無限書庫の引籠り姫~少年陛下と始める領地改革~

神霊刃シン

プロローグ

第1話 春告げ草と山菜の王者(1)


「見て見て!『菜花ナバナ』の肉巻きよ♪」


 と私は料理を食卓テーブルの上に並べる。

 まずは春の苦みと甘みをそなえた菜花を使った料理だ。


 菜花とはつぼみの状態の『菜の花』のことである。

 『春告げ草』とも呼ばれるらしい。


 魔王国では、春の訪れを告げる野菜として親しまれている。

 独特のほろ苦さがあり、おひたしにするのが基本だ。


 だが、今回はアスパラガスの代わりとして、使用してみた。

 採れたてであれば、ベーコンをいていためるだけのシンプルな調理方法でもいい。


 イノシシの干し肉をもらったので、菜花に巻いて、じっくりと蒸し焼きにしてみた。

 菜花は十本ほどたばねているので、結構なボリュームになっている。


 それを食べやすい大きさに等間隔で切った。

 猪の肉に巻かれた緑色の菜花が、見た目にもあざやかで綺麗だ。


 黄色い絨毯じゅうたんのように咲き誇る菜の花もいいのだが、調理することで大地のエネルギーを感じる一品となる。シャキシャキとした歯応えも楽しい♪


 勿論もちろん美味おいしいのは茎の部分だけではない。

 つぼみの部分はスープに使ってみた。


 一口食べると強い香りが鼻孔をくすぐる。

 今度、機会があるのなら、ニラの代わりに餃子ぎょうざへ使ってみてもいい。


 折角【無限書庫】で手に入れた料理の知識だ。

 食の探求のため、活用させてもらおう。


「続いては、これ! ホタテのポワレ♪」


 元魔王国グラキエス領の冬の寒さはきびしい。

 極寒といわれる場所も存在する。


 内陸では春の訪れがあったとはいえ、海はまだ、その寒さが残っていた。

 しかし、寒い海で採れたホタテにはうまみが『ギュッ!』と詰まっている。


 まさにしゅんだ。当然、なまで食べてもいい。

 その場合は、ホタテ特有の甘みを堪能することが出来るだろう。


 また、焼くことで濃厚なうまみを凝縮させることも可能だ。

 つまり、ポワレにすることで『いいとこ取りにしてみた』というワケである。


 ニンジンとインゲンとの色合いもよく、想像していたよりも美味おいしそうだ。

 今回はいろどりのよい野菜をホタテに合わせることで、見た目も重視してみた。


 柑橘ソースを作り、ちょっと上品にホタテをいただく。ワインがあれば完璧なのだろうけど、残念なことに私も陛下も、お酒は飲めなかった。


 正確には、私の場合は飲むのをめられている。年齢的には問題ないのだが【無限書庫】にとらわれていたため、私の見た目は十代の姿のままだ。


 それが原因かもしれない。陛下の場合は、私を救い出すために魔法を使用した対価で、子供の姿になってしまった。


 本来は青年の姿だったのが、今は十二歳くらいの少年の姿になっている。

 魔力が半分以下になってしまった――とボヤいていた。


(まあ、私としては可愛いからいいけど♪)


 残念なことに味覚も子供に戻っているようだ。

 だが、次はそんなな陛下にピッタリの料理である。


「そして、自然薯じねんじょを使ったオムレツ♪」


 『山菜の王者』と呼ばれる自然薯。

 山菜をりに行った際、猪の肉と一緒に分けてもらうことが出来た。


 栄養豊富なため、疲れている陛下にはピッタリの食材だ。

 鶏卵と混ぜたことで、もっちりとした食感が味わえる。


 ただ、それだけだと食べている途中で飽きてしまだろう。

 なので、今回はきざんだネギを入れてみた。


 シャキッとした食感と一緒に、キュッとした歯応え。

 そこから出るネギの味がクセになる。


 ついつい食べ過ぎてしまうこと間違いなしだ。


「それからね――」「もういい」


 言い掛けた私の言葉を陛下はさえぎる。

 怒らせてしまったのだろうか? 私は不安になった。


 美味おいしい料理を食べれば、気難きむずかしい陛下とも仲良くなれると思ったのだが、ついつい調子に乗ってしまったようだ。


 確かに、冷静になって考えてみると、作り過ぎてしまったのかもしれない。

 しゅん――となって反省する私に対し、陛下は溜息をくと、


「冷めてしまう。早く食べよう……」


 折角、君が作ってくれたのだから――と言って席に着いた。

 どうやら、怒っていたワケではなく、私の長話にあきれていただけのようだ。


 確かに、育ち盛りの子供の前に料理を並べて、お預けにするのは良くなかった。

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