第23話 いい湯だな~♪
思いのほかおはぎが温泉にとろけているのを見ながら、私は服を脱いでいく。これは洗うので小川の横の岩の上に置いて、温泉へ向かう。
「大自然で誰もいないとはいえ、裸っていうのはなんだか恥ずかしいね……」
ちょっと照れつつも、まずは透き通ったお湯に手を入れてみる。
温度は気持ちぬるめに思えるので、おそらく四〇度弱といったところだろうか。ゆっくり浸かることができそうだ。
手で温泉をすくい体にかけると、その温かさに体がふるりと震える。温泉は転生してから初めてなので、期待がどんどん高まっていく。
「ではさっそく……」
簡単に体を流して、私は岩に手をついて足先からゆっくり温泉につかっていく。ちゃぽと小さな水音が立ち、じんわりした温かさが体中を駆け巡っていく。
「……っあ~~、気持ちいい~~~~!」
親父かと言われても仕方がないだろう。温泉が気持ちよすぎたときの反応は、たぶん男女共通だと思う。
歌いたくなってしまう気持ちも今ならわかるよ。
『にゃう~』
「おはぎも気持ちいいね~」
無意識のうちに、へにゃりと頬が緩む。
ふーっと大きく息をはいて目を閉じると、聞こえてくるのは自然の音だ。小川の流れや、風で木々が揺れる音。ときおりカサッと何かが歩くような音がするのは、おそらく小動物だろう。
は~~、このまま寝たら気持ちがいいだろうなぁ。
と、そんなことを考えてしまう。しかしお風呂で眠るのは雪山で遭難するくらいに危険があるので、駄目、絶対。
体が芯までポカポカしたところで、私はいったん温泉から上がる。すぐ横の岩を見ると、おはぎがへそてんスタイルで寝転んでいた。
「ずっと入ってると熱いよねぇ」
『にゃう~』
おはぎも適度に涼んでいるみたいだ。
私はちょうど椅子になりそうな岩に温泉をかけて、石鹸でちょっと洗って腰かけた。
「タオルを濡らして、石鹸を泡立てて……っと。この石鹸、すっごくいい香り!」
そんなに質のいいタオルではないが、石鹸は十分に泡立ってくれた。ゆっくりタオルで体を擦ると、あっという間に全身が気持ちのいい泡で包まれた。
体を洗うって、こんなに気持ちよかったんだねぇ。前世はお風呂が面倒だと思っていたけれど、これからはもっと感謝して入りたいと思います。
体を洗っていると、肘から下あたりにちょっとした傷ができていることに気づく。お湯や泡が染みるわけではないので、本当に小さなかすり傷だ。
「令嬢をやってるときはこんなのなかったけど……あ、焚火のために枝拾いをしたりしたからか」
自分でも気づいていなかったけれど、いろいろしているうちに怪我をしていたみたいだ。
「小さいから、ほっとけばそのうち治るかな?」
ということで、気にしないことにした。
……まあ、この体は素材がいいし、結構お手入れもしていたのでもったいないとも思っちゃうけどね。
一応令嬢だったので、お肌などはメイドたちに磨かれたりしていたのだ。
「それに悪役令嬢とはいえ、主要キャラだからスタイルも抜群!」
思わず自分で胸に触ってしまうほどだ。
「っと、おはぎも洗ってあげるからね」
自分の胸を触っている場合ではなかった。
私は自分の体についた泡を流して、もう一度泡立てておはぎを呼んだ。
『にゃぁ?』
おはぎは何をするかわかっていないようで、不思議そうな顔でこっちを見た。
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