか新たな癒し系のもふもふに見えてしまう……。

 ……って、もふもふじゃなくておじいちゃん村長だよ!


「立ち話もなんですから、どうぞ中でお茶でも」

「ありがとうございます」


 私がイーゼフ村長の招待を受けることにすると、薪割りのお兄さんは「仕事があるから」と爽やかに去っていった。




 室内は木製で温かみのある家具で揃えられていた。イーゼフ村長の奥さんがやってきて、「旅人さん? 珍しいわぁ!」と言いながらも歓迎してくれた。


 奥さんは上品な方で、笑顔がとても可愛らしい。

 花の刺繍が入った白色のエプロンをつけていて、「料理が好きなのよ」と話してくれた。


「ちょうど、朝方に焼いたスコーンがあるのよ。フルリア茶と一緒にお出ししましょうね。猫ちゃんは……お魚かしら?」

「ありがとうございます。魚は調味料を使っていなければ、大丈夫だと思います。すみません、おはぎの分まで……ありがとうございます」


 猫のご飯を用意するのは大変だろうに、奥さんは嫌な顔一つせつ「可愛い猫ちゃんね」とおはぎに微笑んでくれた。


「すまないね。客人が来ることはあまりなくて、ましてやお嬢さんのような若い子が来ることはほとんどないからの。嬉しいんじゃろう」

「いえ、わたしこそ突然だったのに、歓迎していただいてありがとございます」


 イーゼフ村長も奥さんも、薪割りのお兄さんも、この村はいい人たちばかりだ。


「そういえば、光る花を見たんですけど……あれはなんですか? イーゼフさんの家のところにも、モチーフにしたランプがありましたよね」

「ああ、あれはこの村の特産品で、フルリアという花なんじゃ」


 なんと、花の名前と村の名前が同じだった。


「フルリアはこの村周辺でしか咲かない花なんじゃ。夜になると光るので、明かり代わりに使うこともあるんじゃ。花から採れる蜜は上質で、花びらを加工すると茶葉にもなるんじゃよ」

「すごい花なんですね」


 フルリアは山の村側の斜面でしか咲いていないようで、村人が採取して加工などしているのだという。それを行商人に買い取ってもらい、生計を立てている村のようだ。

 ほかにも、フルリアをモチーフにしたランプや装飾品、刺繍した衣類などを村の職人や女性で作っているのだという。


 ……これはぜひとも買って帰りたいね!


「お茶が入りましたよ」



***


あとがき

本日書籍1巻発売です!

どうぞよろしくお願いいたします~~!

地図やキャンピングカーの間取りなども載っています。

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