第12話 週末はカレー曜日(2)


「君を連れ去りにきた――けれど……」


 嫌われてしまったかな?――と首をかしげる。言い方はいちいちかんさわるが『私を外に出してくれる』という事のようだ。


 しかし、彼の目的が分からない以上、迂闊うかつに喜ぶワケにもいかない。


貴方あなた、名前は?」


 私の問いに対し、


「ああ、名乗っていなかったな。俺の名は『リュート』」


 君を必要としている魔法使いだ――と答える。

 綺麗な顔の青年にそう言われて、悪い気はしない。


 だが、胡散うさんくささがぬぐいきれないのも確かだ。

 色々と情報を隠しているのだろう。少しずつ、探っていくしかない。


 リュートはひざくと私の手を取った。

 口付けを――という事だろうか?


 調子に乗りすぎである。もう一度、ぱたいておこう。

 私がそう考えたのも束の間、彼は突然フラフラとして床に倒れた。


 一瞬、なにが起こったのか分からなかったが、気を失ってしまったようだ。

 大変!――と私は急いでかがむ。


 やはり、綺麗な顔をしていた。


(いや、そうじゃなくて……)


 確か、私のように資格のない者が【無限書庫】に立ち入るためには『代償が必要である』と聞く。平静へいせいよそおってはいたが、無理をしていたのかもしれない。


 探し求めていた人物である私と出会って、気がゆるんだのだろう。

 そう考えると、先程までの無礼は『許してあげよう』と思ってしまう。


 私も単純なモノだ。これが私『エレナ・グラキエス』と魔法使い『リュート』との最初の邂逅かいこうだった――


 それから、彼の目が覚めたのは数時間後である。

 丁度、夕飯時だ。


(まあ、決めるのは私の腹時計なのだけれど……)


 外の時間の流れは【無限書庫】にある案内図や階層フロアマップで分かる。

 ご親切に更新されており、常に増築されているのが分かった。


 ただ、不思議な事に最近はその更新がない。

 外の世界でなにかあったのだろうか?


 リュートが来たことに関係していそうだ。

 私は目覚めた彼に「食欲はあるのかしら?」と確認をした。


 彼は自分のお腹をさすった後、


「そう言われると、いているかもしれない」


 と何処どこか他人事のように答える。

 食べることに対して、頓着とんちゃくしていないのだろうか?


 私も完全に彼を信用したワケではないが、取りえず、彼を食卓へと案内することにした。特別な料理でをしよう。


 ――だから、私は問う。


なんじは『カレーライス』が好きか? なら、イメージして!」


 イメージするモノは常に最強のカレーよ――彼の返答を待たず、私は意識を集中させる。初心者である彼には難しいかもしれない。


 だが『カレーを食べる!』とは、そういう事だ。


「外敵などいらない。貴方あなたにとって食べるべきカレーとは、自身のイメージに他ならないのよ!」


 想像しなさい。うだるような暑さが続く夏の天気。

 焼けるような日差しの中、貴方あなたが欲しているのはカレーよ。


 スパイスカレーはいかが? 何種類ものスパイスを組み合わせて作るカレー。

 きっと、奥深い香りと味わいがクセになる。


 具材はなにがいいかしら? 豚肉に夏野菜。でも、豪快に骨付きの鶏もも肉を使って、キャベツやマッシュポテトをえたモノもいいわね。


 あら? 卵を乗せたキーマカレーもがたいですって。

 それなら、チーズを合わせることで、新しい魅力を発見するのも手よ。


 タンパク質をるのにすぐれているわ。

 でも今の貴方あなたはスタミナをつけた方がいいかもしれないわね。


 定番のビーフカレーが、暑さに負けない身体を作ってくれるハズよ!

 基本は4つのスパイス――『クミン』『ターメリック』『コリアンダー』『レッドペッパー』。


 時間を掛けて煮込んだ牛肉は柔らかく、こくのある味わい。

 一口食べれば、不思議と食欲がいてくる。


「問おう。なんじは『カレーライス』が好きか?」

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