第27話 そして山へ
温泉に入って昼寝もして、今の私は絶好調だ。ふんふん鼻歌を口ずさみ、助手席におはぎを乗せて、森の中を走っていく。
最初は森の中を走るのは大丈夫だろうかと不安になったけれど、意外にもキャンピングカーが優秀で、すっかり運転も慣れてしまった。
「この調子で走りまくってレベルを上げたら……最終的にもしやお城レベルになってしまうのでは!?」
走る城の完成だ。
前世、何かの映画で見たような気もするけれど、この世界でガチでお城を走らせたらやばそうだ。
太陽が沈んで暗くなってきたけれど、ヘッドライトがあるので走るのにはあまり困らない。そして巨体が動いているので、魔物や動物も姿を現す様子はない。
「とりあえず森の中は問題なく走れるから、あとはどの程度の斜面を走れるか、だよね?」
確か日本の国道は、一番急斜面で20度弱だったはずだ。
教習所に通っていたとき、教習指導員がそんなことを言っていたような気がする。うろ覚えだけど。
「だとすると、結構登れそうじゃない……?」
そう考えたらちょっと挑戦したくなるのが人間というものだ。まずは緩やかな山を見つけて走ってみるのがいいのではないだろうか。
そう思って、走りながら遠くを見てみる。さすがゲーム世界というだけあり、大自然がいっぱいだ。視界に山がたくさん入ってきた。
かなり高い山、ゆるやかだけど高い山、めちゃくちゃ尖っている山と、バリエーションが豊かだ。
私はその中に、ひとつだけゆるやかそうで、しかもそんなに高くない山を発見した。
「これは登るしかないんじゃない……?」
私はハンドルを握り直して、唇をぺろりと舐める。走り屋の血が騒ぐぜ……! なんて言ってみたりして。
「よーし、出発だ!」
運転に慣れた私はスピードを上げて、爽快に森の中を抜けて――山の麓へとやってきた。
「おや、これは……」
山には、キャンピングカーが走れるくらいの広さの道があった。思ったより整備されていたので、驚いた。
もしかしたら、山の向こうに街か村があるのかもしれない。これは山を登る楽しみも倍増だ。山向こうで、新しい発見や出会いがあるかもしれないのだから。
ということで、再び発進だ!
山道はゆるやかで、大きな石も落ちておらず、とても走りやすい。もしかしたら、馬車で通ることもあるかもしれないね。
……なんて思って進んでいたら、どんどん急斜面になってきましたよ……!
「うーわー、なんだかひっくり返らないか不安になる……」
しかし実際の斜面は、視界で感じているより緩やかな場合がほとんどだ。そのため、私が怖いと思ったとしても、実際には全然余裕だったりする。
……人間の目や脳って不思議だね。
『にゃふ~』
私が若干スピードを落としつつ登り始めたところで、助手席で寝ていたおはぎが起きた。
「おはようおはぎ、心強いよ!」
『にゃぁ?』
急な上り坂で落ちていた私のテンションが、ちょっとだけ回復する。この勢いのまま、登っていくのがいいに違いない!
アクセルを踏んで、ブロロロロロロッと登って行く。
「は~、ひっくり返らない、よかった!」
『にゃう』
私は安心してキャンピングカーを走らせ、外の景色を見る余裕もできてきた。
山にはたくさんの植物が自生していて、木の実がなっているものもある。気になるけれど、食べられるかわからない。
たまに獣道に入る細い道なども見かけたので、やっぱりこの山は人の出入りがそこそこあるのだろう。
「このまま下山できちゃうかもしれないね」
なんてことを思っていたのだけれど、あと少しで頂上というところで――道がなくなった。
「なんてこった!」
その原因は、斜面が一気に急になっているからだろう。確かにこれでは馬車や荷車などを使って上り下りするのは無理だろう。
……さて、どうしようか?
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