第2話 春告げ草と山菜の王者(2)


「別に子供ではない……」


 フンッ!――と陛下。私の考えを読んだらしい。

 見た目は十二歳。着飾きかざっていれば、女の子といっても通じる中性的な容姿だ。


 口が悪くなければ、私もついつい抱き締めてしまいそうになる。

 こんなナリで『人間の勇者を倒す研究をしている魔法使い』というのだから、誰も信じはしないだろう。


「食糧問題も解決していないというのに……」


 こんな贅沢ぜいたくな食事をしていていいのだろうか?――と陛下は語る。

 どうやら、国民のことを考え、悩んでいただけのようだ。


 贅沢ぜいたくといっても、私が用意した食材のほとんどは、もらいモノか山で採ってきたモノである。


 陛下が心を痛めるような事ではないと思うのだけれど――

 真面目な陛下の様子に、ついつい笑みがこぼれてしまった。


 魔王様と勇者の戦いとされているが、要は戦争である。

 その傷は、まだえてはいないのかもしれない。


「春になれば、聖王国は帝国との戦いがひかえているからな」


 食糧がこちらに回ってこない――と陛下は説明してくれた。樹花ドリュアス族にも食糧の生産を増やすように交渉しているが、上手くいってはいないようだ。


 植物を育てるにも、大地の魔力が必要となる。

 大地の魔力を回復させなければいけないため、生産にも限度があるらしい。


 今年、無理をさせると来年以降の生産にも響く。

 また、食糧となる植物だけを『育てればいい』という話もでない。


 自然の均衡バランスくず行為こういにもなり兼ねなかった。

 難しい問題のようだ。


(私に出来ることはないだろうか?)


 魔王様との戦いに勝利した勇者。

 魔王国『アウロトルム』は聖王国『ヴォイドザーム』のモノとなった。


 そこに辺境伯としてやってきたのが、私の陛下である。

 陛下の話によると『他に魔王領を治められる人材がいなかった』というのが見解のようだ。


 確かにノコノコと人間の貴族が領主として、やってきたとしても魔王国の住民――特に力ある魔族――には受け入れられないだろう。


 命をねらわれる可能性も十分にある。

 そうなると再び戦争となってしまうだろう。


 魔王国を影から支配する古き魔族『七星老セプテム』と協議した結果『陛下が派遣された』という事らしい。


 私が考えている以上に彼は名の通った魔法使いのようだ。

 そんな彼にせられた試練。


 魔族を認めさせるための条件の一つに、四天王の娘であった私を【無限書庫】から連れ出すことが挙げられていた。


 後から知ったのだけれど、最初から私を嫁として迎えることで魔族の反感を押さえる狙いがあったようだ。見事に、私を連れ出すことに成功した陛下。


 けれど、その所為せいで【時の精霊】に対価として、今まで詰み重ねてきた時間を持っていかれてしまった。


 今は魔力の大半を失い、子供の姿になっている――というワケだ。

 一応、聖王国からは辺境伯という地位を頂いている。


 だが実質、魔王領の王様といってもいい程の権限を与えられていた。

 それ程の権限がなければ『魔王領は統治できない』という判断なのだろう。


 結果、私と結婚したことで、陛下は魔王領を管理する資格は得た。

 だが、同時に魔族をしたがえるための魔力を失ってしまったのである。


 なんとも皮肉な話だ。けれど、


「君には、それだけの価値がある」


 と真顔で陛下が言うモノだから――私もその気になってしまう――というモノだ。


「分かったわ! 食糧問題を解決すればいいのね♪」


 私はそう言って、両手を『パンッ☆』と合わせた。

 余計な事をするなよ――そんな視線を陛下から感じないワケでない。


 でも、たぶん大丈夫だろう。


「シグリダ! 準備をするわよ」


 早速、私は専属メイドに命令をする。これはノヴァランチ辺境伯領――元魔王国グラキエス領――から始まる革命の物語だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る