第2話 おはぎと合流
「おはぎ、おはぎ~」
クロードに婚約破棄&断罪の国外追放を言い渡された私は、こっそり屋敷の庭へやってきた。その理由は、私の愛猫である黒猫――おはぎを連れていくためだ。
私が何度か名前を呼ぶと、『にゃぁ』と姿を見せた。
「おはぎ!」
『にゃっ!』
おはぎは軽やかに地を蹴って、私の肩に飛び乗ってきた。そのまま私の頬にすりりとすりよってきて、おはぎが私の鼻にちょんと鼻をつけてくる。猫流の挨拶だ。その後は私の頭の上に乗って、嬉しそうにゴロゴロしている。ゴロゴロの振動が頭から伝わってくるのが、なんだか楽しい。
私に懐いてくれているおはぎは、まだ生後数ヶ月ほどの子猫。真っ黒の毛に、水色の瞳。手足はしなやかで、まだ小さいのに、いろいろな所へ跳んでしまう好奇心旺盛な子。
……今でこそ元気だけれど、おはぎは屋敷の使用人に邪険にされていた。ご飯を求めて弱々しく鳴いているのを、蹴とばされる瞬間を見て、私が咄嗟に助けに入ったのだ。
だから、ここにおはぎを置いていくことは絶対にできない。
「私が幸せにするからね、おはぎ~!」
『にゃにゃっ!』
ということで、私は屋敷を後にしようとしたのだが――「ミザリー!」と私を怒鳴りつける声が聞こえてきた。お父様だ。
「話は聞いた。殿下から婚約破棄されただと? 黒髪で闇属性のお前を育ててやったというのに、その恩を忘れたのか? 婚約破棄されたお前なぞ、もうなんの価値もないではないか」
顔を赤くして怒るその後ろで、ついてきた屋敷のメイドたちがクスクス笑っている。
そう、私は公爵家の娘――ミザリー・クラフティア。
魔物と戦うこの国では、闇属性と黒髪が忌避されている。そんななか、私は黒髪で生まれ、闇属性という力を持っていた。
元日本人の私としては、別に普通……という感じなんだけどね。
幸いなのは、瞳の色まで黒ではなかったことだろうか。瞳はコーラルピンクと、可愛らしく黒にも映える色合いだ。
お父様は私の頭に乗ったおはぎを見て、大きくため息をついた。
「まだその黒猫の世話をしていたのか? さっさと処分しろと言っただろう。屋敷内に黒猫がいるなど、不吉で仕方ない!」
「……! こんなに可愛いおはぎを悪く言うなんて、最低……」
私は今までお父様の言葉には従ってきた。よい娘でいれば、悪事をしなければ、ゲームのエンディングとは違ってハッピーエンドになることもあるかもしれないと思ったからだ。
――でも、それは間違いだった。
今、ゲームはエンディングを迎えた。
だから私を縛るものは、もうない。
「お父様。わたくしは出ていきます。クラフティアという名は捨て、一人のミザリーとして生きていきます」
「もう二度と、我が家の敷地を踏むでない! 生まれてから今まで一度も役に立たなかった娘など、必要ない!!」
「――さようなら」
そう言って、私は踵を返して歩き出す。様子を伺っていた使用人たちが後ずさるように道を開けたのを見て、よく18年もこの屋敷で過ごしてこれたなと思う。
公爵の父と同様、使用人たちも私を嫌っていたからだ。
でも、これからは違う。
私は悪役令嬢としてではなく、一人の人間――ただのミザリーとして生きていくのだ。
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