悪役令嬢はキャンピングカーで旅に出る ~愛猫と満喫するセルフ国外追放~

ぷにちゃん

第1話 断罪からのセルフ追放

 ――この世界は、私にひどく残酷だ。

 なぜそう思うのかといえば、私は今から起きることをずっと前から知っていたから。


「ミザリー。お前との婚約を……ここに破棄する!」


 その言葉が舞踏会のホールに響くと、一瞬でしん……となってざわめきが消えた。そして次に聞こえてきたのは、クスクスと私を嘲笑う招待客たちの声。


「お前がナディアを陰でいじめていたことは、もう証拠が揃っている! ナディアは光魔法を使えるという、とても貴重な人物でもあるんだ。公爵令嬢といえ、それを害して許されるわけがないだろう!」


 私の目の前に立ち、そう告げたのはこの世界――乙女ゲーム『光の乙女と魔の森』の攻略対象者であり、私の婚約者クロード・リシャールだ。

 サラサラで綺麗な金色の髪と、宝石のように透き通った青の瞳。すらりと伸びた手足に、ほどよく鍛えられている身体。整ったその顔立ちだけで、女の子は恋に落ちてしまうかもしれない。

 現に、彼に恋に落ちたヒロインが彼の後ろにいる。



 かくいう私は、彼女とは真逆の位置に立つ存在――悪役令嬢だ。



 は――――。

 クロードの言葉に、私は長く長く心の中でため息をついた。私はナディアをいじめたことは一度もないのだけれど、ゲームの補正か何かでいじめたことになってしまったらしい。


 本当ならば、婚約破棄のショックで私は打ちひしがれるか逆ギレするのがいいのだろう。でも、そんなことはしない。

 ああ~~、長かったゲームがやっと終わった~~~~!!

 喜びしかない。


 このゲームは、16歳から18歳までの三年間、学園に通って攻略対象者たちと愛を育み魔物を倒すというファンタジー乙女ゲームなのだ。そう、私は頑張って三年間すごしてきたのだ。それはもうたくさんの濡れ衣を着せられて。

 ということで、私はこれから自由に生きたいと思います。


 私がそんなことを考えていると、クロードが「聞いているのか!?」と顔を赤くして怒っている。聞いていなかった。


「お前は国外追放だ!!」

「わかりました」

「そこまで泣いて許しを請うなら――は?」

「承知しましたと、言いました」


 にっこり微笑んでみせると、クロードがたじろいだのがわかった。そんなに迫力のある笑顔だったかな? まあ、どうせ悪役令嬢な顔ですからね。


「では、失礼いたします」

「ま、待て! どこへ行くつもりだ!」


 私が辞去の挨拶をすると、慌てて引き留められた。


「もちろん、国外です。だって、私は国外追放なのでしょう? まさか、第一王子が自分の言ったことを取りやめることなんてしませんよね?」

「ぐ……っ」


 ここに国王はいないけれど、いったいどこまで今回のことに関する許可を得ているのだろうか?

 ……まあ、私が気にする必要もないけれど。


 どうせ私は、家でも嫌われていたのだから。両親へ義理立てする必要もないし、むしろ最後に面倒ごとを押し付けることができて清々しいくらい。

 ああでも、私の唯一の友達――黒猫のおはぎは迎えに行かなきゃね。


 私は今後の計画を脳内で考えながら、舞踏会の会場を出る。すぐにクロードとその取り巻きたちが追ってくるけれど、そんなものは無視だ。ヒールとは思えないほど早歩きで外に出ると、私は今までずっと隠していた固有スキルを使う。



「――キャンピングカー!」



 すると、私の横にキャンピングカーが現れた。

 軽キャンパーと呼ばれる種類で、軽自動車をベースに作られたモスグリーンのキャンピングカーだ。前の運転席と、後部座席にあたる場所にはドアがついている。現時点で中を見ることはできない。


「な、なんだそれは!?」

「こんなスキルは見たことがないぞ!?」

「珍妙な……!」


 私を追いかけてきた人たちが何か言っているけれど、気にせずキャンピングカーに乗り込んだ。


「運転席は思ったより普通の軽自動車なんだ」


 ……実は、私もこのスキルを使うのは初めてなんだよね。

 いかんせん悪役令嬢だけど公爵令嬢という身分があったので、一人でスキルを試すことができなかったのだ。ゲームの展開は把握していたので、自分の味方がいないことも知っていた。


 クロードたちがキャンピングカーに近づいて来たのを見て、私はさっさと出発することに決めた。

 汚い手で私の愛車に触れないでほしい!


「さて、おはぎを迎えにいって……国外追放されましょうか!」


 私はアクセルを踏んで、キャンピングカーを飛ばした。

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