第23話 実は『カボチャ』の仲間(2)


 魔王国を『ノヴァランチ辺境伯領』とし、聖王国の一部として統治すべき人材を送ろうとしたが、誰一人として名乗り出る者はいなかった。


 当然といえば当然だろう。

 実際に魔王国の統治など、普通の人間には死刑宣告にも等しい。


 人間の身体に強い魔力は毒でしかなく、魔族がいつ反乱を起こしてもおかしくはない状況だ。功績を残した『第一世代』の勇者は欠陥があるため使えない。


 それに立場は辺境伯。下手をすると次の王を決める際にも、口出しができる。

 国王が信頼する存在で、聖王教が認める人物でなければならなかった。


 聖王教に関しては御布施おふせで解決できるようだが、それでも任命すべき人材は限られている。国王自身、魔王国のあつかいには『手を焼いていた』というワケだ。


 四天王が一人でも生きていてくれたのなら、状況も変わったのだろう。

 彼らに領主代行を頼めばいい。


 真実を知らない国王としては『勇者は遣り過ぎてしまった』という認識を持っている。兵器としての勇者は、当面の間は使われる事はなさそうだ。


 結果、当分の間は『七星老セプテム』が魔王国を運営することとなった。

 後は次の魔王ともいうべき領主を決めるだけ――


 誰もがそう思ったのだが、どういうワケか『七星老セプテム』は私を助け出した者を『次の領主に任命する』と宣言したらしい。


 それを聞いた時は『バカなの⁉』と思ってしまったが、今の私になら、その理由も納得できる。


 四天王は勇者によって倒されたのではない。

 『何者か』の手により、暗殺されたのだ。


 戦いによって次期領主を決めた場合、その『何者か』の思惑通りに事が進んでいた可能性が高い。


 かといって【無限書庫】から私を助け出せる存在など皆無である。

 それこそ、勇者しかいない。


 魔王国は統治者不在のまま、時が過ぎてしまった――というワケだ。

 しかし、そこに登場したのが神童リュート王子。


 王子といっても、千年続く聖王国の上位貴族は王家の血統を持っている。

 リュートに王位継承権はあってないようなモノだ。


 そんな彼が見事に私を助け出し、新たな領主となる条件を満たしてしまった。帝国との戦争をひかえている聖王国としては、背後を身内が統治してくれるのは有難い。


 年齢のこともあり、よからぬうわさを流す者もいたようだ。

 だが『精霊に愛されし者』としての評判もあり、聖王教からの覚えもいい。


 とどこおりなく辺境伯として魔王国を統治する運びとなった。

 こうして陛下となったリュートは『私と結婚した』というワケだ。


 私も四天王の娘という立場である以上、政略的な結婚を受け入れる覚悟はしていた。子供になってしまったリュートも、それはそれで可愛いと思う。


 問題があるとすれば、魔力を持たない私では、いずほころびが生じる懸念けねんがある。

 しかし、リュートは、


「精霊に愛されているのは、君の方だよ」


 と言って笑った。その意味は分からなかったが『いつわりの王子』と『偽りの姫』で、お似合いなのかもしれない。


 深くは考えないことにしていた。


「イルルゥ、遅いわね」


 と私はつぶやく。今日は例のドルミーレ商会へと行く日だった。

 イサベラは「城へ呼び付けましょうか?」と言っていたが、街にも用事がある。


 シュリーの工房へ顔を出す必要もあるから、それはめておきましょう――ということで、馬車を使って街へと出てきた。


 イルルゥは、この間のヨーグルトが気に入ったらしい。

 私も『美容にいい』という事は知っていたので、一人で買い物に行かせた。


 だが、戻るのが遅い。一緒にお店へ行くべきだっただろうか?


(まあ、そこまで子供ではない)


 私たちは馬車から彼女を降ろし、シュリーの工房で先に待っていた。


「ヨーグルトソースにしゅんのフルーツを合わせたオープンサンドもいいわね」


 などと会話をしていたのだが、彼女が戻ってくる気配はなかった。


「まあ、もう少しだけ待って、戻ってこないようであれば探しに行きましょう……」


 高ランク冒険者もいることですしね――とイサベラ。

 自然な流れでクラムを戦力に加える。


 シュリーが頼めば、彼も動いてくれるだろう。

 いや、冒険者組合にお金を払って依頼してもいい案件だ。


(よし、その時は許可する!)


「案外、料理の話をしていれば、お腹を空かせて出てくるかもしれません」


 と言って、イサベラはシグリダを見た。

 確かにシグリダなら、それで出てくるだろう。


 私は気をまぎらわせる意味でも、


「聖王国料理に欠かせない初夏の野菜といえば『ズッキーニ』よね」


 と語ることにした。シュリーも興味津々の様子だ。たぶん陛下も好きだと思うので、今度、義母に頼んで『トウモロコシ』と一緒に送ってもらう予定でいた。


 彼女からすると、まだまだ息子である陛下の世話を焼きたいようだ。

 陛下は家族に対して、都合よく記憶を操っているに過ぎない。


 少し負い目があるようで、寛容かんような所があった。


瑞々みずみずしくて、しなやかな歯応えに、淡白たんぱくな味わい……」


 けれど、その中に感じるほのかな苦味――と私は思いをせる。

 しかし、ズッキーニの魅力はそこではない。


「熱を加えると、甘くとろけるのよね――」


 勿論もちろん、これからの暑くて疲れやすい季節にはピッタリの食材よ!

 βカロテンやビタミンCを豊富に含んでいるの♪


 主役ではないけれど、どんな食材とも相性は抜群。

 『名脇役』といった所かしら?


 肉や魚と合わせれば、メインディッシュにもなるわ!

 けれど、ここは海の幸であるエビと合わせるのが面白そうね。


 ガーリックいためなんか、これからの季節に最適よ。

 パスタに応用して、ペペロンチーノという手もある。


 でも、まだ味覚が子供の陛下なら、ニンニクよりも甘辛のマヨネーズで炒めた方がいいかもしれないわね。


 それにマヨネーズなら、トウモロコシとの相性も良いハズよ。

 まずは送ってもったトウモロコシとズッキーニをこんがりと焼く。


 それとは別に、片栗粉をまぶしたエビをいためて、両面を焼いたらボウルに入れ、野菜と混ぜる。マヨネーズでえれば完成ね!


 でも、エビチリも捨てがたい……。


「どうしよう?」


 迷う私に対し、


「それはこちらの台詞セリフです」


 とイサベラ。


「取りえず、全部作ってみるのはどうでしょうか?」


 そんな提案をする。

 口を半開きにしていたシグリダがコクコクと、頭を上下に動かした。


 どうやら、好評のようだ。

 丁度そこへ「ただいま戻りました」とイルルゥが帰ってくる。


 見たことのない男の人を連れて――

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