第13話 紀元前からあって、和食にも合う(1)


 食事を終えた彼は、外の状況を話してくれた。

 落ち着いて聞いて欲しい――と前置きをしてから、


「世界はもう、ほろんでしまったんだ」


 と語る。一瞬、なんのことか分からなかったけれど、すぐに納得した。

 ここ最近は【無限書庫】の増設がまり、空間が拡張されなくなっている。


 つまりは星の記憶が、そこでついえているのだろう。

 道理どうりで、誰も私を助けにきてくれないワケである。


おどろかないのか」


 とリュート。どうやら、彼は私が取り乱すと思っていたようだ。

 口を付けたカップを置くと、


「十分、おどろいているわ……」


 想定内だっただけよ――そう言って、私は返答する。世界が崩壊している兆候ちょうこうはあったのだけれど、気付かないフリをしていたのは私だ。


 だが、気付いた所で私に出来る事など無い。

 それでも、なに模索もさくすべきだった。


 そんな後悔からだろうか? 

 かすかに手が震え、カップを鳴らしてしまった。


「原因を聞いてもいいかしら」


 私の問いに「勿論もちろんだ」と彼は返答した後、


「聖王国が造り出した勇者――彼が暴走してしまった」


 そう静かに告げた。魔王様を倒したハズの勇者が暴走して、今度は人類を滅ぼしてしまったようだ。


 みずからの手で造り出した救世主に滅ぼされるとは、滑稽こっけいな話である。

 ただ、それを嘲笑あざわらうことは出来ない。


 その『滅び』の中には魔王国も含まれているのだろう。例え、魔王国が聖王国との戦争で敗れたとしても『魔族や亜人が虐殺ぎゃくさつされた』とは考えにくい。


 なにかしらの共存の道が残されていたハズだ。しかし、星の命がついえてしまった今、その希望はただの妄想でしかなくなってしまった。


 勇者という存在が、すべてを壊してしまった。


「聖王国――いや聖王教会は『神』を造る実験をしていたのさ」


 とリュートは語る。聖書によると『【人】と【神】は同じ土から造り出された』とされていた。違いは、どちらが先に生まれたのか?


 永遠ともいえる命。軽々と奇跡を起こす力――

 元が同じであるのなら、人間も神と同じことが出来るハズだ。


 そう考えたやからがいたらしい。

 元々、神へと近づくことを目的とした宗教である。


 自らが『神や天使になろう』と考えるのは自然な流れだ。

 神が使用したとされる聖遺物。


 それから神の因子を取り出し、人間の身体へ移植する。

 ひそかに、そんな実験が行われていたらしい。


「もし、神がいるのだと仮定して『人間たちはどうして、神が地上からいなくなったのか』を考えなかったのかしら?」


 つい口から言葉がれてしまった。彼も聖王国の人間であるのなら、私の台詞セリフに気を悪くしたかもしれない。


 しかし、リュートは――


「確かにな」


 とだけつぶやき、冷笑した。

 どうやら、聖王国に対して、いい感情を持ってはいないらしい。


 私は安心すると同時に、自分の考えをべることにした。


「結局は、神々も争いからは逃れられなかったよ」


 魔族の中で育った私になら分かる。

 魔力の有無が優劣を生み、属性が対立を激しくさせた。


 力を持つのであれば神もまた、そのような争いから逃れられない。


「私たちは神々の代理戦争をさせられているのかもしれないわね」


 そんな私の回答が気に入ったのか、リュートは肩を震わせていた。

 笑いをこらえているようだ。


 私からすると、気に入らないのは彼の態度も一緒なのだけれど――


「で、貴方がここへ来た目的ってなに?」


 彼の言葉をすべて信じたワケではないけれど、私は質問をする。

 どうにも私より、彼の方が知識も情報も上のようだ。


 不利な状況で会話を制御コントロールされるより『先に話の核心に触れた方がいい』と私は判断した。彼は意表を突かれたようだったが、それでも平静を装い、


「場所を変えよう」


 と告げる。そして、立ち上がった。

 私も席を立ったので、それを了承と受け取ったのだろう。


 同時に『一番、新しい場所へ連れていって欲しい』とお願いをされた。

 私へと手を差し出す。


 余裕な態度を見せているリュートだったが【無限書庫】で自由に動き回れるワケではないようだ。


 彼が私をリードしてくれるのではなく、私が彼の手を引く形で案内することになる。しかし、そんな彼を不甲斐ないとは思わなかった。


 むしろ、頼られるのが嬉しい。

 少しドキドキしてしまったのは内緒である。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る