第7話 焼きリーリシュ
「そういえば、名乗ってもいなかったわね。私はトリシャよ。こっちは……」
「俺はカーターだ。よろしくな」
「私はミザリーです」
軽く自己紹介をしたところで、私は借りたフライパンに切ったリーリシュを並べていく。後はそれを焚火にかけて、しばらく待てば完成だ。お手軽。
できあがるまでの間、のんびり雑談をすることにした。
「二人で冒険してるんですか?」
私がそう問いかけると、二人は揃って首を振った。
「俺たちは三人パーティなんだ」
「もう一人は、テントの中で寝てるわ」
「あ、そうだったんですね」
言われてみれば、この広場にはテントがいくつかある。それから、商人が行商で使っているだろう馬車も二台ほどある。
私がキョロキョロしていたら、トリシャが説明してくれた。
「今ここにいるのは、あの荷馬車の商会と、それを護衛してる冒険者なの。護衛は私たちのパーティと、向こうのテントの四人組のパーティよ」
「そうだったんですね」
見張りは順番に行っているので、ほかのパーティの人は寝ているのだという。
……ここに来るまで魔物に遭遇しなくてよかった。
キャンピングカーに乗っていて魔物と遭遇したらどうなるかなど、検証が必要だ。これは落ち着いたら確認していこう。
でも、スライムとかだったらキャンピングカーで轢けそうだけど……考えるのは止めよう。
「っと、そろそろいい感じですね」
フライパンの中でリーリシュがいい感じにとろけている。甘い香りが立ち上って、私の食欲を刺激してくる。これはけしからん食べ物だ。
「わああ、いい匂い!」
トリシャが鼻いっぱいに空気を吸い込んで、うっとりした表情で焼きリーリシュを見つめている。横にいるカーターもそわそわしているようだ。
私は苦笑しつつ、「お二人もどうぞ」と借りたお皿に取り分けた。
「すまない、ありがたくいただくよ」
「いっただっきまーす! ん~~~~っ、アツおいひぃ~~~~!!」
「お前……もう少し……いや、いい……」
カーターはトリシャの食べっぷりに頭を抱えつつも、リーリシュを口に含んで「美味い!」と声をあげた。好評なようで何よりだ。
さて、私も。
一口サイズに切ったリーリシュは、焼いてあるためとろみがついている。口に含むまでもなく、芳醇な香りが駆け巡ってくる。
「いただきます」
ぱくりと口に含むと、濃厚な甘さが口の中いっぱいに広がった。同時に、舌の上でリーリシュが溶け始める。桃に似た味わいのリーリシュは、焼いたことにより甘みだけでなくうま味も強くなっているみたいだ。
「はふっ」
リーリシュの熱さに口で呼吸をすると、外の冷たい空気が体に入ってくる。すると、口の中が落ち着いたからか、よりリーリシュの味を感じることができた。ごくんと飲み込むと、冷えた体が少しずつ温まっていくのを感じる。
「ん~、美味しい!」
私が思わず声をあげると、トリシャとカーターも思いっきり頷いてくれた。やはり甘いものは幸せになれるね。
食器などの片づけを終わらせて、焚火の側で寝てしまったおはぎを抱き上げる。
「それじゃあ、私はここらへんで失礼します。よくしていただいて、ありがとうございました」
『にゃぅ~』
私がお礼を告げると、カーターとトリシャは驚いた。
「え? 今から出発するのか? まだ暗いが……」
「夜明けを待った方がいいんじゃない?」
「いえ……。できるだけ早く隣国に出ちゃいたいので、このまま行きます」
「そうか」
心配してくれる二人に事情を伝えると、心配しつつも頷いてくれた。それに、できるなら新しい服を新調するまで、あまり人と関わらないようにしたいと思っている。もしかしたら、私のことを知っている人や、王都に行った際に知ることになるかもしれないからね。
「それじゃあ、また~!」
「道中気をつけてね!」
「また会ったときはよろしく頼む」
トリシャとカーターに手を振って、私はキャンピングカーで走り出した。キャンピングカーを間近で見ていた二人は、とても驚いたが「すごい!」と盛り上がってくれたよ。
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